剣姫と鼠



押し殺した気配。
誰かから逃げるように、見つからないように。密やかに隠された、そんな微かな違和。
害意は無いが、街で感じるならばいざ知らず城内で感じるには不穏に思わせる気配。
気配を追うのは難しくない。ただ過去の己であれば関係ないと流していたであろうそれを、察知して、且つ調査すべきかと考えが過ぎったのは先日の教会の件があるからだった。

「……」

逡巡は一瞬で、足は気配に向かって進んでいた。
用事が済んだ後で良かった、と思う。己が城に居るのはここ連日、第四王女と『新』教皇に料理係として呼ばれ登城していたからなのだ。
今感じた気配が、あの日教会で。微かに感じた違和感とは異なると、断言出来るのか。可能性が無いと言い切れるのか。
確証は無い。
では己は何をすべきなのか。そんなことは決まっていた。
気配を追って警戒を強める。
行き交う使用人達を避け薄くなる気配を探る。
と、そこで。

「おっ、バビロンさんじゃないか!」

兵士に声を掛けられた。呼ばれた名に思わず驚いて立ち止まれば、何してるんだ?と気さくに話しかけられる。
城に親しい間柄の兵士などいなかった筈だが、相手は気にせず近寄ってきた。兜を被ったままでは顔は見えず声も籠もった物で誰であるか判別出来ない。
アルベルト様に用ならまだ公務をなさっているから言伝するぞ、と述べられた言葉と上げられた眉庇から覗いた顔に漸く正体が分かる。相手は第二王子率いる近衛兵の一人であった。確かに領土へ魔族が侵攻してきた時、大聖餐祭の騒動の際にも見かけた覚えがある。
しかし第二王子とはそれなりに親しい仲を築いているが、その兵士からここまで友好的に接される何かがあった記憶は無い。向けられる笑顔の理由が理解出来なかった。
「……いや、今から別に用があるんだ」
なんとか言葉を絞り出せば、特に気を悪くした様子もなく頷いて兵士は納得してみせる。
「ああそうか!呼び止めて悪かったな、じゃあ」
そう明るく言って、軽く手を上げ去っていく後ろ姿を見送る。
なんというか、毒気を抜かれた。なにも悪感情を抱いた様子を見せず、嫌忌も感じなかったから。

「……、」
気を取り直して気配を探る。とはいっても、話している最中当初感じていた気配は薄まらず逆に感じ取りやすくなっていた。何故か遠かった距離も縮まっている。己から距離を詰めずとも迫ってきていた。
強烈な違和感に揉まれながらも人気の無い廊下へと足を向けた。
角を曲がった直後、後ろにまで急速に迫った気配に身構え、
「たっ助けてぇ!」
うあああ〜と情けなく声を上げて幼い子供が抱き着いてくる。
見覚えのありすぎる姿に驚きつつも抱き止めれば涙を浮かべながら、というか既に涙を零しながら己の名を呼んだ。
「バビロン!助けてくれ!!」
「な、何があったんですか」
このように慌てふためく様子の主は見たことが無かった。繰り返し助けてたすけてと泣く主を何とか宥めようとする。そして。
「……グリモ?」
姿形は紛れもなく主であったが、その言動と気配は主の相棒的存在である魔人のものであった。
「そうだ俺だ!助けてくれバビロン!」
その姿はどうした、主は何処だ、何から逃げてる、そう聞こうとするも混乱しきった相手は自身の言葉を捲し立てる。
「ヤバイマズいヤバイ聞いてくれ酷いんだ!ロイド様用があるとかで外行っちまって!レンは城の手伝いでいないしシロももう捕まって隠れ場も全部潰された!もう逃げられそうにないのにロイド様は念話しても反応してくれないし……たす、助けてくれぇ」
半泣きで助けを求めてくる魔人。
一体何にそんな怯えているのかと聞こうとして。
「ロイド様ー?こちらですかー?」
凛とした女性の主を呼ぶ声が廊下に響いた。
ひぃっと腕の中から悲鳴が上がる。怯えきった悲鳴だった。
成程、教育係である主の従者から逃げていたらしい。魔人がばっと背に隠れる。
「ロイド様……こちらにいらっしゃったのですね」
廊下の角から現れたのは王城の仕事着を身に着けた銀髪の美しい少女だった。主を見付けたと嬉しそうに微笑む。その美貌は愛らしく可憐であったが、足音が迫る度に背中からの震えが強くなっていく。
「さあさあお稽古しましょうね」
笑顔を浮かべにこやかに、主の姿を模した魔人へ手招きして近付く教育係。
見付かった魔人の恐慌ぶりは尋常ではなかった。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
言葉にならない悲鳴を上げがくがくと震える。ぐるぐると合わない焦点がはっと己を見た。
す、と背筋を走る嫌な予感。

