卒業(現パロ/学パロ)


涙脆い私が泣かないくらいに卒業式は粛々と行われた。ただ卒業証書を受け取るだけの作業。例え最後に表彰なんてされても、嬉しくも何ともなかった。


クラスでの打ち上げにはクラス全員が参加した。
これは他のクラスからしたら有り得ないことらしかったけれど、他のクラスとは違って私たちは3年間特進クラスで同じだったのだ、思い出の数が違う。離れ難さが違う。
今の担任や1、2年の時の担任、他にもうちのクラスと縁のあった先生も呼んだそれは、コーラにお酒でも入っているのかと疑う程、みんなのテンションが高かった。
私は元々そういうキャラではないし、そういうテンションになれないタイプだから、みんなをなだめたりする係に徹していた。だからずっと私の隣の席には誰かしらいて、ずっと絡まれていた。

ずっと私に視線が向いていることには気付いていた。
私も彼の方に行きたかった。だけど、テンションの高い彼らが私を引き止めて、席を立つことすらできないまま、2時間が過ぎてしまった。タイムリミット、だ。
二次会、三次会は存在するけれど、私はもう帰らなければいけない。

委員長の一次会終了の挨拶で、みんなで外に出た。二次会に行く組が集まる中、私は駅への道を歩き出した。後悔が、後ろ髪を引く。


「帰るの?僕も帰るから、駅まで一緒に行こう?」

「うん。」


吉良くん、だ。嘘。なんで。
私の頭は混乱を極める。吉良くんなら友人たちとまだ残りそうなのに。帰ると言っても阿散井くんあたりに引きずって戻されそうなのに。

いつものように、吉良くんは私の右側を歩いた。教室での席順と同じで、いつも2人で歩く時と同じ方。
心做しか、いつもよりちょっとだけ近い距離に早足になってしまう。この時が永遠に続けばいいという思いとは裏腹に、足は進む。電車の時間もあるのだから、早くても遅くても、本当のタイムリミットは決まっているというのに。

クラスのみんなでいた2時間に、一言も話さなかったことが嘘のようにずっと会話が続く。会話の内容があまりにもいつも通りで、今日で最後なんて嘘みたいだ。


電車に乗った瞬間、2人の間に会話はなくなった。
一駅だ。私が降りる駅までは。
7分。あと7分で、本当に最後なのだ。
最後に何を言おう。ありがとうか、さようなら、か。それとも、好きだったよ、とか。言いたい事が多過ぎて、ダメだ。お互い無言で、目を逸らして、気まずい。どうやって、切り出そう。
目線を上げて見つめてみるも、泣きそうになって直ぐに目を伏せてしまう。


あぁ、着いてしまった。


「…それじゃあ。」

「うん、バイバイ。」


私の気持ちはきっと伝わらない。
好きだよ。好きだよ。好きだよ。
その思いだけを込めて、目を合わせて手を振る。
直ぐに私は電車を降りた。


back
top