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Life Vision
世の中に期待しているかと言われたら、そうではない。残念ながら私は熱意も何もない子供だった。
世界について問われれば、虚構という言葉が浮かんだけど、そんなのは本で見かけて知っているくらいの言葉で、意味はよく知らない。
そんな私が何故訓練兵団なんぞにいるのか。
それも、よくわからない。
846年。
超大型巨人によるウォール・マリア襲撃の直後。
歴代の中でも更に入団数が少ない中、訓練兵団103期生の入団式が行われた。
私も例外なくその入団式に参加したわけで、訓練兵団の洗礼とやらを受けた身である。少ない人数じゃまわるのも早くて、一番最後にいた私も大して頭を捻らせないまま順番が来てしまった。それでも他の人に比べたらまだ胸張って真っ直ぐ発言したのだから、その辺は評価して欲しい。だってその後、控えていた特別教官に胸ぐら掴まれ、睨みつけられ、目をつけられてしまったのだから。少しくらいはプラスもあっていいじゃない。
「げっ」
「あ?」
記憶を辿って思い馳せていれば、曲がり角で記憶の人物に出くわしてしまった。
油断していたため思い切り顔をしかめてしまったけれど、教官は特に気にしていないのだろう。すみませんと口にしても文句は言われなかった。
「…早いですね。明日の午後にいらっしゃると思ってました」
「テメェがもっと早く終らせてりゃ、俺もゆっくり出来たんだがな」
「だったら、他の訓練兵にも手伝わせれば良かったのでは」
「一人で十分だ、あんなの」
勘違いしてはならない。その言葉は決して「私だから十分」という意味ではない。誰であろうと十分だがお前だったから遅れた、という貶し言葉だ。
もうほんとにこの人、いやになるなぁとぼんやり思った。
私が入団式の時に言ってしまった咄嗟の言葉は、リヴァイ教官の勘にさわったのだ。胸ぐら掴まれた時は誰だこいつと思っていたけど、それが超大型巨人登場による、実践的で優秀な兵士を育成する為の特別措置、調査兵団所属の特別教官だと知った時には絶望した。しかもこの訓練兵団にきた特別教官は、次に超大型巨人が現れるとされるトロスト区が近いからだろうか。人類最強などと囁かれてるリヴァイ分隊長が配属されていた。えええ、絶対きびしいじゃーん…という訓練兵の予測は見事に当たっていて、私は特に怯えたものだ。
「壁外調査ですか」
「あぁ」
「……」
「暫く俺が来ねぇって安心してんだろうが、課題は出すぞ」
「……あー…の、」
「図星だな。相応に覚悟しておけ」
見えないところでサンドバッグしたい。今の心境はそんな感じだ。
しかしそれでも、やっぱり特別教官がいないのは嬉しい。課題ぐらい甘んじて受け入れてやろう。
元からさして話す間柄でもない上、今は別に訓練中でもない。私が向かっていた方へ歩き出した教官に、微妙に着いていく形になりはしたが、特に会話の必要性がないためまたいつも通り気を抜いてぼんやりしていた。まさか私生活でも何か文句つけるわけなかろう、と思っていたのだけど、しばらく歩いたところで「おい、」と教官から声がかかった。一瞬びっくりしたが、こちらを振り向くわけでもない。注意、ではないとみた。
「なんですか?」
「どう思う?」
「はい?」
「俺はもうすぐ、壁外調査に行く」
「そうですね」
「どう思う?」
「何がですか?」
ぴたりと、不意に教官が足を止めた。私も立ち止まる義理など本来はないが、会話の途中だ。自然と私も止まることになる。けれど私はこの会話の内容も意図も全く理解していない。私はいま怪訝というよりきょとんというアホ面を晒しているだろう。教官も私のその面は予測しているのだろうが、そんなアホ面に何の用なのか。教官は振り向いて私に目線を合わせた。
「俺が壁外調査に行くことについて、正直、お前はどう思う?」
教官の表情に意味があるのかもわからない。真顔だ。
それ、だからどういう意味ですか。なんて聞きたい気持ちがあった。実際私は今も何もわからない顔をしていることだろう。それでも教官は何も言わない。その言葉が全てなわけだ。そしてこの問いかけは、いつも当たりが酷い教官が私にするにしては、真剣だということもわかった。
なんなんだ。よくわからない。勝手に行けば良いじゃないか。
あんたが選んだ道だろ、といつもの癖のように頭の中では悪態つけているが、それすら第三者の言葉に思えてくる。何か違う。何かを考えなきゃいけない。何かを答えなきゃいけない。よくわからない気持ちだけが、溢れてくる。でも、何かわからない。
「正直…」
「……」
「…正直、なら…、私は……」
必死に声を絞り出す。
考えろ。弾き出せ。
これは答えを、返すべき問いだ。
「……わかりません」
ぽつりと、素直に呟いた。教官の目は見れない。
自分でもよくわかってない状況だけど、それでもきっと今、私の目は動揺してる。表情もアホ面どころじゃない。なんでかわからない。わからないけど、視界が歪んでくるんだ。わからないけど、でも、
「……そうか」
――悔しくて、仕方ないんだ。
私を置いて歩き出した教官を、前に振り向く前にちらりと盗み見みて。ほんの少しだけ細められた目がどういう意味だったのか。
