夏夜と炭酸
「あっちー……」
「あちー……」
暑い暑いと言いながらベンチに腰掛けて、コンビニで買った2つに割って食べる棒アイスを取り出し、中央でパキリと割る。そして片方を那由汰に渡すと、揃ってアイスの頭をしゃくり、と齧った。
日中雨が降ったこともあり、今夜はかなり蒸し暑く、肌に張り付いてくるようなじめじめした空気だった。
「あれ、珂波汰君に那由汰君?こんばんは」
「んあ……あぁ、ナマエか」
「よー……」
そこに通りかかったのは、2人と同じくコンビニで買い物をしてきたらしいナマエだった。彼女の手には小さなレジ袋がかかっている。
彼女は2人の元へ行くと、彼らの座るベンチの隣に設置されていたベンチに浅く腰掛けた。
「2人ともだるそうだね」
「あー……。あちーからな……」
「ムシムシするしねー……」
2人の手元にあったはずのアイスは、既に2人の胃袋へと吸い込まれていた。残ったアイスの棒を咥えながら、2人はだるそうに溜息を吐いた。
ナマエは“そうだ!”と何かを思い出したように言うと、持っていたレジ袋に手を突っ込んで漁り始めた。少しして彼女が取り出したのは、夏にはぴったりの炭酸飲料だった。
「さっき買ってきたばかりだから、まだ冷たいよ。3本あるから2人に1本ずつあげる」
「まじ!?やったー!ありがとナマエ!」
「まじかよ!ありがとな、ナマエ」
「どういたしまして」
2人は受け取ったペットボトルのキャップを開け、中身をゴクゴクと飲み始めた。その飲みっぷりは実によく、見ているだけで少し鼻高々な気持ちになる。実際行ったのは、たまたま複数本買っていた飲み物を分け与えただけなのだが。
ぷはっ、という言葉とともに“うめー!”と言って笑い合う2人があまりに可愛らしくて、ナマエは思わず小さく笑ってしまった。
「んだよいきなり笑い出して。変なやつ」
「そんな面白いところあった?」
「ううん。2人ともいい飲みっぷりだなぁ、って思っただけだよ」
「ふーん、そう」
「お前は飲まねーの?」
「あー、そうだね。家に帰ってから飲もうかと思ってたんだけど、私も今飲んじゃお」
プシュ、と心地よい炭酸の吹き出す音。パキパキとキャップの接合部分を切ってキャップを開け、グイッと一口飲む。
口の中でぱちぱち、しゅわしゅわと炭酸が弾ける感覚がする。それを喉に流し込めば、喉でもまた炭酸の弾ける感覚がした。
「ぷはっ。んー!やっぱり夏はこれが美味しいね!」
「だなー。ほんとうめー」
「夏になると特にうめーよなー。変なの」
「やっぱり暑いからじゃない?炭酸ってちょっと涼しげなイメージあるし。爽やかーって感じっていうのかな」
「あー、なるほど?」
「確かに言われてみれば……?」
その後、3人はペットボトルの中身を飲み干すまで、一緒に他愛もない話をしていた。
「あ、空になった。2人のももらうよ」
「さんきゅ。じゃあよろしく」
「おー、助かるわ」
「いいえー。それじゃあまたね。帰り道、気をつけてね」
「おう。そっちこそ、気をつけろよな」
「じゃあねー。またジュース、奢ってー」
「いいよ。また3人で飲もっか」
その日から時たま夜に3人でさまざまな炭酸水を買って飲むようになった。
「うげっ、これまじぃ」
「え、嘘!私にも一口ちょうだい?」
「ほらよ」
「……うわっ、確かに」
「こっちのは結構イケたよ。飲んでみる?」
「「みる」」
「あはは、2人とも息ぴったり。おもしれー。じゃあはい」
「珂波汰君先でいいよ。でも一口だけだからね?」
「わかってるっての。……うわっ、確かに意外とうめーかも」
「……本当だ!意外とイケる……これは新発見だね」
「ナマエのは?」
「私のは大当たり!すっごい美味しかったよ!」
「まじかよ!ずりぃ、一口よこせ」
「あ、俺も俺も」
「いいよー。じゃんけんで買った方に先に渡すね」
「っしゃ負けねー!」
「俺だって負けねーから」
普段は平穏なんて言葉から少しだけ遠い2人の、ナマエと過ごすそんな平穏な夏夜のひととき。
「あー!負けた!」
「やったー。じゃあ最初は俺ね」
「一口だけだからねー?はい、どーぞ」