漫画の当て馬に惚れる
「少女漫画の話ができる友達がほしい」
また何か言ってるよ、みたいな視線を部員から戴いているがいつものことなのでいい。そして私に構ってくれる人もいつも通りだろう。
「忍足は?」
「あいつは恋愛小説派だからダメ」
女友達は、ではなく部員を挙げてくるあたり流石だと思う。私の女友達の少なさは部員の中での共通認識になっているだろう。宍戸のせいで。
「漫画ならジローだけど、あいつ少年漫画専門だからね」
近くで話を聞いていた滝が優雅に笑うのに見惚れながらぼんやりと考える。
「私ね、少女漫画を読むと大体当て馬に惚れるの」
へぇ、なんてどうでも良さげな滝の声が耳に入り、当て馬って何だ、とでも言いたげな表情の宍戸が目に入る。何の話してんの、と向日も来たがスルーして宍戸の疑問に答えることにする。
「もし氷帝が舞台の少女漫画があったとしたらまず間違いなく主人公の恋愛のお相手は跡部、それはOK?」
宍戸が頷くのを見て私は続ける。
「で、当て馬に成り得るポジションにいるのは…跡部とライバルだった忍足、跡部の可愛がっている後輩の日吉、かな」
「跡部に近い奴ってことか?」
まるで見当違い、というわけではないけれど少し違う気がする。
「忍足は向日っていうパートナーがいるし諸々ポジション的には最高なんだけど、跡部と少しキャラ被りしてるからなれても当て馬番号2か3くらい。その点日吉は最高なんだよね、ツンデレという性格も跡部とまるで被らない、そして跡部に勝つ事を目標にしている。絶好の当て馬!」
「何の話か知りませんけど何か腹立ちました」
偶然にもタオルを取りに部室に入ってきた彼に叩かれた。先輩だろうと容赦ない感じとかね、当て馬にピッタリ。
「じゃあさ、瀬川の好きなタイプは日吉ってこと?」
にこっにこと微笑みながら言う滝に、え、と音を漏らす。なるほど、そういう解釈をされてしまうのか。でもあながち間違いでもないっちゃない。
「っ…部活始まりますよ!」
あぁかわいい。滝の言葉に顔を真っ赤にしてバタンとドアを鳴らして出ていった日吉にそんなことを思う。宍戸と向日はポカンとしているけれど、滝だけがやはりにこっにこと微笑んでいた。