次は一緒に過ごしましょ
!!注意!!
18歳設定です。
朝起きると携帯に数件の着信が入っていた。発信者は全て同じ名前で着信時刻は午前零時頃。
前日は珍しく仕事が早めに終わったこともあり、彼はこの時間しっかり寝ていた。
アイツからこんな時間に電話なんて珍しい、と思いながら折り返しで相手に電話をかける。だが何度かかけても相手が出ることはなかった。
「変だな……?」
普段だったら二、三コール後には出ているのに。そう思いつつも彼は身支度を整えて外へと出かけた。
今日はパーちんと二人で出かける予定となっていた。それも泊まりがけだ。
荷物を片手に団地の下まで降りれば、そこには荷物を持ったパーちんがいた。
「おせーぞぺーやん」
「遅刻はしてねーだろ?」
いつも通りのやり取りをしながら二人で近くの駅へと向かう。
今回二人が向かうところは温泉で有名な箱根。実は既に一回箱根に行っているので、今回で二回目となる。
二人の目的は温泉ではなく、現在開催されている“箱根スイーツコレクション”。このイベントは春に初開催されたのだが、二人はそれにもしっかり行っていた。
今回のスイーツコレクションは春の時よりもさらに増え、小田急の有料特急の車内でも限定スイーツが提供されることとなった。
そのため、二人は珍しく愛車移動ではなく電車移動にしたのだ。
代々木から総武線に乗って隣の新宿駅まで向かい、そこから有料特急へと乗り換える。チケットは事前に買っておいたので既に手元にあるため、急がずとも時間になるまでホーム近くで待っていればいい状態だった。
二人は近くのお店で駅弁や飲み物を買い、定刻通りに来た電車へと乗り込む。
「おっ、あそこだ」
「オレの席はー……通路側だな」
チケットに印字された番号と同じものが記載された座席の横へ行き、席の上部に設置された荷物置きに荷物を置く。
座席に着いた二人は持ってきていたスイーツコレクションの冊子を広げて、今回出展されたスイーツたちを見た。
「このケーキうまそう……」
「こっちのはゲージュツ的だな。うまそー」
冊子に掲載されているスイーツたちを見ていると、出発音が鳴り響き、ゆっくりと車体が動き始めた。
「コレ、初めて乗ったけどすげーな。はえー」
「そうかぁ?普通の電車と変わんねーだろ」
「んー……それもそうだな」
窓から見える景色を見て、その流れるスピードに感動していたぺーやんだったが、パーちんからの一言でスッと元に戻った。
◆◆◆ ◇◇◇
昼食を取った二人の元に、車内販売がやってきた。
お菓子などの商品やコーヒーの入った魔法瓶が乗ったカートをゆっくりと押す女性販売員に通路側の席に座るパーちんが声をかけて呼び止めた。
「コレ、二つ」
「かしこまりました」
お金を渡し、女性販売員から受け取った二人分のスイーツを簡易テーブルの上に置いた二人は、キラキラと目を輝かせながらプラスチックのフォークで一口掬って食べた。
「んっめぇ!」
「ンだこれ!すっげぇうめー!」
「電車の中で出されるのがこんなにうめぇなら、店で出されるのはもっとうめぇな!」
「だな!あー、これアイツにも食べさせてやりてーなぁ」
「……そういえば、今日本当に行ってよかったのか?」
「あ?おう。アイツも“行っておいで”って言ってくれたしな!」
「ならいいけどよォ」
その後、お腹いっぱいになった二人は降車駅である箱根湯本まで爆睡していた。
箱根湯本で電車を降りた二人は、荷物を置きに予約していた近くの旅館へと向かった。
案内された部屋に荷物を乱雑に置き、財布などを入れた小さなショルダーバッグをかけて旅館を出ると、早速スイーツ巡りを始めた。
今回のスイーツコレクションに参画している場所は近場のものから少し離れた施設まで様々なので、今日と明日の二日に分けて全店巡る予定となっていた。
