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Idle Talk
馬に蹴られてしんじまえ、とはよく言ったものです。
死ぬかと思った。
「おい…お前が兵士になったところで死ぬことはわかっているが、流石に馬に蹴られて死ぬのは許せねぇぞ……せめて人類のために死ね」
「そればかりは、私も同意します……」
馬術の訓練中。またうっかり、ぼんやりと考え事をしていたら落馬。そして驚いた馬によって蹴られた。踏まれた、にも近かった気がするけど、多分蹴られた。
めちゃくちゃ痛ぇー!と叫んで、しかしここで脱落するわけにもいかなかったから訓練を続行した。なんでかって教官が怖かったから。
最後尾に近かったけれど、なんとかゴールはできた。キース教官がマイナス点をつけたけれど、脱落よりはいいよなって思うことにした。元より自分が憲兵になれるとは思ってないし。
そしてよれよれ歩きながら馬を小屋に戻そうとしたところで、リヴァイ特別教官に捕まった。何してんだお前、と怪訝な顔をされ、泣く泣く理由を話して医務室行きだ。話を盗み聞きしてた同期も、ぽかんとしてた。
こいつ、大丈夫か、と。言わんばかりに。
「訓練中にぼんやりしてたとは、ふざけた理由だな…元からお前はふざけているが」
「…返す言葉もありません」
「自覚してるなら、直せ」
打撲がいっぱいの体に薬を塗って、包帯を巻いて。
わけわからん理由で消費する医療品も勿体ねぇと言われてしまえば、本当に何も返せない。全ては自業自得だが、周りに迷惑をかけるのはよろしくない。
包帯を巻いた手首を撫でて落ち込んでいると、教官が息を吐き出した。
「…なに考えてた」
問われる。
答えるのは、少し忍びない。
「…もうすぐ、壁外調査なのかなって」
リヴァイ教官は黙った。何を考えているかは当然ながらわからない。
前回の壁外調査の時の、話題が話題だったもので。よくわからないけど悔しく思って、未だに理解していないことを自分から掘り返すのは、気が引けた。けれど、嘘をつくほどのものかと言われたらそうじゃない。それからこんなとこで嘘をつくのは、自分がそのことをすごく気にしているようで、嫌だった。
ちらりと窺うように教官を見れば、それとほぼ同時に、は、と教官が笑った。馬鹿にしたような笑いだ。
「随分、下らねぇ理由だな」
――それはまた、ごもっともな答えです。
訓練兵の身でありながら、壁外調査を気にする。図々しい話だ。おまけに私は何も調査兵団を希望しているわけでもない。リヴァイ教官を特別慕っているわけでもない。その、ただの他人事でしか考えていない私が、それを気にして訓練もままならない。そして今それを調査兵団所属の兵士に話している。
それはリヴァイという兵士を、侮辱した気にさえなった。
「ランセ…お前はいつも、考えていることが違う。クソみてぇにくだらねぇことを考え、内容も甘い…意味もない」
「……」
「お前、何で訓練兵になった」
…その、問いは。
入団式のことを、思い出してしまう。
勿論この質問は、本当に聞きたいわけでもないのかもしれない。訓練兵としてダメ過ぎる、という意味での答えを要求していない問いなのかもしれない。
なんで訓練兵になったのか。両親の負担にならないためだ。だけど、それを答えていいものだろうか。そう答えたら教官はなんて言う?なんて思う?
教官はなんで、私への扱いが違う?
