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比例距離
私には、従兄弟がいます。
正確に言うなら血は繋がってない従兄弟。父さんの弟夫婦はお子さんができなくて、施設から男の子を引き取ったらしい。その当時私はまだまだ幼くて、施設なんてものが本当にあるのかということすらわかっていなかった。言葉だけでしか、その単語を知らなかったのだ。おかげで私は何の悪意もなく、どんなとこ?と聞いてしまった。それも自分の親にではなく、本人に。引き取られてきた子供の方に、直接聞いてしまったのだった。
「……なまえさん?」
外は雨が降っている。完全な予想外だった。
従兄弟が住んでるマンションの入り口で体育座りをしていれば、傘を差して従兄弟が帰ってきた。私服ということは、今までどこかに行ってたのだろうか。……学校、ちゃんと行ってるのかな。
「おかえり、タクミくん」
お土産持ってきたよ、と手に持っていた紙袋を掲げる。取手は既に、雨でよぼよぼになっていた。
***
「とりあえずシャワー浴びますか?」 「え、タオルだけでいいよ」
「風邪引いたら困るデショ?……それに、まだ帰りもしないんだろうし」
「………えへ」
従兄弟……タクミくんは。
テキパキと対処してくれた。流石独り暮らししてるだけあるなぁと思ったけど、その独り暮らしは喜べないことだからなんともいえない。私達とタクミくんには決定的な確執がある。結局埋めることの出来なかった溝が、今も深く存在する。
それでも叔父さん達は彼を放っておくわけもなく、定期的に誰かが連絡を取ったり、会いに行ったりする。そしてそれとなく近状を聞くのだ。私はタクミくんが独り暮らしを始めた当初は仕方ないかなと思っていたけれど、今はそんなに気にかけてるならまた頑張ればいいのにと思ってる。私の無神経は健在だ。
「タクミくんさー」
「はい?」
「学校、行ってる?」
シャワーから出て真っ先にそう言えば、タクミくんは一瞬気まずそうな顔をした。あー、こりゃ毎日ちゃんとは行ってないな。
「昨年留年したんだっけ?ってことは、今年も留年したら退学になんのかなぁ」
「………」
「あぁでも、一応自分で稼いでるんだっけ。なら確かに学校行かなくとも……いやいや、どうなんだそれは……しかし義務教育じゃないし……」
うんうんと唸っていれば、タクミくんは無言でただ見てきた。なんとなく困ってるように見えた。部屋着はニコちゃんなのに、本人とは真逆なのが面白い。というかさっきの私服との差がハンパなくて笑える。身長が高いからせいもあるかもしれない。タクミくんは色々意外性があって楽しい。
――あぁそう、意外性と言えば。
「タクミくん、普段はめちゃくちゃゆっくり話すんだね」
「………は?」
素で、完全に素で驚いたようだった。不意を突かれたのだろう。目をぱちくりさせていた。
「いやこの間ちょっとこっちに用があって来たんだけどね、駅周辺で…友達かな?同じ制服の男の子達と一緒にいるの見かけたんだ」
「…………」
「タクミくんは、あんな風に笑うんだね」
――ウヅキくんさぁ、オレにエビフライ奢ってくんない?あぁ、構わないがとりあえず今はキョウスケが作ろう。なんでだよ!
