3話




手に入れた緑色の鍵を使って扉を開け先に進む。
次に入った部屋は黄色一色の部屋だった。よく見ると、正面の壁は猫の顔の形になっていた。

「今度はまた、別の意味で変わった部屋に来ちまったな」

猫の顔の形をした壁の中央に小さな窪みがあったので近づいて見る。離れていた時にはよく分からなかったが、窪みは魚の形をしていた。
――なるほど、猫だからか?

一旦猫の顔の形をした壁から離れて周りを見る。どうやらここもまた、左右それぞれに通路があった。右と左、どちらに行くか悩んだが、直感で右の通路から調べることにした。
右の通路の先には物置のような小部屋があった。
緑色の鍵を取ったときに追いかけてきた頭のない黒いマネキンや、同じ形をした首から上までの彫刻、何が入っているか分からないレンガ色の、封をされた段ボール……。

「どこもかしこも不気味だな……。ったく、気が休まらねぇ」

そう独り言を呟いたのは、この部屋の不気味さに少し怯えを感じたオレの気を紛らわせるため。
元々特段お化け屋敷が苦手だとか、ホラーが苦手だとかではない。だとしても、オレだってまだまだガキな部分が多いのも事実で。流石にどこもかしこも不気味で気が休まらない空間を1人で探索していたら、気も滅入るし、怯えや不安、恐怖も少なからず抱いた。

部屋の入り口付近で立ち止まったまま辺りの様子を伺いつつ、何かおかしな点はないか、あのマネキンのように襲ってきそうな存在はいないか、もし襲われたらどう逃げるか、とさまざまなことを考えた。
きっとここでも何かが起こるのだろう、それを先に考えておけば多少は冷静なまま対処ができるはずだ。

注意深く見回していると、前方の床に亀裂ようなものが見えた。位置としては、ちょうど部屋の中央に並ぶ、首から上までしかない彫刻の一番奥辺りだ。

「……怪しい、よな」

直感がそう告げていた。
まずはあの亀裂の部分を調べてみよう。そう思って亀裂に向かって真っ直ぐ進む。すると丁度亀裂のある場所に着いたところで、部屋の明かりがぱちぱちと点滅し始めた。
体に緊張が走る。これから何かが起きるのだろう。
その場に立ち止まって周囲を警戒していると、背後から何か重いものが床を擦る音が聞こえた。
振り返ると、部屋の中央に縦一列に並んでいた首から上までしかない彫刻のうち、3番目の彫刻の目が赤く光った状態で床を擦りながらこちらに近づいてきていた。

「今度は彫刻かよ……!」

奴の動きをよく見る。こいつ、浮いたりとかしてねぇのか。
ふと足元にある亀裂に視線を向ける。この亀裂は床板の一部が、劣化のせいか腐っていて崩れ落ち、ちょうど小さな段差のようになっていた。
――そういうことか。
オレは急いで亀裂を跨いで、亀裂の向こう側へと移動した。彫刻はなおもゆっくりとこちらに近づいてくる。ズズ、ズズ、と床を擦りながら進み、やがて亀裂のある部分へとやってきた。

「っと……。やっぱな」

オレが予想した通り、彫刻は亀裂部分の小さな段差で躓き、床に倒れて割れた。これまでと同様に、先へ進むために必要なものがあるのではないかと思い、床に散らばった彫刻の欠片たちを見ていると、その中に青色の何かがあるのに気づいた。

「魚の尻尾、か?」

拾い上げると、それは魚の尻尾の形をした木製の何かだった。見た目としては魚を真ん中から真っ二つに切ったようになっている。断面を見てみると、何かに嵌められそうな窪みがあった。

「魚……。もしかして、さっきの壁の窪みに……?」

でもこれだけでは魚にはならない。もう半分である頭部分がどこかにあるはずだ。
――左の通路の先か。
手に入れた魚の尻尾をポケットに突っ込む。今さっき通った道は彫刻が邪魔で通れないので、もう一方の向かって右側の通路へと進もうと右を向いた。すると、近くの段ボールの上に灰色の花瓶が置かれているのを見つけた。

「何かあった時に戻ってくるか」

手元のバラを確認したが見た目には何も変化がなかったので、花瓶の存在だけを頭に入れてさっさと部屋を後にした。
中央に位置している猫の顔の部屋まで戻ると、そのまま真っ直ぐ前方の通路、つまり左側の通路≠ヨと進んだ。

「ここはまた広いな」

廊下の先には等間隔で壁が並んでいる大きな部屋があった。
並んでいる壁の真ん中には真紅のカーテンがかかっているが、一番近くの壁にはカーテンがかかっておらず、代わりに黒い棒人間のようなものが描かれていた。

その絵に近づくと、真っ黒だった棒人間の頭に二つの赤色の丸が現れた。それはまるで目のようだった。
棒人間の足元を見ると、そこには黄色い文字でかくれんぼ する?≠ニ書いてあった。

