美男美女コンテスト


「あー、なんで俺一次落ちなんだよ有り得ねー」

学祭のイベントの1つ、美男美女コンテストに応募していたらしい丸井がさっきからずっとそんなことを私の横でグダグダ言っている。いい迷惑だ。

「大体、なんで仁王が上がってんだよ、仁王より俺の方イケメンだろ」

何だろう、どこからつっこめばいいのかな。とりあえず私が一番気になるところをつっこませてもらおう。

「なんで仁王出てんの」

丸井はともかく、仁王が学祭だからとノリとかで出るとは思えない。

「雅ちゃんもエントリーされとるよ」

さっきからずっといた仁王がようやく口を開いたのは今の丸井に何か言うのは面倒なことになるって分かりきってるからだろう。正直私もつっこむ気あんまりなかった。しかしだな、私もエントリーされてる?おいおい勘弁してくれよ、と大袈裟に両手を挙げ首を横に振る。

「自薦他薦問わないってやつだしのぅ。この際2人で優勝するかの?」

なんの冗談だ。優勝って。

「最終審査は男女一気にやるんじゃと。最終まで残った男女ペアでアピール、雅ちゃん誰と組むん?」
「え、出ない」
「んなことさせっかよ!」

当然だろ、と堂々と言えば横から丸井によってどつかれた。

「俺が優勝出来なかったの仁王のせいだからな!仁王が優勝するためには瀬川が出ねぇといけねぇんだよ」
「いや、何でだよ」
「仁王も他薦組だからな、瀬川とペアじゃなきゃ出ねぇって言うんだよ」

…まぁ知らない人とペアは私も嫌だわ、いくら美男子でも。てか丸井美男子って感じじゃないから落ちたんじゃないの?丸井女顔だからかわいい寄りだし。うん、きっとそう。仁王のせいじゃない。

「いいから出てこいって!」

丸井に背を押されるも、私の足は重い。一緒に押された仁王は何故かやる気で、私の手を掴んで引っ張りだした。何でだよ。

「ほらさっさと行け」

勢い良く丸井に押され、一歩前に出たら不思議とまた次の一歩も前に出た。仁王に引かれ走り出す。振り返れば丸井がアホみたいに大きく手を振っていた。ため息をついていたのも見逃さない。



ステージ裏に行けば周りの子たちは着飾ってホントに優勝する気満々だ。その点私と仁王ときたら、いつも通り制服って、自分で言うのもなんだけど流石だ。

「私らステージ立って何すんの?」
「んー?雅ちゃんは椅子座っとるだけでええよ」
「ホントに私何もしないよいいの?」
「ええよ」

…ホントに座ってるだけだぞ私、いいのか。


「次は3年B組仁王雅治さん&瀬川雅さんペアです!」


仁王とステージの中央に歩き、目線で促され、用意されていた椅子に座る。私は何もしないぞという視線を仁王に向けるも、奴は客席にお辞儀をしてやがる。
それが終われば私の後ろに回った仁王。何する気だ。私は座ってるだけ、という約束なので後ろを見ることなく真正面の客席を見つめる。あ、丸井がいる。赤髪は目立つから探すまでもない。丸井の隣にいるのは仁王の部活でのパートナー、柳生くんだ。あの真面目そうな彼がこの仁王とパートナーなんてどんな組み合わせだ。幸村くんのセンスヤバいと思う。凄いという意味とおかしいという意味を込めて。
どこから取り出したのか、櫛を取り出して私の髪を弄りだす仁王。なるほど、着飾る必要はなかったわけね。ここで仁王の無駄な器用さを披露するために。仁王のことだから制限時間内にこれまた無駄な作品にしてくれるんでしょうね、私の髪を。さっきから頭が引っ張られる感覚がする。これ、今絶対頭ピンだらけだよ。絶対変な小技入ってるよ。

ちなみにステージに上がってから私と仁王は一言も喋っていない。その雰囲気につられてか、客席も静かだ。私としては美容院のお兄さん宛ら語ってくれてもいいと思うけど仁王のキャラじゃない。

満足したのか仁王は私の髪から手を離し、小道具たちをしまい始めた。是非どうなってるか見せてもらいたいが、どうせ鏡なんて持ってないだろう。今度は仁王は私の前に立った。横目に見た時間はまだ若干ある。配分ミス?まさか仁王がそんなことする筈ないと思っていたら目を手で覆われた。何、閉じろってってか。目を閉じればその気配を感じてかそっと離される手。そしてその手の気配はすぐそこを動いて頬に移り、そのまま下がり、顎を持ち上げられる。自然と開いた口を閉じるより早く、唇に何かが触れた。何か、なんて分かりきっている。ゆっくり目を開ければ顔を真っ赤にした仁王がいた。正直こっちの方が恥ずかしいわ、と言いたいところだけどそこまで真っ赤になられたら逆に冷静になる。観客呆然じゃないか。どうすんだ。いや、まぁ、時間ぴったりだからもう何もできないけど!


ステージから降りて、ステージ裏でとりあえず鏡を見る。あぁ、これはスゴイや。編み込みを右から左サイドまで回って編み込みお団子?なんかよく分からないけどアイドルがしてそうな髪型だ。

「…似合っとるよ」
「そりゃどうも」

そういえば最後に客席を見たとき丸井が爆笑してた気がする。何に対してかは知らないけどあとで殴っておこう。



結果を言うと何か優勝した。私座ってただけだけど、いいのか。

「3年生、同学年からの圧倒的支持率を受けての1位でしたが、理由とか分かりますか?」

この司会の子は見たことないし2年生なのだろうか。

「仁王の片想いなんて共通認識なんだよぃ」

ひょい、とステージに登ってきた丸井が司会の子からマイクを奪いそんな事を言う。

「ほれ、仁王。優勝したら言うんだろ?」

何となく全ての流れが分かってきた私は最早第三者目線で仁王を眺める。

「うっ…」

顔を上げた仁王と目が合うとそんな音を漏らされた。

「………雅ちゃんのことが好きじゃ。付き合ってくんしゃい」

まぁ、上出来じゃない?てかさっきのステージの段階で分かってたっていうか、前から分かってたというか。私にとっては出来レースっていうの?それじゃああまりだから、私からもお返しするとしようか。

仁王に一歩近づき、やたら高い位置にある首に腕を回し背伸びをして唇を重ねてやる。

「勿論」

仁王に微笑んでやれば再び真っ赤になってしまった。観客席からは謎の声援が飛んでくるけどまぁ、うん。やっとくっついたか、とでも言いたげな丸井にとりあえず一発入れといた。


正直私は優勝するほどの美女ではないけれど、仁王のおかげで今日だけは飛びっきり美しくなれた気がする。惚気じゃない、違う。


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