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Nostalgia


「よう、イグノ、サン?毛ぐらいは生えたかよ」
「あれ、ジャンくんじゃん?元気だったじゃん?ちょっとは成長したんじゃん?じゃんじゃじゃん?」
「てめ、人の名前で遊ぶんじゃねぇよ!」
「毛が生えたってなにどういう意味?育毛に興味はないけど」
「違ぇよ!赤子に毛が生えたようなもん、とか言うだろ!」
「あぁ」

相変わらずバカだな!なんて怒鳴られたけど、いきなり毛が生えたかとか聞かれてもわからんわ。バカは君の方だと言いたい。でも大人なイグノさんは言わないことにする。

貴様は何者だ。
トロスト区出身、イグノ・ランセ!

つい数ヶ月前のことを思いだしてしまう。せっかく久々に町に来たというのに、いやだなぁ。
何を隠そう、私の出身はトロスト区である。今の訓練所にいるのも、家から近かったからだ。始めの内は、もう暫くは町にも行けないんだろうなと思ったけれど、案外そうでもなかった。ごくまれに、買い出しに来たり、駐屯兵の仕事に駆り出されたり、してる。ただし入ってまだ一年目の訓練兵には、そんな機会は本当に少ないけれど。そういうのは本来、先輩方がやるものだ。
今回私がここに来れたのは「地元の人間なら早く帰って来れる」という理由からだ。地元の人間なら逆に遅くなるんじゃないかと思うところだが、そこはちゃんと制限時間が言い渡されている。長すぎず短すぎずな時間だ。キース教官、実は良い人なんじゃないだろうか…。

「なぁ、訓練はどんな感じだ?」
「や、最悪だね。キツイ。ツライ。無理」
「そんなにか!?」
「そんなにだよ。…強いていうなら、パンが食べれるのが得、かな」
「パン!?」

じゃあいいじゃねぇか!割に合わないんだよ。なんて会話を繰り広げながら歩く。今日町に行くなんて言ってないのに偶然会うとは、やはり昨日話に出したからだろうか。それともジャンは地獄耳なんだろうか…何か察知する力があるとか。
そういえば、昔から私が脳内で悪態つくと見破る子だった。恐ろしい。

「なぁ、今日はすぐ帰るのか?おじさんやおばさんには、」
「会えないし会う時間ないよ。お母さんたち元気?」
「…あんまり…でも、前よりは、全然良い」
「なら良かった」


――町に出て、愕然とした。
私は巨人なんて見たことない。巨人の被害も受けていない。だけど私は、私達には飢えという被害がきていた。私が訓練兵になる前も酷かったが、今はもっと進んでた。今まで住んでいたこの町にも、知らない人が溢れてる。マリアの人だ。みんなみんな、精気も覇気もない。怖いくらいに。

「ジャン」
「あ?」
「君が前と変わってなくて、良かった」

ジャンが渋い顔をした。言葉の意味は、この町に今も居るジャンならわかるだろう。

私はお母さんとお父さんが少しでも食べれるように、訓練兵になった。こだわりなんてない。信念もない。今もよくわからずに訓練兵になってる。でも、ここで町の腐敗を見ているよりは、よっぽど良い選択をしたんじゃないかと思う。
そして、こんな状況の町に、私は戻るわけには行かない。パンが食べれるだけ良いというのは、合っているのかもしれない。私は両親の負担になるわけにはいかないのだ。

「悪いけど、お母さん達に伝えて。ぶっちゃけ訓練兵も悪くないって」
「お前なぁ…」
「私は少なくとも三年は、パン食べる」
「それぶっちゃけ過ぎじゃねぇか。というかほんとに羨ましいぜ、パン」
「だろうな!」

ジャンと歩き回っている内に買い出しは終わってしまった。時間はまだまだあるのだけど、キース教官よりも怖いのは特別教官だ。早いに越したことはない。余ったお金で石鹸か雑巾でも買ってけば特別教官も甘くなるかなと思ったけど、勝手に買ったら怖いからやめとく。
じゃあ帰るわ、とジャンに手を振ると、次は毛生やしとけよ!と言われた。正直訓練兵は続けるけどやる気はないので、それすら無理かなと思った。
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