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とりーと


※現パロ


「……なにしてんの?」

 びくり!後ろからかけられた声に肩を震わせ、おそるおそる振り返る。誰がいるかは声でわかっていたし、シフトの時間的にも鉢合わせる可能性はあると思っていた。そうでなくとも、店に入ったからには誰かしらに会うだろうし、そのうちこの姿は見せることになるとは、思ってはいたけど。
 心の準備がまだ、できてなかった。

「エ、エースさん……」

 ひくり。口角がひきつる。スタッフルームの全身鏡の前でしゃがみこみ、頭からマントをかぶる私はどう見たって奇妙。私でもきっと同じことを言う。
 私が固まっている間に何か納得したらしいエースさんは「ああ……」と、テーブルの上にいたカボチャを摘まみ、私に見せてくる。ただのカボチャではない。ジャックオランタンだ。それでだいたいのことは伝わったのだろう。

「なまえ、その格好できたのか?」
「なわけないでしょう! イゾウさんのせいですよ!」
「イゾウ?」

 目を瞬たかせるエースさんに、私は昨日の問答を話した。イゾウさんとハルタさんが、店長であるマルコさんや、シェフのサッチさんに日本のハロウィンの話をしたこと。
 そのハロウィンの話が、歪められて伝えられたこと。

「イゾウさんが! また! 間違ったことを言うから! 日本のハロウィンは、みんなが仮装するものだとか! そんなこと一部のひとしかしません……!」
「ああ……イゾウ、すぐ面白ェほうにいくからな……。マルコはともかく、サッチは気づいててノったんだろ」
「ほんとに! 四対一ですよ、ひどくないですか!?」
「でも、なまえも着るんだもんな。断りゃいーのに」
「だっ、だって服が用意されてたら着るしかないじゃないですか……! 女子の従業員、私だけなんだから……!」
「律儀だよな。見せて」
「えっ」
「ん?」

 ぱちり。また不思議そうに首を傾げるエースさんに、あの、とか、えっと、とか言葉にならない繋ぎ声を出す。
 鏡の前でマントを羽織り、しゃがみこんだままでいる私の隣にエースくんが寄ってきて「もう着てるんだろ?」と顔を覗きこむ。ちかい。
 従業員に海外勢が多いだけあって、みんなフレンドリーだし、スキンシップが多いし、ストレートにものを言う。それに慣れてきてはいるけど、そういうものだ、と認識するのに慣れてきただけであって。照れくささがないとは、決して言えない。

「……わ、笑わないで、くださいよ……?」
「ん」
「一歩離れてください」
「わかった」

 立ち上がって、一歩どころじゃなく三歩ほど離れてくれたエースさんに続き、私もそろそろと立ち上がる。
 マントで全身を隠せるように、胸の前においていた手を離す。
 しゅるり。ポリエステルの布が擦れる音に、なんだか緊張がはしる。

「……」
「……」
「……」


 ──い、いや、なんか言ってくれよ……!

 な、なんでそんなにじっとみる? いつもならすぐ言葉なり笑いなりを返してくれるのに、なんだなんだどうした!?
 バクバクと早鐘を打つ鼓動を押さえ付けたいが、いつまでこの姿をさらしていればいいんだろう。何秒見る気なんだろう。
 ……ん?わざわざ見ている間まっている必要はないか……?

「ちょ……と、見すぎでは!? さすがに照れますよ!?」
「……うん」
「うんってあの……気まずいんですが……!」
「……うん」

 っはあ〜〜〜……。エースさんが顔を両手で覆い、しばらく下を向く。その様子を不思議に思いながら様子を見ていると「……なんかさ」ぽつり。くぐもった声がした。
 手をずらし、目もとだけ晒したエースさんが、つい、と窺うように私を見た。


「かわいいんだけど、なんか。……もやもやする」


 ……えっ? 

 ちょっとサッチに文句言ってくるわ。あとこれ着とけ。

 と、着ていた黒のロングコートを私に被せ、エースさんは私を部屋に取り残した。というかエースさん、ロングコートの下、半袖って。寒すぎでは?
 そんなつっこみも言えず、ただほのかに香るエースさんの匂いに包まれて、私はしばしその場に立ち尽くした。

 ……どうしろ、と……。
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