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Battle Mental
うあああ死にそう!と後半自棄になりながらも全力疾走した。ゴールしたら立ち止まらずに歩いた方がいいのは知っているけれど、横っ腹が痛くなるとかそんなことより寝転びたかった。けれど寝転んだ日にはまた二次災害が起きるのは目に見えていたので、その場に座り込むことで代用した。疲れた。とても。
全身の力を抜いて、体を支える手だけに必要最低限の力を入れる。ゆっくり呼吸をしながら、動く気力が出るのを待つ。その内ゆっくりと顔を動かせば、食堂の辺りから騒がしい声が聞こえるのがわかった。いいなぁ私もご飯食べたい。今頃きっと同期連中は私を見て笑っているのだろう。主にお調子者のファイが。というか心の底からからかってやがるのはあいつくらいだろう。許さん。
「イグノー!ご飯取ってあるからねー!」
「…ふぁー…ありがとー」
ばたん!と突然空いた窓からそんな声が聞こえて、回らない呂律と届かない声を出しながら手だけ振った。それに満足したのか、窓は静かに締まり、後からはファイがフィグメントに怒られてる声が聞こえた。ざまぁみろファイ。フィグメントは私の味方なんだぞ。
普段よくつるんでいる二人の声をかすかに聞きながら、ようやく私も体に力を入れた。このままストレッチしてご飯、としたいところだが、そうはいかないのが世の常。走ったからには報告に行かなければならないのだ。あの人はそういうことにも細かい。
しっかりストレッチをして、体についた砂も出来るだけ払った。多少の汚れは勘弁して欲しい。
訓練兵が教官の部屋へと赴くのはそんなに滅多にあることじゃない。けれど私はもう何度もそこに足を運び、他の教官方もそれに慣れてしまったのか私が歩き回っていても何も言わない。時折呆れたように「また何かしたのか、」とため息吐くぐらいだ。そこで別段文句を言われるわけでもない。恐らくこの理由のわからない扱いが理不尽すぎることは教官方も思っていることだ。だからそれ以上怒られることはないが、けれど私に味方するようなことは言わない。自分にはわからないが、何か理由があるのだろう。そう思っているに違いない。だって相手はあの、特別教官なのだから。
慣れた道を歩いた先、一つの部屋の前で立ち止まる。一度服装や髪の乱れを整えて、ふうと息を吐き出してからよしと意気込んでドアをノックする。名乗る前に聞こえた入れ、という言葉に従って失礼しますと扉を開けば、部屋の主は書類とにらめっこしていた。
「イグノ・ランセ。訓練所周り二十周終えました!」
「あぁ、見てた」
しっかり、胸を張って敬礼をした。走り終わった今、目は冴えている。先ほどのようにぼんやりしてもいない。けれど教官はその私に目を向けることはなく書類を見続けている。本当に見てたのかよ、嘘つけ、と頭ん中で悪態をつくが、見るなら走ってる姿より今ちゃんと敬礼してることにして欲しいよなあと思う。見てないなら、気を抜いてもいいだろうか。何か言われると思ったのに、拍子抜けにもほどがある。
「えっと…では私はこれで……」
「ランセ」
「はい!」
「この資料運べ」
「……えっ」
ちらりと視線が向けられて、慌てて謝る。しかし意味がわからず特別教官を見ていれば、教官もそれは仕方ないと思ってくれたのだろう。部屋の隅にある紙の山を指しながら、あれだ、と言った。
「最後、いきなりスピードあげただろ。体力が残ってる証拠だ。序盤もペースが遅いし時間がかかり過ぎた。それに走ったあとも暫く座ってたんだから、もう回復してんだろ」
「え…えっ、と……」
「あと今の敬礼。本気で疲れてんならそんなに綺麗に敬礼出来ねぇよ」
そのあと気が緩んだのも疲れが原因じゃねぇな、と続けられてしまっては、返す言葉もない。本当に見てやがったこの人…見てるなら敬礼見てくれと思ったけれど、撤回だ。それなら見ないでくれた方が良かった。
別に手を抜いて走ったつもりではなかったけれど、指摘されてしまえばそうなのだろう。訓練兵が限界を決めるな。これは前に特別教官に言われた言葉だ。
「…わかりました」
隅にある紙山を、おそらくこれに入れろということだろう、近くにあった箱に詰めて、それが三つになってから持ち上げた。すごく重い。これを二階上の部屋に運べというのだから、この人は間違いなく鬼だ。
とりあえず部屋にいたくないので三つの箱を一旦教官の部屋の前に置いた。あとは一つか二つずつ運ぼう。箱を全て部屋から出したあたりで、「それの報告は明日でいい」と声がかけられた。相変わらず私を見てはいない。
失礼しましたと扉を閉めて、箱を眺める。それからふつふつと気持ちがこみあげてきて、箱を持ち上げ暫く歩いた階段あたりで、適度な音量で叫んだ。
