青色
青い海、青い空。なんてヒトは言うくせに、空を指差して海の色だという人をヒトはおかしな人と笑う。どちらも青と言ったのは誰だ。なぜ空と海の青は違うのに一言で青と表現してしまったのか。私はおかしな人と言われてしまった。
「俺はそういう考え好きだよ」
私のどうでも良い話に相槌を打ったのはクラスメイトの幸村だ。親しいわけではない。むしろクラスの中でのなんてことない会話しかしたことはない。そんな奴に何か話して、なんて無茶ぶりをされたから私もぶっ飛んだことを返したつもりだ。しかし予想外にも真面目に返されて気が抜けた。
「そういうってどういう?」
「空の色が海の色って話。」
「そう」
それ以上に私が返せる言葉はない。私は彼を知らないから何を話せばいいのかなんて分からない。というか、話したくない。もう終わりだと言うように立ち上がれば花壇に向いていた幸村が突然振り向いた。
「好きだよ」
まだ話を続ける気かと首を傾ければ幸村はこちらに歩み寄ってきた。
「俺、瀬川さんが好きなんだ」
瀬川さん。それは即ち私のことだろう。ここで他所の瀬川さんが出てきたらそれこそ吃驚だ。
「瀬川さんのヒトと違う価値観に憧れた。瀬川さんの見る世界を俺も見てみたいと思った。」
およそ前髪に覆われた私の目を確かに見つめ、幸村は言葉を続ける。
「好きなんだ、瀬川さんが」
ヒトと違う物の見方をするが、人並みの美醜感覚は持ち合わせている。綺麗な顔を近づけられれば流石に照れる。
「少しずつでいい、瀬川さんの世界を教えてほしい。少しずつでいい、俺のことを知ってほしい」
どうしたものかと悩む間もなく私は薄く微笑んだ。
私はきっとこの人を好きになる。