1.癒しが欲しい(監督生+ジャック+エーデュース+一匹)
ぴくっ。ぴくっ。
気になる音が聞こえる度に動く大きな耳。
「…………」
ふぁさ。ふぁさ。
感情の機微を如実に表す長毛でふさふさの尻尾。
「おぉ…」
「…さっきからなんなんだ」
耳と尻尾の持ち主であるジャックが訝しげに監督生を見下ろす。
監督生達は現在、オンボロ寮で勉強会を開いているところだった。メンバーはいつもの四人と一匹。成績優秀なジャックが監修役として付き合ってくれている。
最初誘った時は嫌がったのだが、なんだかんだ面倒見の良いお兄ちゃん属性のジャックは放っておけなかったのだろう。ちょっとエースとグリムが挑発したり(怒って帰られそうになった)、デュースが死にそうな顔で頼み込んだら流石に可哀想だと思ったのか渋々頷いてくれたのだ。
「いや、改めて見るとやっぱり凄いなって思って」
「あ?」
訳が分からん、と首を傾げたジャックの頭には立派な狼の耳がついている。人の耳はなく、獣のそれだけがある。
(だって、あっちじゃ獣人なんてファンタジーの世界にしかいなかったもんな)
この世界では当たり前の存在でも、自分からすると宇宙人並みに不思議な存在だ。
「監督生の世界には獣人はいなかったんだよなー、そういえば。お、ケイト先輩美味そうなの食ってんじゃん」
「このシルエット…いい!」
「ぐごー」
「まあね。そもそも魔法もなかったし」
ちなみに、今監督生達は休憩中だ。
床に転がっている監督生は休憩せずに勉強を続けている(真面目か)ジャックを見上げながら話しているし。
エースは椅子の背もたれを抱き抱えるように跨ってマジカメを見ているし。
デュースはさっきまでの憔悴さはどこに行ったのか目を輝かせてマジカルホイールの雑誌を読んでるし。
グリムにいたっては眉間に深い皺を寄せて寝落ちている。
「…見せもんじゃねぇぞ」
「分かってるよ。でも物珍しいんだもん。つい見ちゃうんだよね」
こことか。
そういって、指先で目の前にある尻尾の毛を撫でる。
無言の抗議なのかべしっとその尻尾が監督生の顔を叩いた。骨のある部分が当たって痛かった。
というか、
(骨、か)
そうだよね。作り物じゃないんだもんね。
毛皮の下には筋肉があって、血潮が流れていて、そりゃその中心には骨もあるし神経だって通っているんだろう。
(でも現実感ないんだよね。やっぱりちょっと)
人と獣という組み合わせが、どうしてもコスプレにしか見えないのだ。耳の付け根はしっかりジャックの頭に繋がっているし、尻尾も(流石にちゃんと見たことはないが)繋がっているはずだ。
元の世界との差異を感じて複雑な気持ちになっている辺り、どうにもホームシック気味なのかもしれない。
「? どうした、監督生」
獣人故に人の感情の機微には敏感なのか、監督生のアンニュイな雰囲気を感じ取ったジャックが勉強の手を止めてそう聞いてきた。
エース達もつられてこちらを伺ってくる(グリムは熟睡している)。
「ジャック」
「なんだ?」
「アンリビして」
「は…? ……! 俺のユニーク魔法を勝手に略すんじゃねぇ!!!」
実家で飼ってた犬を思い出して寂しいって言ったら、犬じゃねぇって怒りながらも狼になってじっと傍にいてくれた。凄く嬉しかった。ちょっと泣いた。10時になる前に帰っちゃったけど。
ちなみに勉強は進まなかった。
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