「まずはここの店からだったよな」
「おう。ここはすげー人気らしいから、早く行かねぇとなくなっちまうんだとよ」
「なら急いで行かねぇとヤベェじゃねーか!走るぞパーちん!」
◆◆◆ ◇◇◇
温泉から戻った二人は、しばらく部屋でワイワイと喋ったり遊んだりした後、敷かれた布団の上に大の字に寝転がっていた。なんだかんだ今日一日であちこち走ったり歩いたり並んだり、と大忙しだったため疲れていたのだ。
二人とも寝る支度まで整っていたのであとは布団に入って寝るだけだった。だが疲れた状態で掛け布団の上に寝転がってしまったため、その場から動けなくなっていた。
眠気で視界がぼんやりとし始めたぺーやんは、今にも意識が落ちかけていた。
もうこのまま寝てしまおうか、そう思って瞼を閉じ始めたその時、パーちんのいる方とは逆側から音が鳴った。その音は電話の着信を知らせる音だった。
その音に驚いた彼は、ぼやけていた意識が一気に覚醒し跳ね返るように上半身を起こすと、鳴り響く携帯を手に取って電話に出た。
「もしもし」
『あ、良平くん?ごめんね、遅くに』
電話の主は数ヶ月前から彼とお付き合いを始めたナマエだった。
彼女はいつもより少しだけ眠たそうな声色をしていた。それもそのはず、今の時刻は日付を超える少し前。普段の彼女ならとっくに寝ている時間だった。
「別にいいけどよォ。どうしたんだ?こんな遅くに」
『実は日付が変わる前にどうしても直接伝えたいことがあって……』
「伝えたいこと?」
『うん。あのね――』
お誕生日おめでとう
彼女からその言葉を受けた彼は何のことだか理解できず、黙ったままパチパチと瞬きを数回した。その後遅れてその言葉の意味を理解し、目を見開いた。
『付き合って初めての誕生日だったから、本当は直接お祝いしたかったんだけど……。今日の旅行、凄い楽しみにしてたみたいだからそんなこと言えなくて。本当は日付が変わった時に伝えたかったんだけど寝てたみたいだから、日付が変わる前に伝えようと思って電話したんだ。寝るところだったならごめんね』
「なっ、オマエっ!……っはー」
彼は上手く言葉が出てこず、代わりに大きなため息を一つ吐いて額に手を当てた。
電話越しの彼女は彼のため息を受けて、少し不安そうな声色でどうしたの?と声をかけた。
「あのなぁ。いや、オレも悪かったけどよォ……。そういうことは言ってくれよな。オレはナマエの彼氏で、ナマエはオレの彼女だろ?」
『うん……』
「オレ、今まで彼女とかいたことねーからそういうのよくわかんねぇンだよ。ナマエと付き合った時はもうナマエの誕生日は過ぎてたし……。だから、今度からちゃんと言ってくれ。いいな?」
『……わかった。ありがとう、良平くん』
「おう。……祝ってくれてありがとな。明日急いで帰っから、家で待ってろ」
『うん。気をつけてね』
「おう」
『それじゃあおやすみ。明日も楽しんでね』
「おう、ありがとな。おやすみ」
電話を切った彼は再び大きなため息を吐いた後、部屋に置かれた背の低い机の上に置いてあるスイーツコレクションの冊子を開いた。
「土産に買って帰れそうなやつ、あっかなぁ……」
結局買って帰れそうな限定スイーツはなかったため、箱根湯本駅から歩いて数分にあるお店のバウムクーヘンを買って帰ることにした。
行きと同じく有料特急に乗り、総武線に乗り換えて代々木駅まで帰る。パーちんと別れた後、急いで自宅に戻って愛車に跨って土産を片手にナマエの家へと向かった。
「お待たせー。おかえり、良平くん。もしかしてこっちに帰ってきてすぐ来たの?」
「おう、ただいま。……あとこれ、土産」
「わっ、大きいね。ありがとう」
「今回はごめん。……次の誕生日は、一緒に過ごそうな」
「……うんっ!次は一緒に過ごさせてね」