「…死にてぇなら、そうしろ。俺が口を挟むもんじゃねぇ…」
「死にたいわけでは…ないです」
「説得力のねぇ言葉だな…下らないことを考える頭があるなら、自分のことでも考えてろ。クソガキが」
教官が席を立った。それに着いていくこともせず、立ち上がって敬礼することさえしなかった。けれど教官はそれを気にした様子もない。
「…次の壁外調査は、五日後だ」
静かに、扉が閉められた。
医務室に残されたのは私だけだ。医者は随分前に席を外している。
両親の負担を減らすために訓練兵になって。
自分も生きるために訓練兵になって。
でも今私がやっていることは――生きるための、行動じゃない。
まるで、死にたがりのようだ。
頭が幸せだとか、そういう次元じゃない。危機感がないとか、馬鹿だとか、そういうのもまた違う。
生きてないのかもしれない。私は、酷いくらい逃避しているのかもしれない。
自分が何をしたいのか、わからないんだ。
- 11 -
死ぬかと思った。
「おい…お前が兵士になったところで死ぬことはわかっているが、流石に馬に蹴られて死ぬのは許せねぇぞ……せめて人類のために死ね」
「そればかりは、私も同意します……」
馬術の訓練中。またうっかり、ぼんやりと考え事をしていたら落馬。そして驚いた馬によって蹴られた。踏まれた、にも近かった気がするけど、多分蹴られた。
めちゃくちゃ痛ぇー!と叫んで、しかしここで脱落するわけにもいかなかったから訓練を続行した。なんでかって教官が怖かったから。
最後尾に近かったけれど、なんとかゴールはできた。キース教官がマイナス点をつけたけれど、脱落よりはいいよなって思うことにした。元より自分が憲兵になれるとは思ってないし。
そしてよれよれ歩きながら馬を小屋に戻そうとしたところで、リヴァイ特別教官に捕まった。何してんだお前、と怪訝な顔をされ、泣く泣く理由を話して医務室行きだ。話を盗み聞きしてた同期も、ぽかんとしてた。
こいつ、大丈夫か、と。言わんばかりに。
「訓練中にぼんやりしてたとは、ふざけた理由だな…元からお前はふざけているが」
「…返す言葉もありません」
「自覚してるなら、直せ」
打撲がいっぱいの体に薬を塗って、包帯を巻いて。
わけわからん理由で消費する医療品も勿体ねぇと言われてしまえば、本当に何も返せない。全ては自業自得だが、周りに迷惑をかけるのはよろしくない。
包帯を巻いた手首を撫でて落ち込んでいると、教官が息を吐き出した。
「…なに考えてた」
問われる。
答えるのは、少し忍びない。
「…もうすぐ、壁外調査なのかなって」
リヴァイ教官は黙った。何を考えているかは当然ながらわからない。
前回の壁外調査の時の、話題が話題だったもので。よくわからないけど悔しく思って、未だに理解していないことを自分から掘り返すのは、気が引けた。けれど、嘘をつくほどのものかと言われたらそうじゃない。それからこんなとこで嘘をつくのは、自分がそのことをすごく気にしているようで、嫌だった。
ちらりと窺うように教官を見れば、それとほぼ同時に、は、と教官が笑った。馬鹿にしたような笑いだ。
「随分、下らねぇ理由だな」
――それはまた、ごもっともな答えです。
訓練兵の身でありながら、壁外調査を気にする。図々しい話だ。おまけに私は何も調査兵団を希望しているわけでもない。リヴァイ教官を特別慕っているわけでもない。その、ただの他人事でしか考えていない私が、それを気にして訓練もままならない。そして今それを調査兵団所属の兵士に話している。
それはリヴァイという兵士を、侮辱した気にさえなった。
「ランセ…お前はいつも、考えていることが違う。クソみてぇにくだらねぇことを考え、内容も甘い…意味もない」
「……」
「お前、何で訓練兵になった」
…その、問いは。
入団式のことを、思い出してしまう。
勿論この質問は、本当に聞きたいわけでもないのかもしれない。訓練兵としてダメ過ぎる、という意味での答えを要求していない問いなのかもしれない。
なんで訓練兵になったのか。両親の負担にならないためだ。だけど、それを答えていいものだろうか。そう答えたら教官はなんて言う?なんて思う?
教官はなんで、私への扱いが違う?
「…死にてぇなら、そうしろ。俺が口を挟むもんじゃねぇ…」
「死にたいわけでは…ないです」
「説得力のねぇ言葉だな…下らないことを考える頭があるなら、自分のことでも考えてろ。クソガキが」
教官が席を立った。それに着いていくこともせず、立ち上がって敬礼することさえしなかった。けれど教官はそれを気にした様子もない。
「…次の壁外調査は、五日後だ」
静かに、扉が閉められた。
医務室に残されたのは私だけだ。医者は随分前に席を外している。
両親の負担を減らすために訓練兵になって。
自分も生きるために訓練兵になって。
でも今私がやっていることは――生きるための、行動じゃない。
まるで、死にたがりのようだ。
頭が幸せだとか、そういう次元じゃない。危機感がないとか、馬鹿だとか、そういうのもまた違う。
生きてないのかもしれない。私は、酷いくらい逃避しているのかもしれない。
自分が何をしたいのか、わからないんだ。
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