「ば!バビロンが変わりに相手してくれるって!!」
「はっ?!」

いきなり何を宣うのかと背後を見る。が、ぷるぷると震える少年の姿に何も言えなくなる。

「───ほう?」

落とされた言葉と同時にその場の気温が下がった。比喩ではない、決して気のせいでは片付けられない冷気が身に突き刺さる。
重く押し付けられる殺気の様な圧。
背にしがみついたままの魔人がびゃっと悲鳴を上げるが面立って冷気を受けているのは己だった。
「い!いつも打ち合いしてるけど!たまには戦ってるのを見るのもいいと思うんだ!!」
どうかなシルファ!そう震えた悲鳴のような声で魔人が叫ぶ。憐憫を誘う声音であるが言葉の内容は明らかに己を売っていた。愕然とする。
「まっ「解りました」
静止は間に合わず。教育係である少女は己を検分しながら言葉を落とす。
「まあ良いでしょう、いつか手合わせ願いたいと思っていました」
仕方ないですね良い機会です行きましょう訓練場はこちらです、そう言って教育係は踵を返す。
凄い。己はまだ一言も言葉を発していないというのにとんとん拍子に話が進んだ。拒絶は許されない勢いだ。
ふーと安堵の息を吐く魔人を見下ろす。ぎくっと肩が跳ねるのを捕えた。
「だっ、だってぇ…」
半べそをかきながら言い訳を零す少年の姿をした魔人。これがかつて王国を存亡の危機にまで追い詰めたという伝説の魔人の姿か。
何か言いたい気がしたが、ここまで追い詰められていると責める気にはなれない。べそべそと涙ぐむ魔人の額を指で弾いてから、はあと息を吐いた。
こうなったら仕方ないがやるしかない。腹を括って訓練場へ向かった。

