たとえば、彼女との間に起こるすべてのこと


うちのマネージャーは優秀だった。王者と呼ばれる俺たち選手の練習も過酷だが、マネージャーにも王者であるというプレッシャーはのしかかる。仕事はできて当然。部員に厳しく、しかし他校には人当たりよく。選手とマネージャーの間には信頼は必須であるが、彼女は本当に頭が良くて、1年の時から今のレギュラーをメインに付かず離れずの関係を保ってきた。まるで未来を見透かした人付き合いだ。
恐らくそんな彼女だからうちの部員も惚れるのだろう。そういう話をしたわけではないが、なんとなく、そうなんだろうなと見ていて分かる。仁王には前に聞いてみたが、あいつは「俺とアイツは幼馴染み以上には成り得ん」と言い切った。俺の見る限りでは幸村とブン太も少なからず好意を持っているし、真田や柳、柳生も好感は持っているだろう。他人ヅラしている俺だって彼女に好感は持っている。
しかし俺とマネージャーの間には部活中の会話くらいしかなかったように思える。思い起こせることもあるにはあるが、彼女と一対一で話したことはないと思う。たとえば、彼女との間に起こるすべてのことは殆どがブン太が原因だ。ブン太が彼女のチョコを食べただとか、借りた教科書を返していないとか、そんなことで丁度居合わせた俺がブン太に巻き込まれるような形だ。柳と組まれて部員全員騙されたのはいい思い出だ。時々掘り返して部内を荒らすのはやめてほしかったが。
部活を引退してからというもの、マネージャーと話したことはもうない。ブン太もそうらしく、クラスに行っても居ないと拗ねていた。

「あ」
「よ、よう。マネージャー」

比較的クラスが近いから全く会わないということはないだろうと思っていたが、本当に唐突だ。

「久しぶり。次理科の移動教室?」
「おう、実験だとよ」
「へぇ、じゃあうちのクラスもそろそろ実験か。めんどいね」

はじめてのなんてことない会話も引退して関係が希薄になってからというのはどうなのだろうか。

「部活は引退したけどジャッカルとは友達として仲良くしたいな」
「え、あぁ、勿論いいぜ、改めてよろしく」
「こちらこそ、よろしく」

にっこり笑う彼女のこの表情を部活中に見たことはあっただろうか。



彼女が立海大附属高校に進まないと聞いたのはその後すぐのことだった。


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