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十年以上経っての再会は、とても寂しいものだった。彼女がずっと一途に待ち続けていた彼は、彼女のことをこれっぽっちも覚えてはいなかったのだ。そればかりか、あろうことか彼女の首を絞めようと手をかけた。
それでも、彼女は動じなかった。普通なら忘れられていた寂しさと、手をかけられそうになった悲しみに打ちひしがれるところだが、彼女は再会を喜び、彼が生きていたことの嬉しさに涙を滲ませたのだ。
それでも彼女は次の日もベンチに座っていた。再び彼がやってくるかも、通りかかるかも分からないのに、彼女はベンチに座って彼を待っていた。
来る日も来る日も待ち続けて、冬になり、ついに年を越した。都会では珍しく、雪が降っていた日のことだ。相変わらずベンチに座って彼が再び公園の近くにやってくるのを待っていた。
「――ナマエ」
彼女が跳ね返るようにベンチから立ち上がった。辺りを見回して声の主を探すと、公園の中にぽつんと立てられた街頭の下に、待ち続けていた姿があった。
「え――どうして、私の名前……」
名前を呼べば、それに応えるようにその人は彼女の元へと歩いてきた。そして彼女の前で立ち止まると、目の前で片手を上から少しだけ下に動かし、『自分よりも小さい』ことを示すジェスチャーをした。
「やっぱり身長は、オレの方が高いな」
「それ、は……」
彼女はその言葉に戸惑った。この言葉は、彼女がずっと待っていた『男の子』が、昔彼女に向けて言った言葉だったからだ。
「ずっと、ここで待ってたのか」
「……うん、待ってた。だって私には、それしかできなかったから」
彼女がこのベンチで待ち続けたのには理由があった。それは、彼女がここから動くことができなかったからだ。そして動くことができなかった理由は、彼女がこの公園、それもこのベンチに囚われ続けている幽霊だからだ。
彼女は、彼に対する未練によってこのベンチに縛られた呪縛霊なのである。
「なぁ、オレの名前、分かるか」
「え、と……」
「……オマエ、いつからここにいた」
「分からない。覚えているのは、ずっとあなたにそっくりな男の子を待ってたってことだけ。あなたと同じ、宝石みたいな紫の目をしていて、雨に濡れた蜘蛛の糸みたいに、細くてきらきらした銀髪の男の子……。えっと、名前……は……」
彼女はそこで言葉を切った。そして、言葉の代わりに溢れたのは涙と嗚咽だった。彼女は死んでもずっと待ち続けていた初恋の人の名前も、顔も、声も思い出せない事実があまりにも悲しくて、辛くて、苦しくて、ただ泣くことしかできなかった。
彼はそれをただ黙って見ていた。一瞬手を伸ばしかけたものの、その手は再び下げられてしまったのだ。それはまるで、彼女に手を伸ばすことを躊躇っているようだった。
「ど、うして……わたし、なんで……」
彼女は何度も自身の手で涙を拭っていたが、涙はどんどん溢れて溢れていった。彼はキュッと眉間に皺を寄せ、苦虫を噛み潰したような表情をしたが、なおも動くことはなかった。
「ねぇ、あなたはだれ? わたしがずっと、ここで待ってた男の子なの?」
「……あぁ、そうだ。オマエがずっと待ってた『男の子』は、オレだ」
そこでやっと彼は口を開いた。だが声色は決して喜んでいるようなものではなく、むしろ苦しげだった。
「なぁ、なんで『そんなこと』になってんだよ」
「わかんない、わかんないんだよ。私も、覚えてない。記憶だって小さな頃のまま止まってて、思い出そうとしても全部真っ赤になっちゃって……」
「……チッ」
そのとき、不意に携帯電話の鳴る音が響いた。彼は自身のズボンのポケットから携帯を取り出し、耳に当てた。彼が電話越しの誰かと話しているのをただ黙って見ていた。涙はどうにか止まったようで、今は溢れていない。拭って真っ赤になってしまった瞳で、不安そうに彼を見つめていると、それに気付いたのか彼は話をしながらチラリと彼女の方へ視線を投げた。
「――あぁ、わかった。引き続きやっておけ」