死への覚悟を決めながら。



少女の後を追って訓練場に着く。
白い塊が点々と地面を掘り返していた。散々走り回った後、駆け寄ってきた塊の正体は主の愛獣だった。
「……シロ?何してるんだ?」
元気よく吠える魔犬は砂だらけだ。
飛びかかって来ようとする魔犬を宥めて神聖魔術を掛ける。白い毛から汚れが消え魔犬は嬉しそうに尻尾を振った。
「シロ〜!無事だったか!」
魔人が魔犬に抱き着く。
どうやら途中まで共に逃げており、追いつかれそうになった際魔犬は足止めのため教育係に立ち塞がったらしい。
今はその教育係に懐柔されているように見えるが。
泥まみれになって地面を掘り起こしていたのは所々山のようになった地面を平らに均すよう少女から指示されたためのようだ。
確かに端に少し山になった地面が残っている。その一つに顔のような物が見え、何故訓練場にこの様な小山が出来ているのかその理由を何となく考えて、止めた。脳裏を過ぎった己のよく知る魔術好きの何某かの仕業なのではないかと邪推してしまいそうになったからだ。
「こちらからお選び下さい」
少女の声と共に剣が並べられた木箱が目の前に差し出され、粗く均された地面へと置かれる。
大人用の片手剣、子供用の両手剣、細剣など様々な種類の木剣が木箱の中に雑多に立て掛けられていた。そして端には布に包まれた、恐らく大剣が鎮座している。
「あっこちらはすみませんが、」
「ああ…どうぞ」
言葉に触れていた指を離す。布に包まれた剣は慌ただしく下げられた。少女の様子からして主の為に用意したものなのかも知れない、子供が扱うにしては随分と大きいように思うのだが。
箱の中を一通り確認する。やはりというかなんというか、己の手に馴染むものは無かった。
だからといってそんな言い分でこの場を切り抜けられる訳では無い。もし仮にそんな口述が認められたとして、そうなれば教育係の標的が魔人へと戻るのは明白であって、選択肢など無いに等しかった。無造作に並べられた木剣の中から一つ、最も頑丈そうな物を選んで抜き出す。
「よろしいですか?」
言葉に首肯すれば、少女は木箱を抱え隅に移動させる。そして。
木箱に刺された一つの木剣を片手に取り、勢いよく地面を『削った』。
轟音と共に僅かに残っていた小山の残骸が崩される。
「ひぇ」
音に驚き腰に抱き着いてきた魔人の震えた短い悲鳴が上がる。
長い銀髪を揺らめかせて剣を払う少女。
───王国騎士団長の娘。
少女の使う剣術は、無手から大剣まで得物を選ばず、幾多もの技があるのだという。
この若さでこのような剣撃を繰り出せることを恐ろしく思う。そしてそれを己が受けることを想像して肝が凍えた。
「あの、シルファ?そのぉ……あんまり激しくしなくて良いんだからな……?」
「解っています。加減はさせてもらいます」
恐る恐る、といった風情で震えながら魔人が声を掛けた。少女は是と頷いて静かに応える。
主に見せる手本という建前の上、取り敢えず少女の剣技は使わない運びとなった。
なんの慰めにもならない。
技が無くとも力量差は歴然であるからだった。

手合わせの作法など知らない。
少女の説明通りにある程度の距離をとって正面に向き合う。
構えをとる。少女は泰然と己を見据えていた。
「えっとじゃあ……はじめ!」
魔人の掛け声を合図に手合わせが始まる、と同時に。

木剣のぶつかり合う重い音がその場に響いた。

「えっうわわ!」
魔人と魔犬の悲鳴が遠くから聞こえた。跳ね飛ばされた身体に衝撃が抜ける。
「……っ」
まさに一瞬、瞬きの合間に距離を詰められ己の間合いで剣を振るわれた。
「───今のを防ぎますか」
己を吹き飛ばした少女の口から感嘆の響きを含ませた呟きが落とされる。
少女の木剣が叩き込まれる寸前、何とか己の木剣を滑り込ませ直撃を避けたのだ。後ろに飛んで衝撃を殺したというのに既に腕の感覚が飛んでいる。本当に手加減されているのか疑いたくなった。
片手で簡単に剣を振るう少女を見る。どうやらお眼鏡に叶ったらしく楽しげな様子をみせている。申し訳ないがもう少し加減してくれないか、と思う。
「では……いきます」
少女は己の様子を気にもせず、今度こそ始まりの構えをとった。己が構えるのを待つ気配。

そんな甘い考えは通用しないのが世の常なのである。



およそ大抵の木剣で行われる打ち合いでは耳にすることの無いような激しい重打音。それが幾重にも続く。
木剣を吹き飛ばされないよう握る力を強めた両腕の、ぶつかる度に骨が軋む。
まともに受けることはせずすぐに流して相手の刃を地面へと落とす。それでも腕には重たい打撃によるしびれが残っている。息を吐く暇も無いほどの連撃。
「───ッ!!」
何とか捌くものの続けざまに繰り出される一撃一撃が重い。
後ろに弾き飛ばされそうになるのを脚に力を込めて耐え流した打撃の間隙を縫って横に薙ぐ。それを少女は片手で容易く払う。
返し手にもう一度切り返すがこちらは一歩引いて難なく躱される。
すぐさま追って斬り掛かるがこれも避けられ逆に強烈な突きを喰らう。剣を盾にして防ぐが木剣と身体どちらからもみしりと軋む嫌な音が骨を伝って響いた。
振り払って距離を取る、が少女は間合いを大きく詰めて剣を構えた。

