太陽と風鈴




ギラギラと輝く太陽が空の一番高いところにいる。空から降り注ぐ日光は眩しいなんて言葉じゃ足りないくらい強く、そして熱かった。

「あ゛ちー……。暑いよー、タカちゃんー……」
「暑いって言ったら余計に暑くなんだろ……」

ちょっとした買い出しのために外に出ていた三ツ谷と八戒は、この炎天下の中、帽子も傘も身につけずに熱を跳ね返し続けるアスファルトの道を歩いていた。
荷物が荷物だったのでバイクで行くことが難しかったため、仕方なく徒歩となったのだが、やはりこの時期のこの時間帯に徒歩で外に出るのはかなり厳しいもの。どれだけ元気がある若者の二人であってもやはりこの暑さには敵わない。
茹だるような暑さと頭を揺らすけたたましい蝉の鳴き声を全身に浴び、溶けそうになりながらも目的地である三ツ谷の家まで歩いていると、少し離れたところからチリン、と涼しげな音が聞こえた。

「ん……?」

微かだったその音は、うるさい蝉の鳴き声の中を真っ直ぐ貫いて八戒の耳に届いた。彼の前を歩く三ツ谷は気付いていないのか、汗を滴らせながらも家へと歩いていた。
チリン、と再び音がした。目の前にいる三ツ谷が何も反応していないということは彼には聞こえていないということだろう。だが今、確かに音が聞こえた。涼やかで透明感のある音――。

「……まただ」

チリン、チリン。その音は三ツ谷の家に向かって歩いていくに連れてどんどん音が明確に聞こえるようになった。
八戒は音の発生源を探すために歩きながらあちこちを見た。するとある家の前で足が止まった。

チリン チリン

「これだ」

立ち止まった家は古い平家だった。木の塀で囲われたそこはちょうど家の庭で、奥には某国民的アニメで描かれていたような縁側が見えた。
先ほどから聞こえていた音は、どうやらその家の縁側の上のところに吊るされた風鈴から発されていたもののようで、八戒が見ている間も風に揺れて時折チリン、と鳴っていた。
この茹だるような暑さの中、涼を感じさせるその音に癒されてついその場でぼんやりとしていると、視界の下側に何かが見えた気がした。気になってそちらに視線を移すと、そこには同い年くらいの女の子がいた。彼女は縁側よりも少し奥の、ちょうど日陰になっている部分におり、その近くの柱を背もたれにして本を読んでいて八戒には気づいていなかった。
彼女の髪が常時小さく靡いているので、おそらくどこかに扇風機か何かがあるのだろう。涼しげな格好をして本を読んでいる彼女を見た八戒は、少しの羨ましさと一緒に何かむず痒いものを胸に感じた。

「……なんだろ、これ」

今まで感じたことのないソレに疑問を抱きつつも、こちらに気づかず本を読んでいる彼女を見つめていると突然背中を叩かれた。
驚いて振り返ると、そこには少し怒った顔をした三ツ谷が立っていた。

「お前何してんだよ。さっさと帰るぞ」
「ご、ごめんタカちゃん」
「何見てたんだよ。なんか気になるもんでもあったのか?」
「あぁ、うん。さっき風鈴の音が聞こえたから気になって探してたんだけど……そしたらこの家の風鈴の音だったみたいで、それで見てたんだ」
「ふぅん。で、目的の風鈴は見れたんだろ。ならさっさと帰るぞ。いつまでもこんなクソあちぃ外にいたら溶けちまう」
「うん。そうだね」

そうして二人はこの暑さから逃げるように、早足で三ツ谷の家へと帰った。

「……さっきの人、大きな人だったなぁ」

本を閉じ、先ほどまで人が立っていた方を見る。そこにはもう誰もいない。
彼女は本を読んでいる際にちらりと見た、背が高い男の姿を思い出した。一瞬だけだったのであまりよく覚えていないが、青空にも映える綺麗な青色の髪がとても印象的だった。

「ここら辺の人なのかな」

また会えるといいな。そう呟いて彼女は閉じた本を開き、読書を再開した。

チリン

太陽に照らされ、キラキラと輝く風鈴が優しく鳴った。