4話
石像のある部屋に入ったオレは、石像の真正面に立って東、つまり右に四歩、そして北である上に二歩進んだ。
辿り着いたところのタイルをよく観察してみると、角に指をかければ外せそうだった。かどに指をかけてタイルを外すと、そこには黄色で四≠ニ書かれていた。
「赤の九に黄色の四、か……」
ペンを置いてきてしまっていたので、忘れないように何回か脳内で反復しながら部屋を出ると少しだけ部屋の雰囲気が変わっていた。
ペン立てを取りに行こうとして扉の前から右手側に移動すると、床や壁に真っ赤な絵の具が着いているのが見えた。
「うわっ!なんだこれ……」
気になって壁の方を見てみると、飾られていた子供たちの絵全てに真っ赤な絵の具が付いていた。そして真実を言っていた茶色の服の子供だけ、何かでズタズタに引き裂かれ赤い絵の具で真っ赤になっていた。
茶色の服の子供以外の子供の下を見てみると、黄色で書かれていた文字の内容が変わっていた。
「ウソつき!=c…」
一人だけ真実を言っていた茶色の服の子供がズタズタにされていた理由はこれか。だとしたら報復がいささか恐ろしすぎないか。なんて思いつつ、オレはペン立てを持って部屋から出た。
ペン立てを戻し、ノートにウソつきたちの部屋でのことと数字を記載して再び廊下を通って奥のスペースへと戻ったオレは、後回しにした人形たちが吊るされている廊下の方を見た。
あれが本物≠ナなくてよかった。そう思いながらオレはその廊下に足を踏み入れた。
少し歩くと、前方に赤い服の人形が見えた。人形は触れたりして調べられるくらいの高さで吊るされており、黒い点と線で描かれたにっこり笑顔が不気味だった。
「……気持ち悪りぃ」
思わずそう呟き、急いで人形たちの間を抜ける。
抜けたその先には黄色い扉があった。扉の周りは緑の絵の具で塗られている。ということはこの先の部屋は緑、なんだろうか。
開けられるのかどうかを調べるために扉に近づくと、扉に何かが書かれていた。
「緑の丸掛ける赤い丸、足す黄色い丸……?」
扉には緑の丸×赤い丸+黄色い丸=?≠ニ書かれており、その下には三桁の数字を指定できるダイアルがあった。
計算式ってことは、それぞれの丸に当てはまる数字があるはず。そう考えたところでオレはこの部屋の中で見つけた数字を思い出した。
赤の九≠ノ黄色の四=B今までの探索で見つけた数字の色はこの丸の色と対応している。ということは、この部屋のどこかに緑に当てはまる数字が隠されているということだ。
「でもどこに……」
ふと来た道の方を見る。不気味な人形たちは相変わらず静かに吊るされている。……まさかこの中に隠れてたりするんじゃねぇよな。
「でも、調べてみるしかねぇよな」
何が起きても冷静に対処できるように。と深呼吸を一つして気持ちを落ち着けると、ちょうどあちこち調べられるくらいの高さに吊るされていた赤い服の人形のところへと向かった。
「改めて見ると、やっぱり不気味だな……」
赤い服の人形の前へ行き、意を決してあちこちを見てみる。しかし探している緑の数字はどこにもなかった。
「ったくどこに――」
ぼとり
「な、んだよ……!」
赤い服の人形から手を離し、次はどこを探そうかと考えていると、突然右手側から何かが落ちる鈍い音が聞こえた。ゆっくりそちらを向くと、先ほどまで高い位置に吊るされていた別の赤い服の人形が床に落ちていた。
驚きで一瞬その場で硬直したが、こうして落ちてきたのであれば何かあるのかもしれない。そう思ったオレは、落ちてきた人形に近づいてあちこちを調べ始めた。
「……あった、これだな」
人形の服に緑で小さく英数字で十二≠ニいう数字が刺繍されていた。おそらくこれが緑色の丸に当てはまる数字だろう。あとは三つの数字を丸に当てはめて計算するだけだ。
「えーっと、十八かける九は……一六二。そこに四を足して……一六六、か」
