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展示している部屋を一通り回り庭へと出る。庭には二人の他にも数組のカップルらしき男女のペアが散策していた。どうやらここは旅行に来たカップルには人気の場所のようだ。
確かに写真映えしそうな展示品が庭にも幾つかあるため、デートにはもってこいなのかもしれない。
彼女は先ほどの嬉し恥ずかしな一件を頭の隅に置き、太陽光を浴びてキラキラと輝くガラス作品を見て、時折インスタントカメラで写真を撮っていた。
「あちこちキラキラしてるね。なんかファンタジーの世界に来たみたい」
「あちこち反射して眩しいだけだろ」
「風情がないなぁ。……あっ、ねぇイザナ。そこ。そこにちょっと立ってくれない?」
突然の彼女からの指示に少し眉間に皺を寄せたイザナ。顔にはあからさまに『面倒臭い』という言葉が浮かんでいたものの、やれやれといった様子で彼女が指差した場所に立った。
そこは二人がこの美術館に訪れて最初の方で、彼女が窓越しに見ていたガラスのカーテンだった。
ガラスのカーテンは庭の池にかかった石造りの橋の左右に設置されていた。数百粒はあるであろうガラス玉が綺麗に垂れ下がり、まるで雨を結晶化したようだった。
今橋の周りには二人以外の人がいない。写真を撮るのであれば今しかなかった。
イザナが橋の中央に立つ。本人が綺麗なこともあり、特別ポーズを取らずともそこに立っているだけでそれはそれは画になった。絵画のような美しい画に彼女はファインダー越しに見惚れたが、すぐに我に返って写真を撮った。
「ありがとう、イザナ。すっごい綺麗だったよ」
「そーかよ。じゃあ次、お前な」
「え?」
「それ貸せ」
その言葉と共に彼女の手からインスタントカメラが取られる。彼女がインスタントカメラを取り返そうと手を伸ばしたが、それをイザナが捕まえて自身の方へと軽く引っ張った。彼女が少し前のめりになって一歩踏み出すタイミングで彼が体を横にずらす。そうして二人の立ち位置は綺麗に入れ替わった。
「大人しくそこに立ってろ」
「えっ、いや私は――」
パッと瞬くフラッシュ。その直後にジジジ、と独特の機械音が鳴った。撮られたということが分かった彼女は、自分がおかしなポーズで撮られたことに恥ずかしさを覚えて顔を少し赤らめた。イザナはそれを楽しそうに見ながらフィルムを巻くためのネジを回して再び構えた。
「次はちゃんと大人しくしてろよ。じゃねぇとまた変な姿で写ることになるぜ」
「うっ……わかった」
彼女の返答を聞いたイザナは、手に持っていたインスタントカメラを少しだけ持ち上げた。彼女は彼を一瞥してからガラスのカーテンの方を向いた。ガラス玉に反射する太陽光が眩しくて少しだけ目を細める。瞬間、フラッシュが瞬き直後にジジジ、と音が鳴った。
「次行くぞ」
「ちゃんと撮ってくれた? 変な風になってない?」
「問題ねーよ」
手に持っていたカメラを彼女に手渡し、一人先へと歩き始めたイザナ。再び置いていかれるのは嫌だと思った彼女は、急いで受け取ったカメラをカバンにしまって彼の背を追った。
「置いていかないでよ」
その言葉と共に彼女がイザナの手を取れば、歩みを止めた。紫の瞳が真っ直ぐ彼女の方へと向けられる。その視線に応えるように彼女が見上げれば、彼はふいっと顔を前へと戻して歩き出した。