あなた色の石
「大丈夫かな……」
「大丈夫大丈夫!」
「オレたちもいるし、安心しろ」
彼女の右側にはこれから会う人の姉が、左側にはこれから会う人が兄のように慕う人がいる。
今日は彼女がこれから会う人、八戒の誕生日である。彼女の手には青色のリボンが結ばれた小さな小袋があった。中身は青空の下の海を彷彿とさせる青色の石のピアスが入っていた。
「もうすぐ来ると思うよ。心の準備はできてる?」
「ま、って……。しん、深呼吸させて……」
「はいはい。はい、吸ってー吐いてー」
彼の言葉に合わせて大きく深呼吸を一つ。彼女が腹をくくったところで目的の人である八戒がやってきた。彼が彼女を見て固まるのを防ぐために、二人が彼女を隠すようにそっと前に立つ。駆け寄ってきた彼が二人にニコニコと笑顔を向けていると、その後ろにもう一人、誰かがいるのを見つけた。
誰だか分からなくて彼が少し首を傾げていると、二人が一瞬アイコンタクトをしてからそっと左右に身を引いた。それによって隠れていた彼女をはっきりと視界に入れてしまった八戒は、つんっと彼女から顔をそらした状態でピシッと音を立ててその場で固まってしまった。
「誕生日、おめでとう」
彼女は顔を赤くし少し俯きながら彼にプレゼントである小袋を差し出した。対して彼はそっぽを向いたまま顔を赤らめてチラチラと彼女の方に視線を投げていた。
実はこの二人、お互いに片想いをしているいわゆる“両片思い”なのだが、彼女も彼も相手の前だと恥ずかしくなってしまい、上手くやり取りができなくなってしまうのだ。
特に八戒の場合、自身の姉である柚葉以外の女性がめっぽう苦手なため、今のように緊張で顔をそらしてしまうことが多く、会話すらままならない。
「八戒、ちゃんとナマエのこと見てやれ」
「ナマエも、ちゃんと八戒のこと見てやんな!」
お互い恥ずかしさで視線が合わないどころか、相手に視線を向けることすらできていないので、横で見ていた柚葉と三ツ谷がそれぞれの背を押すように言葉をかけた。
彼らの言葉によって背を押された二人は、視線を彷徨わせながらもなんとか相手の方に視線を向けた。がしかし、八戒は一瞬顔をそちらに向けたものの、再びつんっ、とそっぽを向いてしまった。
「あ〜もう!八戒!ちゃんとこっち向け!」
「ナマエが必死にお前の方見てんだから、お前ももう少し頑張れ」
顔をそらしたままの八戒に、姉と兄が背を叩いて彼女の方へ向くように声をかける。しかし彼はそっぽを向いたまま顔を赤くし、視線を彷徨わせながらあーうー、と言葉にならない声を出していた。
「む、無理だよ……。恥ずかしくて向けない……」
「はぁー……。じゃあナマエからプレゼントを受け取る瞬間だけでも向いてやれ。顔も見ずに受け取るなんてナマエに失礼だろ」
「そうだよ。せっかくアンタのためにナマエが選んだプレゼントなんだ。ちゃんとナマエの方を向いて受け取ってやんな」
「……わ、かった」
八戒はその場で大きく深呼吸をすると、グッと両手で拳を作ってから勢いよくナマエの方を向いた。瞬間、自分の方を向いていた彼女と視線が交わった。
「っあああ!!無理っ!!恥ずかしいっ!!」
真っ赤に顔を燃え上がらせた八戒が、羞恥に耐えきれず拳を解いた両手で自身の顔を覆った。その様子を見た柚葉と三ツ谷はそれぞれ額に手を当ててため息を吐いた。
「八戒、とりあえずプレゼントは受け取ってやれ」
八戒は開いた指の隙間からちらりと目の前にいるナマエを覗き見ては再び指を閉じ、そしてまた指を開いては隙間からちらりと覗き見る。という行為を何度も繰り返した後、そっと片手だけを顔から外して彼女の方へと伸ばした。
「ナマエちゃん……ぷ、プレゼント、ありがと……」
顔に残してきた片手の指の隙間からナマエの方を覗き見つつ、彼女から差し出されていた小袋を摘むように受け取る。ようやくプレゼントを受け取ってもらえた彼女は、耐えきれなくなったのかすぐに横にいる柚葉の後ろへと隠れてしまった。
「これ、今開けてもいい……?」
「うん……」
八戒は受け取った小袋の口を閉じていたリボンを解き、中に入っているものを手のひらの上に出した。
袋から転げ出たピアスが、太陽光によってその青い石を煌めかせている。小粒の石が付いただけのシンプルなピアスだったが、その石の煌めきがピアスの存在をしっかりと示していた。
「わぁ!綺麗!ありがとナマエちゃん!オレ毎日付けるね!」
「あ、ありがと……。その色、きっと八戒君に似合うと思って選んだんだ。気に入ってもらえてよかった」
「どうせだったら今付けてみたらどうだ?」
「あ、それいいね。付けてみなよ」
「うん!」
八戒は隣にいた三ツ谷に一度ピアスを渡し、自身が付けていたピアスを外して小袋にしまった。そして三ツ谷に渡していたピアスを受け取り、自身の耳へと付けた。
「どうかな?似合う?」
「おー。似合ってんじゃねーか」
「ナマエも見てみなよ。よく似合ってるよ」
そう言われたナマエはちらりと柚葉の背から顔を覗かせ、自身があげたピアスを付けて嬉しそうに笑っている八戒を見た。
「な?似合ってるだろ?」
「うん……!かっこいい!」
「んえっ!?」
ナマエからキラキラした瞳でかっこいいと言われた八戒は、素っ頓狂な声をあげて目を見開いたまま再びその場で固まってしまった。
「うーん……。やっぱり引っ付くにはまだまだ時間がかかりそうだね」
「だな……。こっちとしては早く引っ付けしかないんだけどなぁ……」
恥ずかしがり屋な二人を見守り続けた保護者二人は、まだまだ引っ付くまでに道のりが長そうな彼らを見て、やれやれと小さくため息を吐いたのだった。