仕立て上げられた青い春


「馬鹿と君下!」


わざわざ『と』を間に入れるのはそれがないと君下が馬鹿みたいになってしまうからだ。君下は馬鹿ではない。あの馬鹿といると馬鹿みたいだけれど、馬鹿だらけのこの聖蹟サッカー部で彼を馬鹿にカウントしてしまえば臼井先輩以外全滅する。


「事あるごとに喧嘩しない!君下は自主練するならする!大柴は帰るならさっさと帰れ!」


すぐそこで右往左往している佐藤と鈴木はいい加減学習して2人を止める術を覚えてほしい。
2人が取っ組み合いする真ん中に入るのが私ってどういう事だ。たまに臼井先輩もこの役割をするけれど、その度に君下がげっそりするから可能な限り私が入っているけれど、佐藤か鈴木が行けと思う。


「前から気になってたんですけど、瀬川先輩って大柴先輩と君下先輩どっちと付き合ってるんですか?」


空気を読まずに私に問う来須は何故、今、ここで、それを、聞いたのだろうか。私の思考が追いつかないので、とりあえず両手に掴んでいた君下と大柴の頭を来須に向ける。


「私が?このどちらかと?付き合ってるとお思いで?」


笑って問いかけてやればひぃ、なんて小さく悲鳴を上げながら新渡戸と白鳥に抱きついた。
私に頭を操作されるのが不服らしい君下は思いっきり怒りマークを装飾させて私の手を自分の頭からと、大柴の頭から下ろさせた。


「俺君下くんに賭けてるからよろしく!」


賭けてるってなんだ、と風間を睨めば、奴は既に視線を余所にやっていた。
君下の怒りマークは消えぬままで、同じく当事者であるはずの大柴は1人よく分からんみたいな顔をしている。ちょっと流石に腹立つな。


「俺は瀬川みたいな彼女嫌だぞ?」

「私のセリフだ馬鹿者。」


ようやく発した言葉がそれか。全く頓珍漢というわけではないけれど、そうじゃないだろう。


「そういえば瀬川、君下のことイケメンって言ってたよね?」

「待って!?臼井先輩それどこ情報!?」


臼井先輩の情報網が謎過ぎる。思わず先輩に掴みかかってしまった。
確か監督にそんな事を話した気もしなくもないけれど、まさか監督が話すとは思えないし、あの場に他に人影はなかった筈だ。いや、普通にない。どうなってんだ。


「おい。」


さっきよりも怒りマークの多い君下によって臼井先輩から引き剥がされた。後ろに引かれて、必然的に君下の方に私の体は傾いて、近付くことになる。君下はイケメンだからこの距離は心臓に悪い。君下自身もその距離に驚いたのか一瞬目を見開いて、そっと私を普通に立たせた。


「わぁ、すごい、なんだろ、ご馳走さま!」


この一連の流れを目の前で見ていた臼井先輩は物凄い、いい笑顔だ。
そしてふと周りを見れば、みんながこちらを見ていた。練習は遠の昔に終わっているのになんでみんなまだ居るんだろう。なんで水樹先輩は笛を咥えているんだろう。


「雅ちゃんにさっきの君下くんの写真送るねー!」


風間は馬鹿なのかな。風間が言い終えるより前に君下がダッシュで風間のケータイを奪いに行った。多分、私より先に臼井先輩に送られてると思います。
もうどうにでもなればいい、私はいい加減帰る準備を始める事にする。
風間と君下の追いかけっこはきっと不毛だろうから見届けることはしないことにする。





2018/07/16


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