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「わぁ……! すごいねっ!」
「そんなはしゃいで、ガキかよ」
「つい一年前までは未成年だったんだから、まだまだ子供でしょ」
案内された部屋はいわゆる『和モダン』と呼ばれるテイストの部屋だった。落ち着いたベージュの壁紙が部屋全体に貼られていて、床は木目調で暗い茶色のフローリングだった。
玄関から入ってすぐの左手には綺麗にベッドメイクされたベッドが二つ並んで置かれている。足元辺りにかけられている帯、ベッドライナーも優しい茶色系で部屋の雰囲気とぴったりだった。
玄関付近で靴を脱ぎ、室内用のスリッパに履き替えて奥へと進むと、部屋に置かれたライトは和紙のようなものに覆われ、優しく柔らかい光を帯びている。ライトはベッドと居間をそれとなく遮る細い木の縦格子の前の壁際に背の高いものが一つ、そのライトの反対側の壁側に設置された、テレビの載った横長のテーブルの上と奥のテーブルに少し小さめのものが一つ、載っている。
テレビの向かい側には見た目からしてふかふかで柔らかそうなグレーの二人掛けソファが一つ置いてあり、その前には横長のローテーブルが置かれている。
「凄い綺麗! お風呂は確か温泉だったよね? 半露天風呂の」
「あぁ」
「私、ちょっと見てくる!」
「……ほんと、元気だな。アイツ」
イザナは風呂場へと向かった彼女を横目に、自身のキャリーケースを持ってベッドの方へと向かうと、ベッドライナーの上にキャリーケースを乗せて広げた。
大した量の荷物は持ってきていないため、ハンガーにかけなければならないものも無いが後に必要になるだろうものが幾つかあったため、それらを取り出してキャリーケースを閉じ、部屋の隅へと置いた。
「イザナ! お風呂凄かったよ!」
「あー、良かったな」
「イザナも後で見たら絶対驚くよ! あっそうだ、写真撮っとこ」
彼女は写真を撮るために『凄かった』風呂場へ再び向かった。イザナは部屋の中をぐるりと軽く見回すと、テレビの横に置かれていたチャンネルと手に取り、そのままソファに腰掛けてテレビを付けた。
テレビにはこの辺り一帯で放送されているのであろうローカル番組が映し出された。中継先にいる芸能人らしき男の人がマイクを片手に、森の中にある滝のことをレポートしている。その様子をさして興味もない様子でイザナが眺めていると、写真を撮り終えた彼女が風呂場から戻ってきた。
「写真は撮れたのか?」
「うん! もうバッチリ!」
彼女はカメラを片手にニコニコしながらイザナの隣に腰掛けた。ふかふかのソファに彼女の体が少し沈む。
テレビでは相変わらず滝の特集がされている。男の人が「凄いマイナスイオンを感じます!」と有り触れたコメントをしていて、イザナは更に興味を失った。彼が別のチャンネルにしようとリモコンを手に取ってテレビに構え、適当な番号のボタンを押した。
「どれもつまんねぇな」
「とりあえずさっきのテレビでいいんじゃない? 絵が一番涼しかったし」
一通りチャンネルを変えてみたものの、結局どれも特段面白いものはなかったため、彼女の提案に乗ったイザナが元の滝の特集をしていた番組へチャンネルを戻した。
ガヤガヤしたテレビの音が流れる部屋で、彼女はおもむろに隣に座るイザナの肩に頭を乗せた。それに応えるように、彼は空いている片手で肩に乗る彼女の頭を優しく撫でた。
「こんなに二人っきりになるのって、何だかんだ初めてだよね」
「そうだな」
「……なんか今、すっごい幸せ」
彼女はそう言って小さく笑い、自身が頭を乗せている方のイザナの手をそっと握った。彼がその手を握り返すと、彼女はまた幸せそうに小さく笑った。
テレビで流れていた滝の特集が終わり、画面がカラフルで明るい印象のバラエティ番組のスタジオに切り替わった。司会者の男性がゲストやレギュラー陣となんやかんやと話しては時折笑い声が流れる。
二人で過ごすいつもの休日とほとんど変わらないものだというのに、旅行先だからなのか、はたまた誰の邪魔も入らない状態で二人きりだからなのか、イザナもまた穏やかな笑みを浮かべていた。
少しして、イザナは彼女が自身の肩に頭を預けたまま眠っていることに気がついた。規則正しい呼吸をしながら眠る彼女の頭をそっと撫で、「だから言ったじゃねぇか」と呟いて小さく笑う。
その後、起こさないように気をつけながら彼女の身体をそっと起こし、自身の膝の上に彼女の頭を乗せた。いわゆる膝枕というやつだ。
「……ったく、幸せそうなツラしやがって」
そっと頬を撫でれば、彼女は少し声を漏らした後小さく笑った。それを見たイザナはすっと目を細めて薄く微笑み、背もたれに寄りかかって膝の上にある彼女の頭を撫でた。