「リヴァイ教官のっ…ばああああか!!!」
次の日、教官の当たりが厳しかったのは言うまでもない。
- 3 -
全身の力を抜いて、体を支える手だけに必要最低限の力を入れる。ゆっくり呼吸をしながら、動く気力が出るのを待つ。その内ゆっくりと顔を動かせば、食堂の辺りから騒がしい声が聞こえるのがわかった。いいなぁ私もご飯食べたい。今頃きっと同期連中は私を見て笑っているのだろう。主にお調子者のファイが。というか心の底からからかってやがるのはあいつくらいだろう。許さん。
「イグノー!ご飯取ってあるからねー!」
「…ふぁー…ありがとー」
ばたん!と突然空いた窓からそんな声が聞こえて、回らない呂律と届かない声を出しながら手だけ振った。それに満足したのか、窓は静かに締まり、後からはファイがフィグメントに怒られてる声が聞こえた。ざまぁみろファイ。フィグメントは私の味方なんだぞ。
普段よくつるんでいる二人の声をかすかに聞きながら、ようやく私も体に力を入れた。このままストレッチしてご飯、としたいところだが、そうはいかないのが世の常。走ったからには報告に行かなければならないのだ。あの人はそういうことにも細かい。
しっかりストレッチをして、体についた砂も出来るだけ払った。多少の汚れは勘弁して欲しい。
訓練兵が教官の部屋へと赴くのはそんなに滅多にあることじゃない。けれど私はもう何度もそこに足を運び、他の教官方もそれに慣れてしまったのか私が歩き回っていても何も言わない。時折呆れたように「また何かしたのか、」とため息吐くぐらいだ。そこで別段文句を言われるわけでもない。恐らくこの理由のわからない扱いが理不尽すぎることは教官方も思っていることだ。だからそれ以上怒られることはないが、けれど私に味方するようなことは言わない。自分にはわからないが、何か理由があるのだろう。そう思っているに違いない。だって相手はあの、特別教官なのだから。
慣れた道を歩いた先、一つの部屋の前で立ち止まる。一度服装や髪の乱れを整えて、ふうと息を吐き出してからよしと意気込んでドアをノックする。名乗る前に聞こえた入れ、という言葉に従って失礼しますと扉を開けば、部屋の主は書類とにらめっこしていた。
「イグノ・ランセ。訓練所周り二十周終えました!」
「あぁ、見てた」
しっかり、胸を張って敬礼をした。走り終わった今、目は冴えている。先ほどのようにぼんやりしてもいない。けれど教官はその私に目を向けることはなく書類を見続けている。本当に見てたのかよ、嘘つけ、と頭ん中で悪態をつくが、見るなら走ってる姿より今ちゃんと敬礼してることにして欲しいよなあと思う。見てないなら、気を抜いてもいいだろうか。何か言われると思ったのに、拍子抜けにもほどがある。
「えっと…では私はこれで……」
「ランセ」
「はい!」
「この資料運べ」
「……えっ」
ちらりと視線が向けられて、慌てて謝る。しかし意味がわからず特別教官を見ていれば、教官もそれは仕方ないと思ってくれたのだろう。部屋の隅にある紙の山を指しながら、あれだ、と言った。
「最後、いきなりスピードあげただろ。体力が残ってる証拠だ。序盤もペースが遅いし時間がかかり過ぎた。それに走ったあとも暫く座ってたんだから、もう回復してんだろ」
「え…えっ、と……」
「あと今の敬礼。本気で疲れてんならそんなに綺麗に敬礼出来ねぇよ」
そのあと気が緩んだのも疲れが原因じゃねぇな、と続けられてしまっては、返す言葉もない。本当に見てやがったこの人…見てるなら敬礼見てくれと思ったけれど、撤回だ。それなら見ないでくれた方が良かった。
別に手を抜いて走ったつもりではなかったけれど、指摘されてしまえばそうなのだろう。訓練兵が限界を決めるな。これは前に特別教官に言われた言葉だ。
「…わかりました」
隅にある紙山を、おそらくこれに入れろということだろう、近くにあった箱に詰めて、それが三つになってから持ち上げた。すごく重い。これを二階上の部屋に運べというのだから、この人は間違いなく鬼だ。
とりあえず部屋にいたくないので三つの箱を一旦教官の部屋の前に置いた。あとは一つか二つずつ運ぼう。箱を全て部屋から出したあたりで、「それの報告は明日でいい」と声がかけられた。相変わらず私を見てはいない。
失礼しましたと扉を閉めて、箱を眺める。それからふつふつと気持ちがこみあげてきて、箱を持ち上げ暫く歩いた階段あたりで、適度な音量で叫んだ。
「リヴァイ教官のっ…ばああああか!!!」
次の日、教官の当たりが厳しかったのは言うまでもない。
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