銀のペンダント
朝練のない平日はそこそこの時間に家を出て、そこそこの時間に学校に着く。そこそこ、と言っても電車もバスも自転車もいらない距離に家があるため、逆に時間に不安で教室に着けばクラスの半分も来ていないという時間だ。どこかの切原みたいにギリギリに来て真田に注意されるのは御免だ。
「おはようございます、瀬川さん」
「おはよう、柳生」
柳生はきっと時間を計算してこの時間に学校に着いたんだろうな、と考えると同時に私は切原と同レベルなんじゃないかと本気で頭を抱えたくなった。
柳生比呂士の場合
「瀬川さん、」
珍しく困った様な顔を露骨に見せる柳生に何?と先を促せばその表情のまま何かを取り出した。
「お誕生日おめでとうございます」
「え…あ、うん。ありがとう」
待って、私誕生日…?
「…もしかしてお忘れでしたか?」
「…誕生日なんて概念、失念していたわ。」
確かに今日は日付的に私の誕生日だ。そういえばこの間から友人たちに何がほしいとか訊かれてた気がする。適当に流した記憶しかないけど。
「で、その表情は何?」
「えっと…貴方にプレゼントを買ったのですが……。」
先程柳生が取り出したきりその手に収まる小さな箱。口を閉じた柳生にどうしたものかと私まで同じ表情になってしまいそうだ。
「…私プレゼント貰っといてあーだこーだ言わないよ?」
丸井じゃあるまい。
なんて私が笑いながら言えば柳生も小さく笑った。うん、これでよし。
「私が心配したのは瀬川さんではなく彼の方でして…」
ようやく口を割ったかと思えば…そんなこと
「シルバーアクセサリーを私が渡すのはどうかと思いまして」
「えっ、シルバーアクセ?」
「はい。仁王くんが見ていた雑誌に載っているのを見て貴方に似合いそうだと思い…」
「…それ頂戴」
友人の柳生から貰うんだ、誰にも文句なんて言わせない。
柳生はテニス部の中で友達としては一番仲が良い。仲間や恋人とはまた違うのだ。
「私のために選んでくれたんでしょう?大事にするよ」
「…お誕生日おめでとうございます、瀬川さん。」
再び言われたその言葉には今度はいつもの柳生の笑顔が添えられていた。
センスの良い銀のペンダントを真田にバレないように首から下げた。