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「おら、そろそろ起きろ」
「んぇ。……あれっ!? 私、寝てた?」
「間抜けな面して寝てたな。……それより、どっか行きてェんじゃなかったのか?」
「あっ、そうだった!」
「あまりのんびりしてるとすぐに日が暮れる。行くなら行くぞ」
二人はホテルを出て、とある場所へと向かった。その場所はこの辺りの観光施設では有名な施設で、たまにテレビでCMが流れるほどだ。そのため、その施設に行ったことはなくとも名前だけを知っている人も多いところだった。
施設はホテルがある駅周辺から少し行った先にあるので、地元のバスに乗って最寄りのバス停まで行く。降りたバス停から少し歩けば、目的地の施設――美術館の姿が見えた。
出入り口にあるカウンターで入場チケットを購入した二人は、それぞれチケットを手に持ってゲートをくぐり、美術館の中へと入っていった。
「ここから見ても綺麗だね」
「そうか?」
「うんっ! ほら、あそこの。庭の池にあるカーテンみたいなの、キラキラしてて綺麗」
窓の外から見える庭では、池のところにカーテンのように吊るされた透明のガラスたちが太陽光を反射して煌めいている。そのガラスたちと同じように瞳を輝かせた彼女は、どこかワクワクした様子であちこち忙しなく視線を向けてはイザナに声をかけていた。
そんな彼女を見ている彼は一瞬微笑んでから「そうか」と返した。
一番最初に二人が入った部屋は水の都ヴェネチアで造られているヴェネチアン・グラスの作品を展示しているところだった。
室内全体も中世の西洋を感じさせるデザインで、天井からは豪華なシャンデリアが吊るされている。そのシャンデリアもよく見ればガラスらしきものを纏っており、光を反射してキラキラと輝いていた。
「綺麗ー……」
彼女は部屋のあちこちを見ながら、ため息をつくようにそう呟いた。イザナ本人は大して興味はなかったが、彼女がその瞳を輝かせてあちこちを見て楽しんでいる様子を見て楽しんでいた。
「このゴブレット、すごい……。レースだよ? ガラスでレース模様を描くって、よく思いついたよね」
「そうだな」
「あっ、こっちはお皿かな。すごい細かい彫刻だね……手先器用なんだなぁ」
「職人は手先が器用じゃねぇと勤まんねぇだろ」
「それはそうだけど、そうにしたってすっごい器用だなって思うよ」
ゆったりと歩きながらヴェネチアン・グラスの展示を見終えると、次に向かったのは現代アートのようなガラス作品を展示している部屋だった。
部屋に一歩踏み入れれば、先ほどまでの中世のような雰囲気から一転し、白を基調とした現代的な雰囲気に包まれる。
部屋の左右にはカラフルなシャコガイ、またはイソギンチャクに見えるガラス作品が展示されていた。
「綺麗だね」
「そーだな」
「興味ないでしょ」
「お前以外にはな」
「な、なにそれ……! そういうこと突然言うのはずるくない?!」
「うるせーな。さっさと次行くぞ」
イザナからの唐突の甘い言葉に彼女が顔を赤くしながら声をあげれば、楽しそうな瞳で彼女を一瞥した彼が何事もなかったかのように彼女の横を通り過ぎて次の部屋へと向かって行った。彼女は一瞬その場で立ち尽くし、先に行く彼の背を見ていたが、我に返ってから急ぎ足で彼の背を追った。