初心者向け料理本


仁王と駄弁っているうちにもう直ぐ昼休みが終わる時間となっていた。丸井はいったいどこに行ってるんだ。諦めて忘れ物を自己申告するかと思って立ちあがった瞬間、視界の端に黒の中でとても目立つ赤色が映った。

「丸井、どうせ国語持ってるでしょ?貸して」
「瀬川!お前どこ居たんだよ!!」
「え、ずっと仁王と駄弁ってたけど」

なんでだよ!と理不尽に怒鳴られて思わず耳を塞いだ。仁王の嫌そうな顔が面白くて私が笑えば再び丸井に怒鳴られた。



丸井ブン太の場合



なんで私が怒鳴られなきゃいけないんだと丸井を睨み、国語の物を借りてさっさと帰ろうと思う。チャイムが鳴るまであと5分もない。

「これやる!」
「ありがとう国語の物貸して」

今私の中で最重要事項は誕生日よりも国語の物だ。せめてあるかないかを早く教えてほしい。なければ最悪蓮二に借りに行くつもりだ。

「瀬川、流石に丸井がかわいそうじゃ」

仁王に言われ嫌々嬉しそうな顔を作る。

「………ホント瀬川嫌だ、柳の奴なんでこんなのと付き合ってんの」
「キレた。私もうキレた」
「あ、参謀じゃ」
「え」「え」

仁王の呟きに二人で一斉にドアの方を向いたが蓮二はいない。

「…」
「…」
「昼休み終わっちゃうぜよー。」
「…………やる。」
「…………ありがと」

ピンク色の何とも女々しいラッピングされたそれは中々に大きく薄い。なんだこれ。気になってしまったのでシールを剥がし、中を取り出す。

「…」
「……お前さん多分嘗められとるよ」
「………いやまぁ仕方ないよね。」

仁王とこそこそ話していれば何やってんだよぃ、と声をかけられる。

「そうだ、言ってなかった。瀬川、ハピバ!」
「…ありがとう」

絵本のような初心者向け料理本をピンクのラッピングに戻し、ようやく借りることのできた国語の教科書と共に教室に持ち帰った。


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