通知表の話


「みんな通知表の数字ばっかり見てるけど、私は真っ先に担任からのコメントを見るよ」

瀬川に成績はどうだったか、と問えばそんな答えが返ってきた。俺の質問に対する答えとしては不適切だ。

「俺が聞きてぇのは数字の方なんだけど」
「別に見せても痛くも痒くも恥ずかしくも何ともないから見せるけど、私の見るなら丸井のも見せてよ」

俺だって今回は自信がある。だから堂々と出してやった。瀬川は意外そうに俺の行動を眺めながら互いの通知表を交換した。

「…なんでこんないいんだよぃ!」

言うと思ったとでも言いたげに瀬川はため息をついた。

「言ったでしょ?見せても痛くも痒くも恥ずかしくも何ともないって」

瀬川ってこんなに頭良かったのか?ともう一度手元のそれを見るとやはり並んでいるのは5と4のみ。上から順に555545455。意味わかんねぇ。

「丸井、成績の方は自信あったみたいだけど、生活態度の評価酷くない?なにこれ」

言われた事はズバリその通りで返す言葉もない。瀬川は、なんて見るまでもなく優が並ぶ。

「ってか!瀬川の担任からのコメント…『穏やかな性格で、周囲に思いやりを持って接し生活しています。係や当番への取り掛かりがはやく、また規則や期限など守るべきものを守るという姿勢が身についています。生徒会役員として学校全体のことにも関わり、強い責任感を持ち、大きく成長することができました。学習への意欲も高く模範的です。これからも活躍期待しています。』って…欄外まで褒めちぎられてんじゃん!模範的です、なんてホントに書かれるんだな、そっちにビックリだわ!」

瀬川ってそんなだっけ?部活中や休み時間の姿を思い出す限りそんな欠片も見えない。でも生徒会に選ばれてるわけだし、人望とかもあるし、そうなのか…?

「私も吃驚した。けどそれよりも嬉しかった。毎年同じ様な言葉で暈されてばっかりだったから、こうもはっきり書かれて嬉しくないはずないよ。いままで性格のことも書かれたことなんてなかったし、すっごく嬉しい」

瀬川の手から俺の通知表を回収して俺もそこをチェックする。瀬川と同じ担任だから当たり前だけど、俺のにも性格とか、普段のこととか色々書いてあった。自分の力いいところ…俺は悪いところもだけど、それがはっきりと書かれているというのは、俺のことをしっかりと見てくれてるんだなっと嬉しくなった。

「まぁとりあえず丸井は授業態度からどうにかしたら?」

柔らかく笑うその姿が、あぁ、穏やかな性格ってこれ見てなんだな、となんとなく理解した。今度は瀬川に勉強でも教えてもらおう。そうすりゃ俺の成績ももう少しましになんだろ。


back
top