いやぁ、男の子の友情っていいよねぇ。楽しいわ。
思わず思い出してほんわかしていると、タクミくんは更に驚いたような、不思議そうな、観察するような……なんとも形容し難い表情で見てきた。いやさっきから常に見られてるんだけどね。
「……なまえさんってさぁ」
「ん?」
「前々から思ってたけど、それ、素?」
比較的気を抜いた感じに尋ねられた。珍しい。
しかし質問の意図がわからず首を傾げる。
「俺に色々聞いたり、そーんなに気にせず一方的に話すの、巳城の中じゃなまえさんだけだよ」
―――…一瞬、本当に一瞬。
タクミくんが、ひそかに笑った気がした。
……考えてみれば、最近では私がよくタクミくんの様子見に向かう。叔父さん曰く、「自分より君の方がタクミと話が出来る」そうで、叔父さん達とはあまり話さないらしかった。私としてはあまり彼と話した覚えはなく、よくわからない言葉だった。が、叔父さん本人が言うならそうかもしれない。時折私が既に知っているタクミくんの話を、叔父さん達は全く知らないということがある。もしかしたら私のこの無神経さが逆に、彼と普通に接しられてるということになるのかもしれない。
……まぁ、でも。
「じゃ、今小雨っぽいし帰るわ」
私達の距離は、いつも平行にして、比例している。
私が他人だと思えば、その分彼はきっと私を他人だと思う。私は彼を従兄弟と認識しているけれど、私は元々自分の家族以外の親族に家族意識は少ない。良くも悪くも思ってないし、かといって友人でも知人でもない。中途半端な立ち位置だと思う。タクミくんも、例外ではない。
そんなわけで、私は気にしないから普段通りゆっくり話せばいいのに。
そう思っても、やっぱりわざわざ言う気にもなれず玄関に向かった。
「じゃあ、またいつか。学校行く行かないはよくわかんないけど、とりあえずちゃんと生きるんだよ」
「はい」
「うん。じゃ」
我ながら素っ気ない。
特に脈絡も意図もない会話をしただけだったが、きっと叔父さん的にもタクミくん的にもこんくらいでいい。適当になんとかやれてるみたいですと報告すればいいだろうか。実際は、なんとかどころじゃなくちゃんとやってるみたいだし。
「あ、そうだ」
「?」
叔父さんにもう1つ、交流の機会を与えなくては。
「今度来る時は、エビフライ持って来ようか?」
「………なまえさん、作れるんですか」
「え、私が作んの?」
「多分、俺の方がうまいと思うケドね〜」
なんだそれは。ちょっと悔しい。
最後までよくわからない会話をして、従兄弟と別れた。何か収穫があったわけでもないいつも通りのパターン。昔から何も変わってない。
……けれど、またなんとなく。
今日のタクミくんは、少しだけ朗らかだったなぁ……とか。
やんわり思ったり。
- 4 -
正確に言うなら血は繋がってない従兄弟。父さんの弟夫婦はお子さんができなくて、施設から男の子を引き取ったらしい。その当時私はまだまだ幼くて、施設なんてものが本当にあるのかということすらわかっていなかった。言葉だけでしか、その単語を知らなかったのだ。おかげで私は何の悪意もなく、どんなとこ?と聞いてしまった。それも自分の親にではなく、本人に。引き取られてきた子供の方に、直接聞いてしまったのだった。
「……なまえさん?」
外は雨が降っている。完全な予想外だった。
従兄弟が住んでるマンションの入り口で体育座りをしていれば、傘を差して従兄弟が帰ってきた。私服ということは、今までどこかに行ってたのだろうか。……学校、ちゃんと行ってるのかな。
「おかえり、タクミくん」
お土産持ってきたよ、と手に持っていた紙袋を掲げる。取手は既に、雨でよぼよぼになっていた。
***
「とりあえずシャワー浴びますか?」 「え、タオルだけでいいよ」
「風邪引いたら困るデショ?……それに、まだ帰りもしないんだろうし」
「………えへ」
従兄弟……タクミくんは。