計算結果の数字を一桁ずつダイアルを回して入力すると、ガチャンと扉の開く音がした。
扉を捻って先へ進むと、沢山の木の置物が置かれた小部屋があった。中央には木の枝と、そこにぶら下がる一つのりんごが描かれた大きな絵がかけられている。
中央に置かれた木には絵と同じ、真っ赤なりんごが一つ付いている。近づいて少し触れると、ぽとりと手の中に落ちた。これは持っていっていいやつなんだろうか。
「……まぁでも、どこかで使うんだろうな」
オレはそのりんごを手に部屋を出て、来た道を戻った。あと調べていないのは一箇所だけ。廊下の先にあるスペースの左手側だ。
黒い手がなおも蠢く廊下の中央を急いで進む。途中で再び壁から黒い手が出てきたが、流石にもう慣れたのでそれほど驚きはしなかった。
最初にいたスペースまで戻り、左手側の方へと進む。壁に黄色い文字があったので見てみると猛 唇 注 意≠ニだけ書いてあった。文字だけで推測するなら、この先には獰猛な唇がいるから注意しろ、ということなのだろうが……そもそも獰猛な唇≠チてなんだよ。
そのまま先に進むと、突き当たりの左手側の壁に真っ赤な唇が一つ付いていた。
「え……?」
警戒しつつもその唇に近づくと、唇がハラ減った。何か寄越せ≠ニ言ってきた。オレが今持っているもので渡せるとしたら、木のりんごかメモ用紙に使っていた紙くらいだ。どちらを渡すべきか悩んだ結果、オレは手に持っていた木のりんごを渡すことにした。
壁の唇が入れろ≠ニ言わんばかりに開いているので、そこに木のりんごを投げ入れると、バリボリと噛み砕く音を鳴らしながら木のりんごを食べ始めた。
「うまい これ。おまえ きにいった こことおす。 おれの くちのなか くぐっていけ」
りんごを食べ終えた唇はそう言って大きく口を広げた。その口はオレ一人が通れるくらいの大きさがあり、奥まで進めそうに見えた。しかし上下にはサメのような鋭い歯が生えていて、入ったらこの歯でさっきのりんごのように噛み砕かれるような気もした。
「……ビビって立ち止まってたらダメだな」
オレは意を決してその口の中へと入っていった。
先へ進むと、目の前に大きな絵が見えた。それは赤い紐の付いた大きな刃が下に落ちている絵。まるでギロチン台のようだ。
どうやらここは細い一本道の廊下で、それは右手にずっと続いていた。道に沿って進んでいくと、左手側に飾られた大きなギロチン台の絵が少しずつ変わっていっているのが分かった。
「これ……刃が上に上がっていってないか……?」
嫌な予感がする。だけど、この先に進まなければ彼女を探すこともここから出ることもできない。大きく息を吐き、止まった足を再度動かす。絵に描かれた刃は進むにつれてどんどん上へと上がっていった。そして刃が上に上がった絵の前まで着いた瞬間、上からガラガラという何かが動く音と共に、絵に描かれていた刃と同じ見た目の巨大な刃が勢いよく上から落ちてきた。
「うわっ!!」
慌てて絵のかかった壁の方に飛び退けたことで間一髪避けられた。刃は床に突き刺さっていて、その衝撃により周りにはヒビまで入っていた。
床に突き刺さっていた刃がゆっくりと上に上がっていく。まさかもう一回落ちてくるのか……?
刃はゆっくりと上がっていっている、行くなら今しかない。オレは急いで立ち上がり、床を蹴ってその先の階段まで走った。
「っはぁ、はぁっ……。あ、あれに当たってたら……」
あの刃に当たっていたことを想像してゾッとしたオレは、急いで頭を振ってその想像をかき消した。
未だ乱れている呼吸を整えつつ階段を降りていく。すると突然階段の色が深紅に変わった。おそらくこれで黄色の部屋が終わり、次の部屋に移動したということなのだろう。
「次は赤色の部屋、か」
階段を降りきったオレは、視線の先に続く赤い廊下を歩き出した。