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このホテル自慢の日本庭園を眺めながら食事ができるラウンジで、この先しばらくは食べる機会のなさそうな豪華な日本料理のコースを食した二人は、部屋へと戻る道で夕食について話をしていた。
「料理凄い豪華だったよね」
「あぁ。それに見掛け倒しじゃなく、味も良かったな」
「うん! あんな豪華で美味しい料理、この先中々食べられなさそうだし、もっと味わっておけば良かったかもー……」
料理は見た目は器から盛り付けまで全てが綺麗で、彼女は料理を運んできた従業員の女性に写真を撮っていいかどうかを確認した。従業員は「構いませんよ」と許可をしてくれたので、彼女はインスタントカメラで自身とイザナ、それぞれの料理の写真を撮った。
料理の味は見た目に引けを取らないくらい美味しく、量は二人がお腹いっぱいになるほどのたっぷりな量だった。おかげで二人とも大満足していた。
ラウンジは二階で二人の部屋は四階のため、多少距離がある。そのため二人は少しゆっくり歩きながら部屋に向かっていた。時折廊下の窓から見える、ライトアップされ始めた日本庭園を眺め、彼女がカメラで写真を撮りながら部屋へと続く廊下を歩く。
彼女がキラキラした瞳でイザナを呼んでは外の風景を指差しながら「すごいね!」とはしゃいでいた。彼はそんな様子の彼女を愛おしそうな目で見ながら付き合っていた。
「ふー……とうちゃーく」
「ったく、お前あっちこっち行き過ぎだろ」
「滅多に来れないところなんだから、見れる時にあちこち見たいじゃん?」
「……あ。なぁ、ナマエ。風呂どうする?」
部屋に戻って来る頃には、いつもであればお互い夕食が終わっている時間になっていた。イザナから風呂について問われた彼女は、少し唸ったあとに「お風呂溜めてから入る」と答えた。
「分かった。なら先に溜めてこい」
「はーい」
彼女は早速風呂場へと向かうと、空っぽの半露天風呂に湯を張る準備を始めた。
部屋にいるイザナは、テレビの前のソファに腰掛けて手元のリモコンを操作しテレビを付けた。付いたテレビでは二人の地元でも放送されている夜のゴールデンタイムにやっているバラエティ番組が映し出された。
少しして彼女が風呂場から戻ってきた。彼女はそのままイザナの隣に腰掛けると「十分くらいしたら一回様子見てくる」と声をかけた。
「楽しみだね、お風呂。きっと景色が綺麗だと思うんだー」
「一緒に入るか?」
「えっ?! あ、えっと……」
「……冗談だよ。俺はお前の後に入るから、風呂が溜まったら先に入ってろ」
「――わかった」
彼女は一瞬何かを言いかけたが、それを飲み込んで返事をした。その様子をイザナは見逃さなかったものの、敢えて何も言わずに気づいていない振りをしてテレビを眺めていた。
それから少し経って、彼女が「お風呂の様子見てくる」と言って再び風呂場へと向かった。どうやら風呂は無事溜まっていたようで、戻ってきた彼女は「お風呂溜まってたから入ってくる!」と言い、少し浮き足立った様子で自身の荷物が入ったキャリーケースの方へと向かった。
「じゃ、お風呂行ってきまーす」
自身の着替えや寝巻きを抱えた彼女が、ソファに座るイザナにそう声をかけて脱衣所へと消えて行く。それを横目で確認した彼は、ソファの肘置きに肩肘をついて適当に流していたバラエティ番組を眺めていた。
一番風呂に入った彼女は、サッとシャワーで体を流してから楽しみだった半露天風呂にゆっくりと入った。
少し熱めのお湯が足先に触れる。一瞬入るのを戸惑ったものの、そのままゆっくりとお湯に片足を入れ、片足が底に付いたところでもう片足を入れる。両足が入ったところで今度はゆっくりと湯船に身体を沈み込ませていった。
「はぁ〜……気持ちいい〜……」
思わずそんな声が出てしまうくらい、湯船が気持ち良かった。窓までゆっくりと進み、窓辺のところにそっと両手の指をかけて外の景色を眺める。夜景を楽しむために開いた窓からは夏の夜特有の少し生温い風が優しく吹き込んできていて、まだ濡れていない彼女の髪を優しく揺らした。
「……どうせなら、一緒に入りたかったなぁ……なんて」
「だったら最初っから素直にそう言えばいいだろ」
「えっ?!」