12
お互い身支度や片付けを終えたところで時刻は九時四十五分。チェックアウトの時間的にもちょうどいいということで荷物を持ち、二人で部屋を出た。イザナが部屋の鍵がかかっていることを確認し、その場を離れる。
エントランスで鍵を返却した二人は、今日見る予定だった土産屋を覗くことにした。
「ねぇ、お土産どれがいいかな? やっぱ食べ物?」
「アイツらはそれがいいかもな」
「そしたらー……あ、これがいいかな。あとは私の家族にも……」
何軒か店を回り、ここの地名が付いてまんじゅうを二箱買う。一つはイザナの、もう一つは彼女の家用だ。
帰り際の目的も果たしたため、二人は駅へと向かった。電車を待つホームには二人と同じように旅行カバンを持った観光客たちが多くいた。電車がやってくると、電車の中に人が吸い込まれていく。あっという間に二人を含む多くの観光客たちで一杯になった電車はプシューという音を鳴らしてドアを閉めて走り出した。
「楽しかったね、旅行」
「そうだな」
「また来ようね」
「……気が向いたらな」
「うん」
相変わらず素直ではない彼の言葉に、彼女が笑う。ガタンガタンと揺れる電車が二人の初旅行地から遠ざかっていく。彼女は少しの寂しさを抱きつつも、もう一度ここに二人で旅行に行こうと改めて思った。
* * *
「ただいま」
「ニィおかえり!」
「おかえり! 土産は?!」
イザナが家に帰宅すると、二人の兄妹が待ってましたと言わんばかりの勢いで居間から玄関へと駆けて行き、勢いそのままに彼を出迎えた。
彼はあからさまに面倒臭そうな顔をしながらも、自身の片手に提げていた家族への土産を二人に渡した。
「やったー! これなに?!」
「カステラみてーなまんじゅう」
「なにそれ、ウマそう! 早く食べようぜ、エマ!」
「うんっ! ……あ、ニィ」
マイキーが土産を片手に一足先に居間へと戻る。その後を追って戻ろうとしたエマがふと立ち止まると、イザナの方を振り返って声をかけた。
「楽しかった? ナマエとの旅行」
その問いかけに、イザナは笑って返答した。
「あぁ、楽しかった」
その笑みはとても優しく、そして幸せそうだった。
それから数日後、彼女が現像した写真を持って佐野家を訪ねてきた。現像された写真の中のうち、彼女がガラスのカーテンの中央にかかる橋の上で、少し戸惑った表情をしながらカメラの方に手を伸ばしている写真を手に取ったイザナは、彼女が気づかないうちにその写真をそっと自身の手元にある写真の中に紛れ込ませた。
彼女が帰宅した後、イザナは自室に戻って手元にある写真を見返していた。彼女が撮ったイザナの写真やイザナが撮った彼女の写真がある中に、紛れ込ませていたあの写真があった。
「……間抜けな顔」
そう笑ったイザナは、その写真を一番上にした状態で机の上に写真の束を置いて部屋を出た。