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バレンタイン的な


※進撃世界にバレンタイン的なイベントがあったとしたらif
※甘さも何もない。苦い。









ハンジに大爆笑されながら両手いっぱいに荷物を抱えて、自室まで運んだ。
2月に行われる、「好いてる男もしくは世話になってる奴に女が手作りで何かを渡す」なんていう訳のわからないイベントごとは、未だになれない。

整頓をしてる時間まではなかったから、とりあえず部屋の隅に受け取ったプレゼントを置いて、担当しているトロスト区の訓練兵団へと向かった。
流石に同僚や部下と違って、あのガキ共から何かされることは、金銭的にも精神的にも無理だろう。そう踏んで、比較的かるい足取りで訓練所に着いた、

ら。



「……なにしてやがる」
「げっ」


思い切り顔を歪めながらのその言葉に、殴り飛ばしてやりたい衝動に駈られたが、ランセのこれはある意味いつも通りだ。睨み付けるだけで済ましておく。
慌てて敬礼と社交辞令を述べたランセにこちらも形式的な言葉を返して、もう一度問う。
一体、人の執務室の前で、蹲って、何をしてたのか。

ランセが苦い顔をして、後ろ手に隠していたらしい、何かを差し出してきた。


「……なんだ?」
「ゴミです」
「あ゛?」
「……貰って捨てて下さいよ」
「自分で捨てろ」
「……」


明らかに、畜生、とでも思ってそうな表情のランセに、こいつは何をしたいのかと心の底から思う。
訓練兵、それもまさか、こいつに限って俺に何かを渡してくるわけはないだろう、と手を差し出された時は思ったが、思い過ごしにもほどがあったらしい。
それとも今日この日にゴミを渡してくんのは、わざとか。


「……見せてみろ」


……ランセに限って、嫌がらせは、ない。
それをやればどうなるか、あとでわかってるからだ。


「……どうぞ」
「あぁ……」
「………」
「……、…意図は」


嫌々といった風に渡されたものに目を向ければ、形が歪なブローチだった。
そして恐らくこの形は――自由の、翼。


「……訓練兵の、使えなくなった剣から作りました」
「……」
「別に、教官に渡すために作ったんじゃありませんが……持ってて、下さい。それの材料、…今いる者と、脱落した者と……全部合わせて、混ぜたものなので」


――脱落した者。
それの意味はすぐわかり、そしてわかると同時に、腹が立った。
いくら俺が嫌いでも、素直に渡す気がなくとも。
弔いを込めて作られたものを、こいつは、ゴミと言ったのか。


「ッ!? いッ……っう…!」
「てめぇの頭は、相変わらずふざけてやがるな」
「な……んですかッ」


痛みで涙目になったランセが、踏まれた足を抱えながら睨み付けてくる。
怖くねぇよ、ちっとも。


「自分のことは、自分でけりをつけろ。これを俺が持っていたところで俺が確実に生きていられる保証はねぇ。俺が持とうがお前が持とうが、変わらない」
「……っ…でも…!」
「でもじゃねぇ。俺はこれを受け取ることは…、………」


……ちらっと。
手の中のブローチを見て、固まった。


「………」
「……教官?」
「……」
「……ちょっと……なんですか。黙ってると気持ちわ、…気になるんですが」


足の痛みもひいたらしいランセが姿勢正しく俺を見てきた。
そこではっと意識が戻り、自分がしでかしたことに頭が痛くなりそうになる。


「……ランセ」
「はい」
「お前が持ってろ」
「は、………えっ!?」


真っ二つに分かれた、ブローチ。
その内の片翼をランセに渡し、ぽかんとしている間抜け面に、とりあえずの言葉をかける。


「…俺に受け取って欲しいなら、この半分は持っておいてやる。もう片方はお前が持っておけ」
「……教官、これ今足踏んだ時に教官がこわ、」
「それから、それ捨てるなよ。ゴミでもねぇ。大切にしろ」
「……はい」


……流石に、少しは罪悪感が残った。

だが。

手に残った片翼の重みは、確かに自分が背負うべきもので。
手から離れた片翼は、俺が託すべきもので。

そしてこのブローチの存在は、こいつが悩み抜いた答えで。


曇りのないランセの顔を見るのは、多少なりとも、気分が良かった。




いつかとべる日まで
20140210
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