映画のチケット


お昼ご飯を食べ終え、午後の授業の物を取り出そうと教室の後ろのロッカーまで歩いたが、そういえば先週片付けが面倒で国語の物を丸ごと持ち帰った気がした。気がしたままロッカーの鍵を開けずにそのまま3Bの教室に向かった。

「丸井ー。丸井ー。」

入口で呼びながら教室に入るがどうやら本人はいないらしく、返事がない。

「…なんじゃ」

仕方ない、と手近なたぬき寝入りをしていた銀色の尻尾を引っ張れば不機嫌そうに顔を歪められた。

「丸い豚どこ行ったか知らない?」
「知らん。」
「じゃあ国語の物貸して」
「じゃあってなんじゃ」

丸井に借りに来たのだがいないのなら別に誰でもいい。借りれたら正直真田でも良かったが、説教が待ってるのは勘弁なので真田と同じクラスの柳生も避けただけだ。蓮二と精市から借りるのは私の精神的に耐えられないので無理。ジャッカルのクラスは今日国語がない。丸井と仁王のクラスもないが、丸井が置き勉しない筈がないと思ってここに来た。

「俺はもっとらんよ」

でしょうね、と適当に流して丸井が帰ってくるまで仁王と話すことにした。



仁王雅治の場合



「そういえば君の相棒のセンスイイね」
「……………なんじゃ突然」

相棒を褒められて微妙な顔をしたことを後で柳生に教えてやろう。

「誕プレで貰ったんだけどさ」

制服の内側に隠れたシルバーを取り出そうとすればこれまた微妙な顔をする仁王。

「何その顔」
「…………いや」
「いや、じゃなくてさ」
「…何を血迷ったんか思うて」
「アホか」

制服のボタンに手をかけたとでも思ったんだろう、そういう風に見えたなら申し訳ないけど、ないわ。大事な事だからもう一回言うけど、ないわ。

「ね、これ可愛くない!?柳生のセンス良すぎて朝からテンション上がっちゃって」
「………お前さん誕生日のこと忘れとったじゃろ」
「うん!当然のように忘れてた!!」

自分でも吃驚だよ。年々誕生日が来るの早くなってる気がする。

「はぁ……。ほれ、俺からの誕プレじゃ」

仁王はちゃんと覚えてたのか、と適当に投げ渡された薄っぺらいラッピングに思う。

「開けていい?開けてるけど」
「後は煮るなり焼くなり参謀と使うなり好きにしんしゃい。」

…参謀と使う?
疑問に思いながら中を取り出せば見覚えのあるチケット。

「え、待ってこれ仁王が見たいって言ってて一緒に行くって」
「参謀に睨まれんのはごめんじゃ。俺は寂しくブンちゃんと行ってくるきに、楽しんで来んしゃい」

マジか。仁王はともかく丸井がこれはないわ。ないわ。


とりあえず映画のチケットは蓮二を誘うまでは制服の内ポケットの手帳に挟まっててもらうことにした。


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