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Day One


巨人というものは、本当にいたらしい。

いや、いたらしいとかなんだよって話なのだけど。つい最近100年の沈黙を破って巨人が人に奇襲をかけたのだから、確かにいるのだろう、という話だ。実のところ私はその巨人を見たことがない。超大型巨人が現れたあの日は、私が目にしたのは巨人よりも大量に溢れてくる人。人、人。人ばっかだ。ウォールマリアから内地に逃げようとすれば、必ずウォールローゼの突出した4つの区域を通らなきゃいけない。よって、その区域には人が溢れるのだ。どんどんどんどん、溢れては、またローゼ内地にと逃げ出す。私も両親に手を引かれながら、何が起きてるのかもわからないまま走っていたのをよく覚えている。
だけど、それだけで。私にある記憶は、巨人じゃない。
だから巨人は、いたらしい、のだ。

――まぁ、そんなこと言ってるからこうなったんだろうなぁ。
自分で回路を巡らせた結論がこれだ。そうなってしまえばもう考え事は巨人より別のことに移ってしまうのはいつものことで、そしてそれは考えても曖昧な結論しか出ないのだ。思わず呆れて笑ってしまうのも、その一連の習慣の最後だ。
となると、

「ランセ」
「あっ、はい」

言ってから、しまったと思った。
こういうタイミングでこれがくるのも、もはや私には習慣になりつつある。のに、ぼんやり自分の世界に馳せていたせいで気の抜けた返事をしてしまった上、最初にいらぬ言葉が入った。近くにいる同期連中が緊張の空気を醸し出し、遠くにいた仲の良い奴らがあちゃーという顔をした。ちくしょう、わかってるわ。

「失礼致しました! ご用件は何でしょう!」

作業でしゃがみこんでいた体を立ち上がらせ、姿勢を正し出来うる限りの綺麗な敬礼をする。所謂「心臓を捧げよ」ってやつだが、私はその意味も未だに実感が沸かずにポーズだけとってるようなものだったりする。駄目だなあ、ほんとに。

「……おい」

あ、やばいまた脱線した。なんて私が思うとほぼ同時に耳に入る言葉。そこでようやく特別教官の目に視線を合わせれば、案の定眉間に皺が寄っていた。いつも寄っているからなんとも言えないけれど、私としては多分これ怪訝な顔というか軽蔑してる顔なんじゃないかなと思ってる。今に限った話じゃない。私と対面する時は、いつもだ。
ってことはもう今日もアウトなんだろうな〜なんて、気の抜けたことを考えればやはりというか流石というか、特別教官はそれにすら気づいているんだと思う。結局何で話しかけられたのか用件もわからないまま、特別教官は一言だけ残して去っていった。

「片付け終ったら、訓練所周りを二十周してこい」

もはや訓練所内ですらないのか…。
うわあというのを全面に顔に出していれば、今度こそ同期からあ〜あと言われる声が聞こえた。うっせぇな。
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