握る手指に力が入らなくなってきていた。

限界が近いことを悟る。

「……!」

今度は流さずに受けた力を利用して身体を反転し剣に勢いを付け更に加速させ回す。腕が千切れそうになる力に上乗せして振るう。
───少女は初めて見る攻撃を避けない。
回避されないことを見越して『初めて』全力を込めて剣を振り抜いた。


重く木剣がぶつかり合う。


風を裂く音が耳を抜け、


かららん、と軽やかな音が張り詰めた空気の中で場違いに音を立てた。

「……お見事です」

根元から折れた木剣を見やって少女が呻く。
顔には無表情ながらにも不覚、と文字が刻まれている。
先程の風切り音は剣先が弧を描いて宙を舞った音だった。

そして、己の木剣も半ばにして割れて折れてしまっている。

続行不能───引き分けだった。

なんとか気力で保たせていた膝がついに折れる。
咄嗟に木剣を立てるが半端に折れたそれは支えにはならず足は地面に崩れた。

地に膝をついた己とは対照的に少女は全くもって平然としている。

───己と少女の、一番の違い。
それは圧倒的な筋力の差だ。
相手は力を明らかに抑えて剣を振るっていた。己への気遣いなどではなく、自身の力で木材で作られた得物を壊さないためだろう。
己は、それを逆手に取った。
最初の打ち合いで加減された力の強さを利用して、打ち返さず全力で欺いた。相手から向けられる剣を力足らず受け止められなかったように見せて流し、地面へと払って押し付け損耗させていたのだ。木剣といえどそう簡単に壊れる物ではない。が、少女の力は規格外である。地に叩きつけられた力は反発して少女の手元、木剣へと戻る。続けられる打撃で負担は更に掛かる。
負荷は蓄積される。
打ち合いを長引かせると同時に相手の武器を摩耗させ、最後の一撃で少女の加減していた力を引き出し剣をへし折った。
少女は、こちらの策を勘付いていたようではあるが狙いまではなんとか看破されずに、決着も有耶無耶で終わらすことが出来た。
ちらりと剣技場の端へ目を動かす。白い魔犬の隣、見慣れた少年の姿が見える。主の姿を模した魔人ではない、己の主である。己の限界の間際には戻ってきてくれたようで、当初の目的は達成出来たのだと息を吐いた。手本を終えた教育係が壊れた木剣を回収し嬉々として主の元へと向かう。
しかし目論見は達成されたが、まさか己の木剣まで持っていかれるとは想定していなかった。
避けられる攻撃は全て避け、受けた剣撃による衝撃はなるべく小さく抑えて、それでもやはり累積された傷による急激な劣化は避けられなかったようだ。
……良かった、身体に当たらなくて。
剣を受けただけで何度も骨が折れるほど軋んだのだ。
本当に身体に当たっていたならば骨だけでなく肉まで粉々になっていたに違いなかった。
限界を悟り早く決着を付けるため最後はこちらから仕掛けたのだが、これで良かったのかもしれない。

主達の背後、城の通路。または城の窓から向けられる視線の数々。いつの間にか出来ていた見物人達。好奇に満ちたその目の先に何が映るのか。
賞金首であった事実は消えてなくならない。
己だけならまだしも、主が、仲間が。見ず知らずの者達に侮られ、軽んじられない為に。簡単に、無様に。負けるわけにいかなかった。

