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アフェットゥオーゾ・フォルティシモ



高校は世界が広がるとかなんとか、以前知人が言っていた気がする。が、実際その通りだと思った。


担任こと世界史のマルコ先生は、知的な人だ。ただ頭に果物乗っけてらっしゃる。私達の間ではあれをバナナと見るかパイナップルと見るかで分かれたが、結局落ち着いた先生のあだ名は黄色いマルコ。なら黄色くないマルコもいるのかと思ったけど、それはツッコまないお約束。
ただマルコ先生は、からかわれはしない。みんなちょっとはネタにするけど、バレるのは厄介。入学したばかりの頃から既に不真面目だった私は、授業中に携帯なうってた。いつものことだ。で、同じく不真面目なキッドに「あの先生バナナだよね」ってメールしたら、キッドもキッドで授業中にがっつり携帯見ててしっかりメールも見ちゃったから噴き出した。といってもバレないくらいの笑いだった。
あーあ、バカめーなんて内心笑っていれば、あろうことかマルコ先生は余裕で気づいて、ちゃっかりメール内容をチェックしちゃって、私まであぶり出された。「世界史レポート100枚やるか、次から気をつけるのどっちがいいよい?」とかニッコリ笑顔で言われた時から、もう授業中に携帯はいじらなくなった。100枚とか怖すぎる。マルコ先生パないっす。

私が気になってる二人目の先生は、女子からは素敵で無敵なサっちゃん。男子からはおいサッチこのやろう、の愛称で慕われている家庭科のサッチ先生だ。
言っておくけど、どちらの呼び名もけなしてるわけじゃない。生徒との距離が近いというか、なんとも良い人だからそのノリである。適度に手ぇ抜いてるくせにやるときはやるサっちゃんはホントに良い人。何故かマルコ先生と仲がいいらしく、あの二人に説教される時には知的で無敵なコンビとか称される。
そんなサっちゃん。何故だか髪型がリーゼント。「いいかお前ら、リーゼントでも公務員になれるんだぜ!」なんて言われた日には、どんな生徒でも希望を持てる。うちの高校大丈夫か、とか気にしない。男子にはからかわれ、女子には笑われるリーゼントだが、調理実習となると流石に邪魔なのか、髪を下ろして後ろで束ねる。しかも普段おちゃらけてるくせに、何か作ってる時は真剣モードになる。
サっちゃん、ちょーかっこいい。

他にも色々気になる人はいるけど、直接的関わりはこんなもん。


「……ってことで、中々楽しくやってるよ」
「ふーん。みてぇだな」


ニカっと笑う幼なじみに、私も笑顔になる。
中学高校は違うけど、小学校で一度同じクラスになって私が転校するまでに仲良くなった。それからも定期的に会ったり、ね。今日も今日とて、ファミレスで用もなく集まってる。久しぶりに感じるけど、変な気まずさも何もない。
親友とも言える、幼なじみだ。


「エースは?どうよ?」
「んー、つまんねぇよ。まだ一年なのに進路がどーの言ってるし」
「そりゃあ、ここいらじゃ一番の進学校じゃね」
「んー……」


チャラチャラしてるかと思いきや、中学でしっかり勉強しちゃってすごく頭の良い高校にいった幼なじみ。
いいことかもしれないけど、確かにつまらなそうだ。


「へっへー、羨ましい?」
「おー、すごく」
「いいだろー」


なんとなく嬉しくて自慢をすれば、エースはじっと真顔で見つめてきた。
こんな自慢で気を悪くするようなやつじゃないはず、と思い訝しげに見つめ返せば、なぁ、と呼ばれた。


「おれ、お前のこと好きだわ」


…………え。
たっぷり20秒は待ってから出たのは、それだけだった。
何言ってんだお前、みたいな、嘘ですね、とかそういった言葉は出てこない。こういう顔のエースは本気で言ってるって、知ってるから。
未だ展開について行けず混乱していれば、エースは気づいてないのかそうでないのか、よし!と気合いを入れて座り直した。


「おれ、転校する!」
「………はぁ?」
「今の学校つまんねぇし、金かかるし、なまえの学校行くわ。どーもお前の学校におれの知り合い集まっててよ、楽しそうなんだよなぁ」
「なっ……あんな良い学校入っておいて何をいう!」
「いんだよ、ノリだから」


それでいいのか、と言いたくなったけど確かにエースはノリで難関校を受けて、受かったノリで進学した。それこそ自慢かちくしょう、と思ったが、ぶっちゃけエースのそのノリは私が促したものだからなんともいえない。実に申し訳ない。


「え、でもうちの学校遠いでしょ」
「あー、おれも途中で引っ越したからなぁ………まぁ、いいよ。なんかあのクソ親父の知り合いにすげえ良い人がいてさ。その人ん家で下宿する」
「え〜……そんな良い人なの?」
「ん。おれの心のオヤジ」


至極嬉しそうに笑うから、私も何も言えなくなる。父親嫌いなのは知ってるけど、それは良いことなのか……?流石に可哀想すぎる。
私が一人でもやもやしてても、エースの中ではどうやら決定事項らしい。サボに会いてぇなあ、なんて暢気に呟く姿に力が抜ける。ってゆーか、サボ君?え?あの?サボ君と知り合いなら紹介してよ。我が校の期待の一年なのに!


「……まぁ、エースがくるっていうなら楽しそうだからいいんだけどさ」
「おう。待ってろよ!」
「うん。待ってみる」


じゃあおれ帰るわ、とさっそく準備に取りかかる気満々なエースがなんだかほほえましい。今は夏休み。来るなら二学期からだろうか。本当に楽しみだ。
会計を済ませて店を出て、じゃあ、と言おうとしたところで「あ、なまえ」呼びとめられた。


「さっきの、うやむやにすんなよ」
「………ん?」
「返事はまだ聞かねェけど、頭入れて、覚悟だけしとけよ」


じゃあ、と片手を上げてから自転車で颯爽と去っていくエース。
何を言われたのかと理解した頃には、顔があつかった。

いやいや、夏のせいだから!!

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