初めて、リヴァイという人のことを考えた。
- 6 -
世界について問われれば、虚構という言葉が浮かんだけど、そんなのは本で見かけて知っているくらいの言葉で、意味はよく知らない。
そんな私が何故訓練兵団なんぞにいるのか。
それも、よくわからない。
846年。
超大型巨人によるウォール・マリア襲撃の直後。
歴代の中でも更に入団数が少ない中、訓練兵団103期生の入団式が行われた。
私も例外なくその入団式に参加したわけで、訓練兵団の洗礼とやらを受けた身である。少ない人数じゃまわるのも早くて、一番最後にいた私も大して頭を捻らせないまま順番が来てしまった。それでも他の人に比べたらまだ胸張って真っ直ぐ発言したのだから、その辺は評価して欲しい。だってその後、控えていた特別教官に胸ぐら掴まれ、睨みつけられ、目をつけられてしまったのだから。少しくらいはプラスもあっていいじゃない。
「げっ」
「あ?」
記憶を辿って思い馳せていれば、曲がり角で記憶の人物に出くわしてしまった。
油断していたため思い切り顔をしかめてしまったけれど、教官は特に気にしていないのだろう。すみませんと口にしても文句は言われなかった。
「…早いですね。明日の午後にいらっしゃると思ってました」
「テメェがもっと早く終らせてりゃ、俺もゆっくり出来たんだがな」
「だったら、他の訓練兵にも手伝わせれば良かったのでは」
「一人で十分だ、あんなの」
勘違いしてはならない。その言葉は決して「私だから十分」という意味ではない。誰であろうと十分だがお前だったから遅れた、という貶し言葉だ。
もうほんとにこの人、いやになるなぁとぼんやり思った。
私が入団式の時に言ってしまった咄嗟の言葉は、リヴァイ教官の勘にさわったのだ。胸ぐら掴まれた時は誰だこいつと思っていたけど、それが超大型巨人登場による、実践的で優秀な兵士を育成する為の特別措置、調査兵団所属の特別教官だと知った時には絶望した。しかもこの訓練兵団にきた特別教官は、次に超大型巨人が現れるとされるトロスト区が近いからだろうか。人類最強などと囁かれてるリヴァイ分隊長が配属されていた。えええ、絶対きびしいじゃーん…という訓練兵の予測は見事に当たっていて、私は特に怯えたものだ。
「壁外調査ですか」
「あぁ」
「……」
「暫く俺が来ねぇって安心してんだろうが、課題は出すぞ」
「……あー…の、」
「図星だな。相応に覚悟しておけ」
見えないところでサンドバッグしたい。今の心境はそんな感じだ。
しかしそれでも、やっぱり特別教官がいないのは嬉しい。課題ぐらい甘んじて受け入れてやろう。
元からさして話す間柄でもない上、今は別に訓練中でもない。私が向かっていた方へ歩き出した教官に、微妙に着いていく形になりはしたが、特に会話の必要性がないためまたいつも通り気を抜いてぼんやりしていた。まさか私生活でも何か文句つけるわけなかろう、と思っていたのだけど、しばらく歩いたところで「おい、」と教官から声がかかった。一瞬びっくりしたが、こちらを振り向くわけでもない。注意、ではないとみた。
「なんですか?」
「どう思う?」
「はい?」
「俺はもうすぐ、壁外調査に行く」
「そうですね」
「どう思う?」
「何がですか?」
ぴたりと、不意に教官が足を止めた。私も立ち止まる義理など本来はないが、会話の途中だ。自然と私も止まることになる。けれど私はこの会話の内容も意図も全く理解していない。私はいま怪訝というよりきょとんというアホ面を晒しているだろう。教官も私のその面は予測しているのだろうが、そんなアホ面に何の用なのか。教官は振り向いて私に目線を合わせた。
「俺が壁外調査に行くことについて、正直、お前はどう思う?」
教官の表情に意味があるのかもわからない。真顔だ。
それ、だからどういう意味ですか。なんて聞きたい気持ちがあった。実際私は今も何もわからない顔をしていることだろう。それでも教官は何も言わない。その言葉が全てなわけだ。そしてこの問いかけは、いつも当たりが酷い教官が私にするにしては、真剣だということもわかった。
なんなんだ。よくわからない。勝手に行けば良いじゃないか。
あんたが選んだ道だろ、といつもの癖のように頭の中では悪態つけているが、それすら第三者の言葉に思えてくる。何か違う。何かを考えなきゃいけない。何かを答えなきゃいけない。よくわからない気持ちだけが、溢れてくる。でも、何かわからない。
「正直…」
「……」
「…正直、なら…、私は……」
必死に声を絞り出す。
考えろ。弾き出せ。
これは答えを、返すべき問いだ。
「……わかりません」
ぽつりと、素直に呟いた。教官の目は見れない。
自分でもよくわかってない状況だけど、それでもきっと今、私の目は動揺してる。表情もアホ面どころじゃない。なんでかわからない。わからないけど、視界が歪んでくるんだ。わからないけど、でも、
「……そうか」
――悔しくて、仕方ないんだ。
私を置いて歩き出した教官を、前に振り向く前にちらりと盗み見みて。ほんの少しだけ細められた目がどういう意味だったのか。
初めて、リヴァイという人のことを考えた。
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