「───、」

動かそうとした身体が悲鳴を上げる。声はなんとか抑えたもののすぐには動けそうにない。
神聖魔術を使って傷を癒やすか迷っていると頭上に影が差した。
誰か、なんて考えるまでもない。魔犬を引き連れた主だった。
少年の姿をしていた魔人は、普段の姿に戻って常のように魔犬に潜んでいた。その人そっくりに化けられるのは魔人の能力なのだろうか、先程は至らなかった疑問が浮かぶ。魔人は申し訳無さそうに縮こまって、天使から弄られている。姿の見えなかった天使は主に付いて何処ぞへか行っていたのか。
「どうして能力も、魔術も使わなかったんだ?」
「はい?」
主の蒼い瞳が己を見下ろす。
何故、と問われた意図を汲むことが出来ず言葉に詰まる。
「それは…手本として打ち合いを見せる、という名目…だった、ので……?」
「ふーん」
主はそういって一瞬、残念そうな表情をしてみせた。眉を寄せて、口を尖らせて。
主がいつ戻ってきていたのか定かではないが魔術好きな主のことだ、ただの打ち合いはさぞつまらないものに映っただろう。
「まあ良いけどな……」
落とされた言葉に、何故か不穏なものを感じてはっと少年を見る。
浮かべられた小さな笑みに、言い知れぬ不安を覚えた。何か、こう、良からぬことを教えてしまった時のような感覚。
「……ロイド様?今回は偶然都合が合っただけであって今後同じ手は使えませんよ?」
今回は相手が前々から考えていたという都合に合致しただけであって、二度も同じ手は通用しないだろう。その筈だ。そうであって欲しい。そうあれ。
一応、念の為、声を上げておく。
「ええ?なんだよ良いだろ〜」
「いえ本当に、勘弁して下さい……」
背筋を走った予感はまさしく的中していたようで、拗ねたような態度を取る主に本気の懇願をする。
正直に白状しよう。

二度目は死ぬ。

そもそもの専門が違うのだ。己は裏稼業───暗殺に特化した戦闘術で、魔獣退治ならともかく真っ向からの勝負を主にした相手には分が悪い。ましてや相手は『銀の剣姫』の異名を持つ少女だ。油断を誘い手加減を受けていたとはいえ剣術に特化したあの少女を相手に引き分けまで持って行けたのは奇跡に近い。
一度手合わせしたことで剣の癖は殆ど見られている。元より剣が得意という訳でもない上に手の内が暴かれている現状、そして欺いていた事実から次は限界近かった手加減さえ抜かれる可能性が高い。

腕の痺れが未だ治らない、満身創痍になっている己の身体を見て欲しかった。
そう訴えれば、胡乱な返事と共に伸びてきた幼い掌が腕に触れた。神聖魔術かと慌てるが、光はない。どうやら治癒魔術らしい。神聖魔術は便利だが、どうしても目立つため事情を知らない人間への説明が必要となり非常に面倒なのだ。今は人目がある。事実を捻じ曲げて信じていない神の啓示とやらの細説など二度としたくない。安堵して力を抜く。触れた端から苛んでいた痛みが癒やされる。
主は逸脱した魔力で回復する術を持っているからか怪我に対する忌避感が如何にも薄い気がする。
また押し付けられることが無いよう言葉を重ねようとするが、それよりも先に主が駆け出した。
「シルファ〜もぅバビロンとは手合わせしないのか?」
少女へ駆け寄った主がそんな言葉を掛ける。聞こえてきた言葉にがちりと身体が固まる。
にこやかに主を迎えた少女の答えは。
「そうですね、また機会があれば」
良かった……
断りの常套句を口にした少女の声に胸を撫で下ろす。
しかしその後に続けられた台詞が、撫で下ろした胸の鼓動を止めた。

「次は『本気』で手合わせ出来れば、と」

口元を柔らかに緩ませた少女が言葉を落とす。表情は穏やかである筈だが、言葉の裏に隠された圧を感じた。
咄嗟に背けた顔へ鋭く突き刺さる、痛みさえ感じさせる視線。
無心で気付かない演技をする。
視線が一つだけでないのもきっと気のせいで、勘違いであるのだと必死で己に言い聞かせる。



二度目が訪れないことを信じてもない神へと願った。



シルファとバビロンくんのお話
バビロンくん多分技能カンストしてるので、大抵の武器は使いこなせるのではと夢見てます




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