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変態と一緒


 


 口がうずうずする。口に入れたくて仕方ないくらいで、興味やら理性やらがばん!と爆発しそうな感じ。けど目の前にあってもくわえちゃダメだなんて、こういうのを生殺しって言うんだろうね。あぁ、うずうずする。


「おいしそうだなぁ……」


 じゅるり。そんな効果音でも付きそうなくらい視線を向けていれば、ぴたり。その持ち主はおいしそうに食べていたお弁当から箸を離した。


「……冗談じゃなか。変態に食わせるもんはないナリ」
「えええ……かじるだけでもいいんだけど…」
「ダメじゃ」
「じゃあ触るだけ……」
「俺の半径1メートル以内に入ってきなさんな」
「ええええええ……!」


 す、と更にお弁当から箸が離れていく。離れていくのはお弁当じゃない、箸だ。もっと言うなら、その箸を持つ手だ。
 細くて長い、そして男の子にしてはキレイで、かと思えば男性特有の骨ばった感じもある手。そこから上がっていって、キレイな手首、程よく筋肉のついた腕、少し猫背気味だけどがっちりした肩、筋が色っぽい首……あげ出したらキリがない。あぁもういいなぁいいなぁ!ちょっとでいいから噛みつきたいだけなのに、仁王くんはなんでそんなに嫌がるんだろう。そりゃあ自分でも気持ち悪いかなぁと悩んだ時はあったけど、仁王くんは私のこの数多くのフェチを知った上で尚関わってくるんだから、噛み跡の一個や二個や五個十個くらい仕方ないと思うんだけど。ホントにちょっとでいいのに。


「確かに俺はお前さんのその嗜好を受け入れたが、だからといって食わせるのはまた別じゃ」
「え、食べないよ噛むだけだよ」
「大差なか。いいか、俺は」
「ああああ!! 仁王くん仁王くん! 風で襟が捲れてる鎖骨見えてる耐えらんない! あぁでも見たい! 鎖骨噛みたいよおおお!!」
「聞け」


 これでいいんじゃろ、なんて言って仁王くんはワイシャツのボタンをきっちり第一ボタンまで締めた。その際の指がまた好みできゅんきゅんしたとは言えない。だって言ったらまた隠されちゃうもん。


「ったく……お前さんといると満足に飯も食えん」
「ならこなきゃいいのに」
「来なきゃ来ないで、お前さん禁断症状おきるじゃろ。理性ぶちぎれられんのは困る」
「禁断症状って……」


 そんな大層な、と溜め息吐けば仁王くんも溜め息を吐いた。我が儘な人だなぁもう。なんか噂ではコート上の詐欺師とか掴みどころないとか聞くけど、全くそんな感じはしない。ちょっと変人なだけで、仁王くんは案外普通の男の子である。そして仁王くんの身体は、最高のきゅんきゅんホイホイである。

 けれどやっぱり嫌われるのは避けたい。部位がどうのじゃなくて、こればかりは人としてただ人に嫌われたくないだけの感情。そして私の中では最高の理性。
 仕方ないから丸井くんとお菓子交換して手に入れたガムを食べる。これで少しは収まるはずだと思い込んでいれば、仁王くんは食欲が失せたらしくお弁当をしまい始めた。あーあ、勿体ない。


「いいか、しっかり噛むんじゃ。間違っても吐き出して俺に噛みついたりしないように」
「がまんひてまーふ」
「わざとらしく言うのやめんしゃい」


 意識して呂律をぐちゃぐちゃにしていれば、仁王くんはまた困ったように溜め息を吐いた。その時の吐息が妙に色っぽくて、うっかり声フェチまで発動しそうだった。あぁ怖い。


「仁王くん仁王くん」
「あー?」
「私、あなたの身体が好き」


 ぴし!空気と仁王くんが固まる。そのすぐ次の瞬間には仁王くんは口をぱくぱくさせながら言い方やめんしゃい……なんて言ってたけど、私は正しく正確な言葉を言っただけなのである。

 あぁ、おいしそう……。

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