バレンタイン
女性死神協会に呼び出された。それをそのまま吉良くんに伝えれば、行って来ていいですよ、と苦笑を浮かべながら言われた。吉良くんが入っている男性死神協会的に逆らえないという気持ちが半分だろうか。
どうも現世でのバレンタインというイベントをやりたいらしかった。発起人は言うまでもなく松本副隊長だろう。わざわざ義骸まで用意して、現世でチョコを作るらしい。何でも、現世の食べ物は現世で作るのがいい、とか。その辺の理屈はよく分らない。
「ごめんね、黒崎一護。」
「瀬川隊長まで!?」
「いや、私今四席だって前言ったよね?」
黒崎一護の自宅を借用するらしく、それを事前に伝える事もなく押しかけたらしい。本当にごめんなさい、だ。しかしまぁ、私にはこの団体を撤収させる力はないのでどうもできない。せめてものお詫びとして私は黒崎一護にもチョコを作ろうと思った。
*
「雅は誰にあげるのよ?」
周りの喧騒に我関せず、黙々と作業をこなしていたけれど、ついに松本副隊長に捕まってしまった。
「修兵と、市丸さん、隊長、吉良くん、三席と後は…浮竹隊長と日番谷隊長、弓親さん。黒崎一護には詫びチョコかな。」
松本副隊長は自分から聞いてきた癖に、興味無さそうにふーん、と音を漏らした。
「で、本命は?」
あぁ、そういうことね。
「本命…?あっ、ルキアの朽木隊長とか、砕蜂隊長の夜一さんの様な人のことだよね?それなら…」
「藍染隊長。」
「え?」
「雅さんには藍染隊長しかいません!」
桃は未だに私と藍染隊長を一緒にしたいらしい。
折角現世のイベントを知らないことにして、適当に誤魔化そうと思ったのに。
「そう言われればそうね。藍染は瀬川のこと好きみたいだし?」
あぁもう。
私が藍染隊長を惚れさせて藍染隊長を止めたと思っている人が多過ぎる。当たらずといえども遠からずであるけれど、曲解し過ぎだ。
「そろそろ答えを出してあげないと藍染に失礼じゃない?」
松本副隊長の言葉に何も言えない。
分かってる。分かってはいる。藍染隊長は私を助ける事に理由付けがいつしか無くなったと言っていた。藍染隊長の囁く言葉に色が付いていることに私は薄々気付いていた。
だけど、藍染隊長は、今はもう地下深くに封印された姿のまま入れられている。今更どんな感情を抱いたって遅いのだ。
それに、私が瀞霊廷を裏切って藍染隊長に付いたことをまだよく思ってない人もいる。
藍染隊長にどんな感情を抱いても、私が生きている間に藍染隊長と話す機会はもう2度と訪れないのだ。
2020/08/21