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Heat Up


リヴァイ特別教官と変なことを話してから早数週間。あれがなんだったかわからないし、最初のうちは悩んだものの、次の日「不細工な顔は直ったか」とか言われたからそれどころじゃなくなった。何なんだあの人酷いな!ちょっと傷ついたし恥ずかしかったわ!文句言いたい。
ちなみにその数週間の間に壁外調査も終わり、私達の特別教官がいない優雅な訓練生活も終わってしまった。いや、訓練に優雅も何もないけど、特別教官がいるのといないのとじゃ大違いだ。それこそいつもの訓練の例えに優雅なんて出てきちゃうほど、特別教官は容赦ない。

勿論、私に対する対応も相変わらずだ。出された課題は見事にこなせず、というかできるわけもなかったし教官もそれをわかっていたはずだ。難しい課題を達成出来なかった私は罰を受けたわけである。罰といっても、日常的に罰受けてる感があるから何が罰かよくわからないけど。

そうして、今日も今日とて、一人で馬小屋掃除です。


「ねぇ、イグノー?やっぱり手伝うよ?」
「ううん、大丈夫。逆に怒られそうだし、馬は割と好きだし」
「んー…ならいいけど…力になれなくてごめんね」

眉を下げながら言うフィグメントに、ほんとに優しいなぁとほのぼのする。馬もほのぼのだ。馬の扱いにはまだ慣れたとは言えないけれど、それでも癒されるくらいには馬が好きになってきた。
正直、立体機動の勉強より、馬術が好きだ。

「…ねぇ、ずっと聞いてみたかったことがあるんだけど…」
「なに?」
「イグノは、訓練兵を卒業出来たらどうするの?」
「…んー?」

作業する手を止めて、ぼんやりと宙を見る。そういえば、フィグメントは駐屯兵志望だっけ、と頭が思い至ったところで、彼女が入団間もない頃に夢を語ってくれたことを思い出した。夢、というと本人は否定してしまうのだが、私からしたら立派な夢である。今や駐屯兵だって、いつ巨人と戦うことになるかわからないのに。彼女はすごいなと思う。
ファイはやはり憲兵だと言っていた。というか、大半の人間はそうだ。やっぱり内地が良いというのは、誰であろうと思ってしまうことだと思う。

はて。
あぁそっか、忘れてたけど、これ前にも話した話題だ。
でも、その時私は、何を言っただろうか。

首を傾げて考えていると、フィグメントがため息を吐いた。「いまここに特別教官がいたら、また怒られてるとこだね」…返す言葉もない。


「あ、でも、思い出した。あれはそのあと、ファイが私をからかってきたんだ」
「入ったばっかの頃の?そりゃあね、びっくりしたもん」
「リヴァイ教官ほんとにわからない」
「特別教官じゃなくて、イグノが」

え?とまた首を傾げる。何か、変なことしたっけな。確かに入団式で私が咄嗟に口走ったことは間違いだったとは思うけど、びっくりするとなるとそれはその後の特別教官の行動の方じゃないだろうか。
じっとフィグメントを見つめていれば、フィグメントは困ったように笑った。きっとみんな思ってるよ、と前置きして、話す。

「私が言えたことじゃないけど、入団式の時はみんな緊張と恐怖でガチガチって感じで……不作とか噂されてるだけあるかも、って思っちゃったんだよね」
「うん」
「でも、一番最後にイグノが当たった時にね。…びっくりしたの。私達の誰よりもはっきり言葉を出して、すごく、なんていうか…凛としてる、というか」
「私が?」
「そう」
「…そんなばかな」

それは随分と、記憶が美化されてないかと疑う。もし凛としていたならそれは気のせいだし、はっきり言葉を出していたのはそうしないと後が怖いと思ったからだ。何かとんでもない勘違いを、同期は起こしているらしい。

「だからね、イグノはすごく信念持って訓練兵になった子なんだなって思ってたの。でも…」
「何もないよ?」
「…うん。そんな感じだから、びっくりしたの。ファイもね、あれからかいじゃなかったと思うんだ。あれが貴女の意思だって、本当に思ったから言ったんだと思うんだ」
「…そっかぁ」

それは、ほんとに、勘違いだ。
びっくりさせてしまったのは申し訳ないけれど、そんな勘違いはさっさと解けるに越したことない。こういってはなんだが、自分が見てわかるほどのダメ人間で本当に良かったなと思った。既に誤解はとけているようだけど、ここで一応もう一押ししとこうかな、と半分真剣半分冗談のつもりで弁解した。

「あのさ、私は近所の少年にもダメ女と言われるくらいなんだよ」
「それは威厳も何もないね」
「その少年も根はいいだけのクズなんだけどね」
「イグノ、よくない言い方」
「はーい」

フィグメントはにっと笑って、宿舎に戻っていった。その後ろ姿を見ながら、ふうとため息を吐く。
さて、私もそろそろ本気で片付けなくては特別教官がぶちギレてしまう。
わさわさと手を動かしながら、これ馬糞まみれで報告しにいったら教官発狂するかな、とか想像だけして遊ぶ。想像だ。あくまで、想像。実際にやったらそれこそ想像を絶するお仕置きが待っていることだろう。

…あれ…そういえば。
明日の買い出しは、私だった。
ということは、近所のあの小生意気な少年にも、久々に会えたりするんだろうか。話した次の日に会ったら面白いよなぁ。

なんてまた、ぼんやり考えた。
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