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彼女が佐野家に居候を始めて数週間が経った。相変わらず抜け落ちた記憶は戻らなかったが、家での生活にも慣れてきていて、最近は三人の祖父である万作、そして末の妹であるエマと共に食事を作ったり、家の掃除をしていたりしていた。
「ナマエ見ろよこれ! コンコルド! カッケーだろ!」
「飛行機? かっこいいね」
「だろ!?」
万次郎がキラキラと輝く瞳をしながら見せてきたのは、彼が一か月かけて制作したコンコルドのプラモデルだった。彼女はなぜかそのプラモデルが妙に気にかかり、それを片手に楽しそうに走り回る万次郎を見つめていた。
――なんだろう、なんか気になる。
彼女の心配をよそに、万次郎は廊下へ飛び出して行った。それに彼の友人である場地や春千夜が着いて行き、彼女は彼らの後に着いて行った。何故だか酷い胸騒ぎがしたのだ。
廊下に飛び出した万次郎は、タッタッと駆けて階段まで向かった。一か月かけて完成したプラモデルを友人の彼らに自慢しつつも「勝手に触るなよ」と言いながら、二階にある自室へと向かう万次郎の姿を見て、彼女は思わず駆け出した。
「わっ――」
「危ないっ!」
その瞬間は、まるでスローモーションだった。階段を昇っていた万次郎が、足を滑らして真っ逆さまに落ちていく、それを驚いた顔をして見つめることしかできない友人たち、その中で一人だけ、まるで万次郎が落ちることを知っていたかのように駆け出していた彼女。
駆けだした彼女の体感としては、それら全てがゆっくりと、一秒間を何倍かに引き延ばしたかのようにゆっくりと、進んでいるようだった。
「いっ――」
「イッテーッ!」
階段から落ちた万次郎は、両手を広げて受け止めた彼女により、尻もちをつく程度で済んだ。しかし彼を受け止めた彼女は、落ちてきた勢いと万次郎の体重によってかかった重力に耐え切れず、そのまま後ろに思い切り倒れた。そのせいで、彼女は後頭部を強く打ち付けてしまった。
「大丈夫か?!」
「いつつ……大丈夫だよ。ちょっと勢いよく打っちゃっただけでね、問題ないよ」
「ご、ごめんナマエ。オレのせいで……」
「大丈夫だよ。これでも私、結構丈夫なんだよ。それより万次郎君は怪我とかない? 大丈夫?」
万次郎を抱えながら起き上がった彼女は、不安そうな顔をして自分の顔を見ている彼の頭を撫でた。周りにいた彼の友人たちも皆不安そうな、心配をする表情で彼女を見ていたので、彼らにも「大丈夫だよ」と言って頭を軽く撫でた。
だがこの時、彼女には一つ、大きな変化があった。それは見た目では分からない、彼女にしか分からないことだった。
この変化に、内心彼女はとても戸惑っていた。だがこれを今、表に出すわけにはいかない。そう思って彼女は何事もなかったかのように笑顔で「大丈夫」と言っていた。
彼女に起きた一つの変化、それは『失っていた記憶を取り戻したこと』だった。