生徒会役員な主


クラスの女の子は甘々だと憧れを抱いた表情で言っていた。私の幼馴染みは砂糖菓子の様だと可愛らしい表現をした割に乱雑に本を私に投げ寄越した。私の親友は私からそれを取り上げ、私の口から出るにはNGワードを吐いて苦々しい顔で舌を出した。
結局私はその本を読んでいないが、 ベッタベタに甘い恋愛物だと容易に想像できた。
しかしその甘い一つの表現でここまで差が出るかとそっちの方に私の興味が向いてしまったから、普段本なんて読まない私が再びあの本を手にすることはもう二度とないだろう。


「ねぇ柳くん。柳くんが『ベタベタに甘い』を別の言い方するなら何て言う?」

生徒会室でいつもの様に涼しげな表情で作業していた彼に問いかければ、何のことだとでも言う様に彼は顔を上げて私を向いた。

「クラスの子たちが恋愛小説を色んな表現をしたの。それを私なりに纏めたら『ベタベタに甘い』だったのだけど、柳くんなら何て言うのかなって思って。」
「お前はその小説を読んだのか?」
「読んでないよ。読む前にみんなの感想の方に興味が向いちゃった。」
「瀬川らしいな」

これは恐らく貶されているのだろうが、私も自覚しているから言い返すつもりはない。それよりも成績優秀な彼の模範解答が聞きたい。会長あたりに聞けばまともな回答が来ないのは目に見えている。

「俺はその小説を読んでいないからどう表現すれば良いのか分からないな。」

まぁ、そうだよね。私もみんなの話を総合してあの表現に至ったんだ、私のその表現だけではそれしかないよね。

「まぁ、私も本当にベッタベタに甘いのか分かんないしね」

ようやく私も手元の紙達に目を向ける。まとめて出すのやめてと言っても聞かない部活は予算減らしても良いんじゃないかなと思う。嫌になるほどの領収書の束に思わずため息をつく。

「瀬川」

呼ばれて首だけ振り向けば、さっきまで向こうで座って作業していた柳くんがすぐそばで立っていた。

「お前は『ベッタベタに甘い』恋愛をしたいと思うか?」

少し屈んで耳元で色っぽく囁くのはワザとなのか、心臓に悪い。あぁまだその話を続けるのかと思うのと同時に綺麗な顔を間近に見てドキドキしてしまう。

「俺は瀬川とならそれも良いかと思ったんだが」

顔を離し、私を体ごと柳くんに向かせられる。キャスター付きの椅子が二人分の重さで軋む音がした。


「瀬川はどうだ?」


低く艶っぽい声に色香を漂わす視線。

私は静かに目を閉じた。


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