写し鏡


幸村くんと青学の1年生はまるで写し鏡の様だった。何もかも真逆なのに、似ていた。そんな話を幸村くん本人にすれば笑って真逆でもないし、似てもいないと否定された。勝利に固執する立海とまた別の意味で全国制覇を目指した青学。目指す先は同じく優勝だったのに何が立海を変えてしまったのだろうか。

幸村くんは天衣無縫状態の1年生の球を最終的には返していた。サムライドライブだったか、彼の必殺技の様なものも。割れた球だって彼には返せた筈だ。勝利に固執する幸村くんがそれを取らなかったのはなぜか。


立海は負けを知った方がいい。去年私は何も考えないでそんなことを言ったけれど、何も三連覇目前で負けなくたっていいじゃないか。

「俺は坊やより瀬川の方が俺に似てると思うよ」

私はそれに返事を返さなかった。言うまでもなく、私と幸村くんは似ているのだ。いや、私が幸村くんに似たのだ。

「柳くんにも前に言われた。私が幸村くんに似ているって」

私も変わってしまった立海テニス部の一員なのだ。常勝立海の掟に縛られ勝つ事に固執する。
思えば幸村くんが倒れてからだ。私が私でなくなったのは。

「幸村くんが不在の間、真田くんは無敗を誓った。じゃあ私には何が出来るかと考えればみんなが勝てるようサポートすることだけ。私は無敗の掟を肯定する事で、それができると思った」

無敗の王者。それを体現するのは私の中で正しく幸村くんだった。だから無意識的に私は幸村くんを真似ていたのだろう。

「昔の瀬川のことが好きだった」
「私も前の私が好き」

幸村くんはそんなことを私に伝えてどうするつもりなんだろう。私が好きだったという純粋な事実報告か、幸村くんに似てる今の私が嫌いということか、自分のことが好きではないと言いたいのか。

「私は今も前も、幸村くんは好きじゃない」

嫌いでもないけれど、好きにはなれない。テニスを楽しんでいた昔の彼も、勝利に固執する彼も、好きではない。ついでに言えば青学の1年生の彼も、好きにはなれない。

その理由なんて簡単だ。似ていると言われるけれど追いつけない、劣等感。


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