私は、すべてをスタンドの力で知りえたのだと置き換えて話した。
ソルベとジェラートが好奇心で虎の尾を踏んで死ぬこと、暗殺チームがボスに反旗を翻して、一人ずつ死んでいくこと、重傷は与えたが、復讐を果たすことができなかったリゾットのこと。
大した反感もなく、もしくは、反感を持つほど信じていないのかもしれないけれど───彼らは、静かに聞いていた。
すべてを知っているわけじゃない。けれど、あなたたちの死にざまは知っていた。
だから、変えたかった
そう伝えて、長く重苦しい話の幕を閉じた。
「だから、もしあなたたちが私の全財産をかけて、たった一つのお願いを聞いてくれるというのなら。……1年、いいえ、半年だけ、このイタリア以外のどこかへと旅行をしてきてくれるかしら」
「それで、お前はどうするんだ」
「さあね」
私の心は今までよりずっと晴れやかだが、色濃く出た死の覚悟を読み取れないものなどこの場にいない。
分かっていたけれど、抑えきれない喜びと、結局のところ、諦めきれないもう一つのチームの命を憂う自分を、隠せなかった。
「あんたが死んだら、その後の金払いはどうなんだよ」
イルーゾォは言葉の裏に心なしか気遣うような音を秘めた。
その真意には気づかないふりをして問題ないと答える。
今の私の会社は私がいなくても機能しているし、もともと表立って私の名を使っているわけでもないから、私がどこでどう野垂れ死のうとも口座にプールされる額は社の業績くらいにしか左右されない。
もともと、そのつもりで貯めていたのだ。
あなたたちが望むだけの、ボスへの興味をそらせるだけの金を。
「ブチャラティを助けるつもりか」
「……そういえば、どうしてあなたブチャラティのことを知っているの」
「うわ言で言っていた」
「……最悪ね。自分の酒癖の悪さと迂闊さに死にたくなったわ」
「質問に答えてくれ」
答えるべきか、答えぬべきか悩んだけれど、その逡巡がすでに答えであると察して頷く。
欲深い、本当に欲深い。
「イエスよ」
「死ぬつもりか」
問いかけもしない、ただの相槌のようなそれに、苦笑した。
死にたいわけじゃないけれど、死ななわけがないのだもの。
「ブチャラティの死は、私には変えられない。けれど、もし、私が代わりに死ぬことができるなら、もし、少しでも、1ミリでもその可能性があるなら、縋りたいの」
「お前にとって、ブチャラティはいったい何なんだ。あったこともないんだろう?」
「ふふ、まったくね」
本当に、全くその通りだと可笑しくなって、笑った。
何も知らない。
彼が一体どう生きて何を信条としているのかは知っているけれど、ただそれだけだ。
一緒に過ごした時間など1秒もない。
リゾットに情が移ったというなら分かるけれど、あったことも見たこともないブチャラティに、どうして命をかけられるというのか。
ほんと、笑える。
でも。
「……生きてるって、知ってしまったから」
紙面で見た無機質な彼じゃなくて。
息をして、私の知らない人生を歩んで、仲間と笑い合った日々があるのだと、知ってしまったから。
「これは私の人生を賭けた、ただのエゴなの」
余計なことだって分かってる。
彼は役目を果たして、高潔な魂のまま天国へ行くのだから。
私がしようとしていることは、誰のためでもなく、ただ私自身を救うためだけのエゴ。
死は怖くない。
彼らが死んでいくのを何も変えられず見つめていることよりはずっと楽。
それに、これは私が二度目の人生を歩む者だから知っていることだけど、死は案外安らかだから。
「俺を、連れて行ってはくれないか」
なんて優しい人。
もしかしたら、少しばかり縁のある私の死と、彼が暗殺者になるきっかけであった従兄弟の死とを重ね合わせてしまったのかもしれない。
でも、それでも、あなたが死ぬなんて耐えられない。
そっと首を振った私に、リゾットは眉尻を下げた。
そんな情けない顔をしないで。
私の死なんて、あなたの従兄弟の死と比べるべくもないの。
本当は、存在すらしなかったのだから。
「……しょうがねぇーなぁ、お前らに話させてたら一生が終わっちまうぜ!なぁ?ペッシ」
「えっ!?あ、う、うん……?」
沈黙を壊すように、ホルマジオが立ち上がった。
がしがしと頭をかいてクイーンサイズのベッドに座ると、無遠慮に私を指す。
「要するによぉ、アメリア。お前はボスの死に様もブチャラティの死に様も知ってるわけだろ?じゃあ話は簡単じゃねぇか!ブチャラティが死ぬ前にボスをぶっ殺せばいい」
「そう簡単な話じゃないだろ、まずは俺の鏡にブチャラティを入れて……」
「俺が一帯を凍らせりゃァボスだろうが何だろうが死ぬだろ」
「それってブチャラティたちも死ぬんじゃない?」
「ソルベの影で包んじゃえば安全に拘束しておけるぜ、な?」
「勿論だ、ジェラート」
「あ、危なくなったらオイラのビーチボーイで引っ張れるしよぉ……」
な、なんか収拾がつかなくなってきた……。
私もリゾットも置き去りに、思い思いにああでもないこうでもないと言い合う彼らを見て、リゾットは微笑むように目を細めた。
何を、呑気な!
「ま、待って!あなた達を巻き込むわけには……」
「アメリア」
プロシュートが言葉を遮って私の顎をすくった。
「ここにいるのはこのイタリアで一番腕の立つ暗殺者チームだ。お前のすべきことが分かるか?お嬢ちゃん」
強い意志の瞳に気圧される。
思わず身を引いた私の背に、リゾットが手を添えて逃げ場を奪った。
「一言おねだりすればいい。ボスを殺してくれってな」
ああ……なんて、こと……。
わたしは、絆されてしまった。
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