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「あれ、万次郎くん?」
「そーだよ。なんか考え事でもしてたの? オレ、一回声かけたんだけど」
「えっ、そうだったの? ごめん、気づかなかった」
「そんな風に歩いてたらあぶねーじゃん。送ってってやるよ。駅までだろ」
「ありがとう」
考え事をしていて、周りのことが見えていなかった私を心配した万次郎くんは、私の手を離して隣に立った。ふいっ、とこちらに視線を投げてくる。多分「行かねーの?」と言っているのだろう。こうやって相手の考えを自然と察せるようになったのは、必要な言葉すらあまり言わないイザナの傍にいた結果なのかもしれない。
私が一歩前に踏み出すと、隣の万次郎くんも合わせて一歩前に踏み出した。そうして私たちは人混みの中、離れないように、見失わないように、時折隣を確認しながら駅へと向かった。
「そーいえば、ここで何してたの? ナマエの家、横浜だろ?」
「うん。実はね、エマちゃんとヒナちゃんに、デートで行く場所について相談してたんだ」
「あー。だからエマ、楽しそうに家を出てったのか。……で。デートって、
「うん。やっぱりデートだからさ、普段はあまり行かないようなところに行ってみたいな、とか思っていたんだけど……。私が知ってるのって、水族館や遊園地くらいしか浮かばなくて。だから、相談に乗ってもらってたんだ」
「ふぅん……」
「万次郎くんはさ、どこがいいと思う?」
話の流れて聞いてみてしまったが、これは困らせる質問だったかもしれない。まだ万次郎くんとイザナはぎこちない関係で、上手く噛み合わないところが少しある。そして抗争のこともあってか、時折言葉にできない気まずさのようなものを抱えているように思えた。でも万次郎くんはどこか
万次郎くんは、私からの質問を受けて「うーん」と小さく唸ったあと、小さく笑って答えた。
「場所はわかんねーけど、ナマエと一緒ならどこでもいいんじゃねーかなぁ」
「それ、鶴蝶にもエマちゃんたちにも言われたなぁ……」
そう呟いたところで、ちょうど駅の改札に着いた。ぞろぞろと、吸い込まれて行くように改札の中へと進む人混みから少し外れ、立ち止まっても問題なさそうな場所へと移動する。別れの挨拶をしよう、と思って万次郎くんの方を向くと、彼は小さな笑みを浮かべてこちらを向いていた。
「まだイザナのことは分からないことが多いけど……それでも、イザナがナマエのこと、すっげー好きだってのは分かる。だからさ、もう少し自信持ってもいいだろ」
「……うん。ありがとう、万次郎くん」
「ん。じゃあ、気をつけて帰れよ」
「うん。送ってくれてありがとう。万次郎くんも気をつけてね」
別れの挨拶をし、私は万次郎くんに背を向けて改札の中に流れ込む人混みに混ざり、改札の中へと入った。