「かくれんぼ?」

黄色い文字から視線を棒人間へと移すと、そこには何もいなかった。
マジのかくれんぼかよ。
棒人間がいなくなった壁の隣へと移動すると、真紅のカーテンの下に黄色いボタンがあった。
あの棒人間は、この部屋に並ぶ壁に設置されたカーテンの裏に潜んでいるということなのだろうか。そして、この黄色いボタンが奴が潜んでいる可能性のある場所を示している、と……。

試しに黄色いボタンを押してみる。するとカーテンが上へと引き上げられ、一枚の絵が現れた。

「三日月?」

カーテンが一番上まで引き上がって絵の全体が見えた瞬間、部屋の明かりが数回点滅し、やがて明かりが消えた。
元々あまり明るくなかった部屋が更に暗くなり、周りがもっと見づらくなってしまった。

「今ここで何かに襲われたらひとたまりもねぇな……」

周囲を警戒しつつ隣の壁の前へと移る。ここにもあの黄色い丸があったので先ほど同様に黄色いボタンを押してカーテンを開けた。

「えっ……」

現れたのは女性の裸の絵、確か裸婦≠チて言うんだっけか。
なんとも複雑な気持ちでいると、絵の方からキャーッ!≠ニ女性の悲鳴のような声が聞こえた。そのすぐ後、バチンという音と共にオレの片頬に引っ叩かれたような痛みが走った。

「ってぇ!」

思わず声を上げ、ジンジンと痛む頬に手を当てる。何なんだよ、クソ。
その後、上まで上がっていたはずのカーテンが勝手に下に降りてきて、絵は再びカーテン裏に隠れた。
――こういうトラップもあんのか、なおのこと警戒しねーと……。

再び隣の壁へと移る。どうやらこの壁が一番端のようだ。
そっとボタンを押し込んでみる。するとバッとカーテンが上に上がった。
そこにあった絵は――

「これ、って……」

オレにそっくりな人が逆さになって落下している絵だった。
まるでオレがどこから落ちて死ぬことを予言されたような感覚になり、思わず鳥肌が立った。

「……次、に行くか」

先ほどの不吉な絵を忘れようと頭を横に振り、後ろに並ぶ壁へと移った。
結局後ろに並ぶ壁の端から二番目のところで棒人間を見つけ、無事魚の頭を手に入れたその頭と反対側の部屋で手に入れた尻尾を組み合わせ、魚を作って壁の窪みに嵌め込んだ。すると、沢山の猫の鳴き声と共に窪みがある壁が開けていき、やがて別の部屋へと繋がる細い一本道が出来上がった。

細い一本道の先には、先ほどの部屋と同じ黄色をした部屋があった。
違うのは、先ほどよりも広い作りとなっていて、左手には黒地に赤い線で目と口が描かれた不気味な絵があった。よく見ると、口から出ている赤い舌を左右に動かしている。なんで絵が動いてんだよ……。
その隣には真っ白な長方形の小さな絵が飾られていた。絵の他には、セーブポイントのような役割をしている羽ペンとノートが乗ったテーブルがあった。
中央にはまっすぐ延びる少し広めの廊下がある。廊下の入り口の右端には何か紙のようなものが落ちている。何かのヒントかもしれない。
そして右手側も少し奥行きのある空間が広がっており、壁には黄色で何か文字が書かれているようだった。

「取り敢えず、あのノートのところに行くか」

あの不気味な黒い絵は何だか嫌な予感がしたので、なるべく距離を開けようと壁伝いに進んだ。すると黒い絵はペッ≠ニ言う音と共にオレのすぐ横に何かを吐き出した。
どうやら奴は唾を飛ばしてきたようだ。よく見ると唾の付いた床が少し焦げたようになっている気がする。あぶねぇ、これに当たってたらどうなってたことか。

無事にテーブルに辿り着いたところで気づいた。バラが一回り小さくなった気がする。いや、確実に一回り小さくなっている。

「……もしかして、散った……のか?」

どう数えるのが正しいか分からないが、バラの花は何層かに分かれており、1層辺り4〜6枚程度の花びらがあった。それで数えると、全部で5層あったのが現在は4層になっていた。
つまりオレはどこかのタイミングで1層分、バラを散らしていたということだ。
ここで思い出したのは青色の部屋で見たあの張り紙の内容だった。

「そのバラ 朽ちる時 あなたも朽ち果てる=c…まさか」

先ほどまで痛みがあった片頬に手をやる。オレが痛みを感じるようなことがあったのは、あの裸婦を見た時だけだ。
つまり、オレはあの時バラを散らしていたということだ。なんで気づかなかったんだ。

「……まだ大丈夫、だよな」

来た道を戻り、この部屋に来るために通ってきた一本道がまだ残っていることを確認したオレは、急いでノートにメモをした。
かくれんぼは気をつけろ。下手するとバラを散らすことになる
バラは最大5層
バラが回復する花瓶は猫の顔をした壁の部屋の右側の倉庫にある
猫の顔の壁の部屋の先の部屋にある、黒い不気味な絵は唾を飛ばしてくるので壁沿いに歩いて距離を取れ

