できることなら離さない
全てが終わったら、私がノイトラを殺してあげるから、だから、それまで死なないでね。
あいつは堂々と嘘を吐きやがった。
結局生き残った十刃は俺とハリベル、グリムジョーだけだった。むしろこれでも多いのかもしれない。ハリベル曰く、『雅様が物理的に助ける事が可能な限りの人数が生きた』らしい。んなことはどうだっていいんだ。
全てが終わったんだろ、なんであいつは戻ってこねぇ。俺を殺しに来ないんだ。
*
雅は俺に『ウルキオラの次に好き』だと言った。ウルキオラがどれだけの位置にいるかは知らないが、少なくともウルキオラより下だと言われた。
普通に腹が立ったし、マジで殺してぇと思った。どっちを、なんて言わねぇ、どっちもだ。
「おい。」
「うっわっ!え?なに?ノイトラ?」
あれから俺は何かと雅に絡んだ。背後から現れれば、距離を取ろうとするその体に腕を回して引き寄せる。より近付いた距離に、自分でやった癖に気後れする。
「逃げんな。」
細い手足、肉付きの薄い腹、俺と同じ長い黒髪。いつもは絶対に意識しないそれが俺の腕の中で動きを止めた。
少し腕を動かせば、女を感じさせるそれが目に入る。あぁ、あいつも女だったな、とネリエルのことを思い出す。あいつよりも背が小さく落ち着きもないが、あいつよりもずっと女の顔をするこいつが嫌いだ。
俺の腕の中で首をひねり、俺を見上げる雅はいつもの顔とは違った。こいつは誰の為でもこんな顔ができんのか。
「ノイトラ、どうかした?」
「………。」
俺の今の感情を全部言ってやろうか。それとも今すぐ首を落としてやろうか。
「…俺はお前を殺したい。」
「…いいよ、とは言えないかな。」
当たり前だ。そんなの藍染サマに何言われるか分かんねぇ。
「今はまだ、ダメ。全部、全部終わったら、私を殺して?その代わりに全てが終わったら、私がノイトラを殺してあげるから、だから、それまで死なないでね。」
全てが終わったら。
それはいつの事なのだろうか。
さっさと殺してぇ。こいつに殺されてぇ。
この感情に意味があったとしても、それは俺たちが死ぬためのものだ。