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「またあの『夢』か……」

 目を覚ました彼の第一声は、酷く疲れた声色だった。
 ここ最近、彼はずっと同じ『夢』を見ていた。夢の内容は、顔にモヤのかかった女性が、自分を突き飛ばした直後、目の前で乗用車にはねられ死んでしまう。そして彼女の亡骸を抱いた自分が、大雨の中子供のように大泣きしている。というものだった。
 正直後味の悪い夢だった。だがどうにもその夢が気になって、ここ最近はふとした時に夢のことを考えていた。

「はぁ……」
「真一郎くん、どうしたの」
「あぁいや、別になんでもねーよ」

 一緒に働く後輩から声をかけられた真一郎は、そう返答して笑いかけてから作業に戻った。
 少しして、入店を告げる音が店内に響いた。その音に最初に気づいたのは乾だった。だがちょうど手が離せない状況だった彼は、近くにいる真一郎に「客が来た」と声をかけた。真一郎が接客のために、作業用の手袋を外しながら、作業場から店内に出た。

「いらっしゃいま――」

 来客の姿を見た真一郎は、目を見開いてその場で固まってしまった。だがその人は彼の心情に気づかないまま、後ろを振り返った。その姿を見た真一郎は、片手で口元を押さえながら静かに一粒の涙を流した。