その日は、風のない静かな日だった。綿菓子を引き伸ばしたような薄い雲が浮かんでいて、ゆったりとした空気が流れている。
それなのに、私の心中は穏やかとは言い難い。ごうごうと暴風が吹き荒れていて、まるで嵐の中に放り出されたような気分だった。
「……僕はやめとき、おすすめせん」
たった今、意中の相手にフラれてしまった。――それも、告白すらさせてもらえずに。
これ以上は踏み込んでくるなよ、という意味の警告。先手を打つような、優しい拒絶だった。
「え」
「……僕の自惚れやったらほんまにごめん」
「自惚れじゃない!」
まさか、私の恋心が本人にバレてしまっているなんて欠片も気づいてなかった。そんなにダダ漏れだったのかな。
驚いて固まっている私を見て、氷織くんは「これからも友達でおってな」と柔らかい声で言った。傷口に塩を塗られたみたい。ヒリヒリ痛くてしょうがないけれど、友達という選択肢を残してくれるのは氷織くんの優しさだと思って、甘んじてそれを受け入れた。
「分かった!」
氷織くんに視線を合わせて力強く頷いてみせると、氷織くんはほっと安心したように微笑む。軽く会釈をしたあと、話題はすぐに他愛ない別のものへと移り変わった。どうやら、これ以上はこの話をしたくないみたい。
ごめんなさい、氷織くん。私はあくまで「おすすめはしない」「友達でいる」ということのみを、受け入れただけ。好きでいること自体は、暫くやめられそうにない。
氷織くんへの想いで咲いた花は、両手いっぱいでも抱えきれないほど、大きな花束になってしまった。
それをラッピングして渡すようなことはしないけれど、こっそり押し花にして、好きでいたいと思った。
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