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味は気持ちしかない


※諦めろ仕方ない、の続きみたいな感じですが読まなくとも可。


 恋は盲目という言葉は恐ろしい言葉だと思った。これは酒は飲んでも飲まれるな並の良い得て妙な言葉ではないだろうか。恋はしても溺れるな、とでも言っておこう。しかしながら、恋に溺れるのも悪いことばかりではないかもしれないが、その辺りについてはまだなんとも言えない。


「柳くん!」
「……みょうじ?」

 校門の前でぽつりと一人。彼女がそうして俺を待つのは何も珍しいことではない。だが、いつもと曜日が違う。いつもならば彼女が俺を待つのは彼女の部活の活動日のみだ。今日はその活動日でもなければ、変更したという情報は俺には入っていない。彼女は部活がない日はすぐ帰っていたはずだ。
 なら、何故?
 これには俺でさえ首を傾げる。「柳先輩、ついに努力が……!」外野がそわそわし出した。俺も少なからず期待はしたが、残念ながらその可能性は限りなくゼロだと知っている。

「あの、…あのね、柳くん」
「なんだ?」

 頬を染めてもじもじ、とする彼女に次第に俺の中でもまさか……という期待が込み上げてくる。データは所詮データだったということか?今日が俺の誕生日であるせいもあってか、妙に気持ちが浮わついてしまう。

…………誕生日?


「まさか……」
「柳くん、誕生日おめでとう!」

 やはりか…!
 思わず隠すことなく口角をひきつらせてしまった。差し出された箱をちらりと見てみれば、相変わらず見た目はよかった。……しかしながら今回は………。

「なんだよぃ、このにおい……」

 そう。とてもおいしそうとは言えないにおいが溢れている。こればかりは疑問しか浮かばない。何故だみょうじ。何故作っておいてこのにおいに気づかない。

「あのね、柳くんが好きそうなものいれたんだ。あ、でもベースはチョコケーキだからちゃんと甘くて………あれ、柳くんチョコ大丈夫?」
「…大丈夫だ。………チョコは」
「よかった!」

 よくない。よくないぞみょうじ。
 いつもと変わらない、いや、寧ろいつも以上に期待のこもった視線を感じる。同時に後ろから、息を飲む音と哀れみの視線。

「……ここで食べたほうがいいか?」
「あっ……ご、ごめんなさいいつものくせで……。…ううん、ここで食べなくてもいいよ?」
「………いや。せっかくだ、ここで頂こう」

 柳せんぱああい!参謀うう!情けない声が後ろから聞こえてくる。大丈夫だ。後ろにこいつ等がいる限り骨は拾ってもらえるだろう。例えこの誕生日というめでたい日に何があろうとも、本望だ。好意を寄せてる相手のプレゼントを、誰が受け取れないと言うのか。

「では……頂きます」
「うん!」

ぱくり。もぐもぐ。


………………。


「え、ちょ………柳先輩!?」
「柳!?」
「参謀!?」
「蓮二!耐えるのだ蓮二!!」
「柳くん……!?」


―――恋は盲目という言葉は見事だ。
 こんな状況でさえ、避ける選択肢が浮かばないのだから。

「うまかった、ぞ……みょうじ」 
「! ほんと!?」


 あぁ、気持ちがこもり過ぎていて…な。





 そこで視界はフェードアウトした。




Happy birthday!
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