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「ねぇイザナ、デート行こうよ」
「は?」
ある日ふと思った。『イザナと今まで一回もデートをしたことがない』と。
以前のイザナは天竺のこととかで忙しかったのもあるし、何よりあの頃は私に一切興味を示していなかった。だからデートをしたことがないのは当たり前ではある。
でも今は違う。ようやくちゃんと付き合えた、恋人になれたのだ。ならば今からでも、せめて一回くらいはデートらしいデートがしたい。
だけどイザナは全然乗り気じゃないようだった。今だってあからさまに『面倒くさい』という顔をしてこちらを見ている。
「一回だけでいいからさ、ね?」
「……どこ行くんだよ。言っとくが、人が多いところは却下だからな」
「……ちょっとだけ時間ください。イザナが頷いてくれるところを探すから」
こうして私の第一回デート作戦が始まった。
◆◆◆ ◇◇◇
「で、オレを呼んだのか」
「だってイザナのことを一番知ってる人、鶴蝶しかいなかったからさ」
『大至急ヘルプ!』と連絡を入れたのが約十分前。急に連絡を入れてしまったというのに、鶴蝶はすぐに来てくれた。彼は本当に律儀で真面目な子だ。
近くの喫茶店に入り、それぞれドリンクを頼む。私はアイスティーを、鶴蝶は糖質を気にしてなのかアイスウーロン茶を注文した。もちろん、ここは私の奢りである。
「イザナが誰かと出かけるなんて、ほとんどなかったからな。オレもあんまり役には立たないと思うぞ」
「大丈夫。イザナの好みが少しでも分かればそれで……!」
「……それはオマエの方が詳しいんじゃねェのか?ずっと隣にいただろ」
「いやいや。あの頃の私は必死にイザナのことを追っていただけだから、正直今も分からないことが多いよ。心情の推測は多少できるけど、食べ物の好みとかどういうところが好きなのかとか、そういうのは全然分からない」
私の言葉の直後、ウェイトレスがアイスティーとアイスウーロン茶を持ってきた。それぞれの前にグラスが置き、「ごゆっくりどうぞ〜」という言葉を残してウェイトレスが去っていく。お互いがドリンクを一口飲んで一呼吸置くと、鶴蝶が口を開いた。
「オレが思うに、多分イザナはオマエと一緒に行くならどこでもいいと思うぞ。……まぁ、遊園地みたいな場所は流石に嫌かもしれないが」
「うーん……そうかなぁ」
「あぁ。イザナの横にずっといたオレが言うんだ、信じろ」
「……うん。ありがとう、鶴蝶」
とはいえ、私は恋愛経験が乏しい。思いつくところなんてベタで王道な場所くらいだ。だけどそこにどうしても行きたいわけではないから、どうにもイザナに提案しづらい。どこか、どこかいい所はないだろうか。
「ねぇ鶴蝶。もし彼女とデート行くなら、鶴蝶はどこに行く?」
カランカラン、とストローでグラスの中にある氷を鳴らしながらそう聞けば、一瞬のくぐもった声がして直後激しく咳き込む音が聞こえた。慌てて自身のグラスから向かいの席に座る鶴蝶に視線を移せば、飲み物が変なところに入ってしまったらしい彼が、胸部を叩きながらむせていた。
「えっ!?大丈夫?!」
「あ、あぁ……大丈夫、だ」
少しして咳も治まり、落ち着いた鶴蝶は、一つ咳払いをしてから私の質問に答えてくれた。
「オレ自身のことはあまり想像がつかないから、これといって思いつくところはない。……でも、きっとイザナは、オマエとならどこでもいいと思うぞ」
「うーん、そっか……」
正直煮え切らない回答ではあった。しかし、この回答が鶴蝶の、私を気遣った上での回答であることは分かる。
彼は嘘が苦手だろう。そして嘘をつくことも、きっと好きではない。だから、たとえ想像がつかないものを聞かれても、彼は精一杯の誠意ある回答を考え、返答する。その回答に文句などつけられない。そもそもつける気もないが。
「ありがとう、鶴蝶。まだこれといって場所は思いつかないけど、少し自信が持てたよ」
「そうか。……あー、その、なんだ。今更なことを言うが、オレよりも同じ女子に聞く方がよかったんじゃないか?例えばほら、ドラケンの彼女の。確かエマ、だっけか」
「あぁ、エマちゃん!確かにそうかも。イザナに関することを相談する、って時、一番初めに思いつくのが鶴蝶だったからさ。ありがとう、エマちゃんに声かけてみる」
「おう。いい場所が見つかるといいな」
「うん!よし、となれば早速連絡しよ。エマちゃん空いてるかなぁ」