まるまって寝る悪魔


 ほら、と手渡されたブランケットを受け取る。有の顔を見た途端、自覚のなかった睡魔が頭を擡げたような気がした。寝室に籠ってしまっても良かったのだけれど、彼の発する生活音(彼自身から生み出されることはなく、例えば蛇口を滑り落ちる水の音とか、包丁とまな板が触れる音とか、そういう類のものだ)に身をゆだねることも悪くないなと思う。そういう思考ののちずるずると身体を滑らせ、腰かけていたソファの上に横たわった。眠いかどうかはやはり判然としないが、瞼が重力に逆らうことを拒んでいるようだ。
「ここで寝るのか」
 淡々とした口調で問われ、下ろしたばかりの瞼をふたたび持ち上げる。状況を確認するためだけの問いだが、それを口にした有の表情が無性に気になった。ブランケットを手渡された位置から彼が動いた様子は見られず、わずかにゆるんだサファイアを模した瞳が静かに灯世を見下ろしている。――感情が読み取れないわけではない。が、積極的に彼の胸中を探る理由もあるまい。
「有」
 口に馴染んだ名前を呼んだ。「……」返事をする代わりに、ソファの傍にしゃがんだ彼は灯世に顔を近付ける。腕を伸ばし、そのまるい後頭部をぐいと引き寄せた。
 開かれた瞳は閉じることを知らない。灯世から目をそらすことを有は是としない。不意をつくように(――否、それは日常の中で意図を持たず散りばめられているが)灯世から与えられるくちづけも、彼は至極当然のような顔をして受け入れるのだった。
 手入れなどろくにしていないだろうに、有のくちびるはいつもやわらかく心地が好い。妙に安心するというか。……そういう感想は言い訳のように捉えられるのだろうか。むしろ、彼の隣でしか眠りにつけないように、戯れの形をしたキスも『そうである』という位置付けを探っているようなふうである。
 くちびるを離し、ふたたびソファに身体を沈めた。瞼を伏せた灯世の顔を見つめる有の表情を、灯世が知るすべはない。
「……おやすみ、灯世」
「ああ。……おやすみ」