「こんなもんか」

前にメモをしたページの隣のページが空いていたので、そこに今分かったことを書き、ペンを置く。
あの不気味な絵はおそらく正面にいなければ問題ないだろう、絵が出てくることなんてなかったし。そう思ってオレは前方にある真っ白な長方形の絵を調べることにした。

「んー……真っ白……あっ、これ……数字か?」

パッと見は真っ白なその絵の中央をよく見ると、小さく赤色で何かが書かれていた。近づいて目を凝らし、よく見てみるとそれは赤字で書かれた数字の九≠セった。

「これ、どっかで使いそうだな」

手元にメモできるようなものがなかったので、再びあのテーブルの前へと戻り、ノートにメモをした。
前にある白い絵には赤字で数字の九が書かれていた。何かで使うのかもしれない

「こっちにはもう何もなさそうだな」

辺りを見回してこの空間には特に何もないことを確認すると、次の探索先である中央の廊下へと向かった。もちろん、あの不気味な絵と奴が吐き出した唾を避けるように遠回りをして。
廊下の入り口に着くと、まずは右端に落ちている紙を拾い上げて紙に書かれた文字を読んだ。

「忘れたころに……=B忘れた頃に、ってなんだ……?」

紙を片手に廊下を見る。この感じ、どこかで見たような……。

「あっ、もしかして」

この廊下のように横幅が広い廊下は何本か通ってきた。その中で一本だけ、気をつけなければいけなかった§L下があったのを思い出した。
それは、あの喋るアリがいた緑の部屋の廊下。はし に ちゅうい≠ニ書かれた張り紙に従い、廊下の端≠避けるように中央を歩いたことで、壁を貫いて現れたあの真っ黒な手を避けて通ることができた。
もしかしてこの廊下も……。

「……真ん中を通ってみれば、分かることだよな」

オレは深呼吸を一つすると、紙を片手に廊下の中央を歩き出した。
すると、廊下の終わりあたりであの黒い手が壁を突き破って現れた。予想通りだ。
廊下の先の空間は左右に広がっていた。左手側には黄色い扉があり、右手側には片足に赤い縄を括り付けられ宙吊りとなっている不気味な人形たちがいる、奥行きのある空間だった。おそらく見えないだけで奥に扉があるのだろう。

「……左からにするか」

宙吊りの人形たちがあまりに不気味で、それを避けるように左側の空間へと移動した。
扉の近くの壁には、黄色い文字でウソつきたちの部屋≠ニ書かれていた。扉を開いて中に入ってみると、そこにはさまざまな色の服を着た、真っ黒な子供の絵が飾られていた。左から、緑、茶色、黄色、白、青、赤と並んでいる。よく見ると、子供たちの絵の下には、黄色で何かが書かれている。
そして部屋の中央には黄色の扉が一つあった。

「うーん……」

緑色の服の子供の絵の下には石像の正面に立って 西に三歩 次に南へ一歩 そこが正解
茶色の服の子供の絵の下には石像の正面へ立って 東に四歩 次に北へ二歩 そこが正解
黄色の服の子供の絵の下には白い服が言っていることは 本当だよ
白色の服の子供の絵の下には石像の正面に立って 東に二歩 次に南へ二歩 そこが正解
青色の服の子供の絵の下には本当のこと言ってるのは 緑の服だけだよ
赤色の服の子供の絵の下には黄の服に 同意!

一通り見てから最後に黄色の扉を開き、中に入る。そこには部屋中に均等に並べられたタイルがあり、部屋の中央には白い男の彫刻が立っていた。
一歩入ってみるが特に何も起きなかったので、そのまま歩いて彫刻を調べる。すると、彫刻の胸部に文字が書いてあった。

なかまはずれが ひとりいる

「あの部屋は確かウソつきのへや≠セったよな。ってことは、誰か一人だけが本当のことを言ってる、ってことか……?」

再び子供の絵が飾られている部屋に戻る。こういうのは謎解きによくあるやつだ。誰か一人が嘘を吐いているから、それが誰なのかを他の人の発言から推理する。今回の場合は全員が嘘を吐いている前提で、誰か一人が本当のことを言っているということだ。

「ったくメモが取れないと……。ん?メモ?……そうか、もしかしたら!」

手に持っていた紙の裏側を見ると真っ白だった。あとは書くものさえあれば。そう思ってオレは急いで部屋を出てある場所へと向かった。

「……いけるか不安だったけど、いけたな」

戻った先はあのテーブルのところだった。そう、あの羽ペンをペン立てごと持っていけたら、拾ったあの紙の裏にメモができると考えたのだ。
実際にペン立てを持って離れてみると特に何事もなく持ち運べたので、そのまま来た道を戻り、再びあの部屋へと入った。

「こういうのは確か、一旦全員が本当のことを言っていると仮定して考えるんだよな……」

紙の裏に服の色と書かれている文のキーワードを一通りメモし、矛盾している子供を探す。

「青が仮に本当だとしたら、本当のことを言っている子供が二人になるから矛盾してる……。ってことは、青は嘘を言ってる。あとは……」

矛盾している発言にバツを付けていき、ようやく答えに辿り着いたオレは、メモをした紙を手に壁の中央にある黄色の扉の奥へと進んだ。