テキパキと対処してくれた。流石独り暮らししてるだけあるなぁと思ったけど、その独り暮らしは喜べないことだからなんともいえない。私達とタクミくんには決定的な確執がある。結局埋めることの出来なかった溝が、今も深く存在する。
それでも叔父さん達は彼を放っておくわけもなく、定期的に誰かが連絡を取ったり、会いに行ったりする。そしてそれとなく近状を聞くのだ。私はタクミくんが独り暮らしを始めた当初は仕方ないかなと思っていたけれど、今はそんなに気にかけてるならまた頑張ればいいのにと思ってる。私の無神経は健在だ。
「タクミくんさー」
「はい?」
「学校、行ってる?」
シャワーから出て真っ先にそう言えば、タクミくんは一瞬気まずそうな顔をした。あー、こりゃ毎日ちゃんとは行ってないな。
「昨年留年したんだっけ?ってことは、今年も留年したら退学になんのかなぁ」
「………」
「あぁでも、一応自分で稼いでるんだっけ。なら確かに学校行かなくとも……いやいや、どうなんだそれは……しかし義務教育じゃないし……」
うんうんと唸っていれば、タクミくんは無言でただ見てきた。なんとなく困ってるように見えた。部屋着はニコちゃんなのに、本人とは真逆なのが面白い。というかさっきの私服との差がハンパなくて笑える。身長が高いからせいもあるかもしれない。タクミくんは色々意外性があって楽しい。
――あぁそう、意外性と言えば。
「タクミくん、普段はめちゃくちゃゆっくり話すんだね」
「………は?」
素で、完全に素で驚いたようだった。不意を突かれたのだろう。目をぱちくりさせていた。
「いやこの間ちょっとこっちに用があって来たんだけどね、駅周辺で…友達かな?同じ制服の男の子達と一緒にいるの見かけたんだ」
「…………」
「タクミくんは、あんな風に笑うんだね」
――ウヅキくんさぁ、オレにエビフライ奢ってくんない?あぁ、構わないがとりあえず今はキョウスケが作ろう。なんでだよ!
いやぁ、男の子の友情っていいよねぇ。楽しいわ。
思わず思い出してほんわかしていると、タクミくんは更に驚いたような、不思議そうな、観察するような……なんとも形容し難い表情で見てきた。いやさっきから常に見られてるんだけどね。
「……なまえさんってさぁ」
「ん?」
「前々から思ってたけど、それ、素?」
比較的気を抜いた感じに尋ねられた。珍しい。
しかし質問の意図がわからず首を傾げる。
「俺に色々聞いたり、そーんなに気にせず一方的に話すの、巳城の中じゃなまえさんだけだよ」
―――…一瞬、本当に一瞬。
タクミくんが、ひそかに笑った気がした。
……考えてみれば、最近では私がよくタクミくんの様子見に向かう。叔父さん曰く、「自分より君の方がタクミと話が出来る」そうで、叔父さん達とはあまり話さないらしかった。私としてはあまり彼と話した覚えはなく、よくわからない言葉だった。が、叔父さん本人が言うならそうかもしれない。時折私が既に知っているタクミくんの話を、叔父さん達は全く知らないということがある。もしかしたら私のこの無神経さが逆に、彼と普通に接しられてるということになるのかもしれない。
……まぁ、でも。
「じゃ、今小雨っぽいし帰るわ」
私達の距離は、いつも平行にして、比例している。
私が他人だと思えば、その分彼はきっと私を他人だと思う。私は彼を従兄弟と認識しているけれど、私は元々自分の家族以外の親族に家族意識は少ない。良くも悪くも思ってないし、かといって友人でも知人でもない。中途半端な立ち位置だと思う。タクミくんも、例外ではない。
そんなわけで、私は気にしないから普段通りゆっくり話せばいいのに。
そう思っても、やっぱりわざわざ言う気にもなれず玄関に向かった。
「じゃあ、またいつか。学校行く行かないはよくわかんないけど、とりあえずちゃんと生きるんだよ」
「はい」
「うん。じゃ」
我ながら素っ気ない。
特に脈絡も意図もない会話をしただけだったが、きっと叔父さん的にもタクミくん的にもこんくらいでいい。適当になんとかやれてるみたいですと報告すればいいだろうか。実際は、なんとかどころじゃなくちゃんとやってるみたいだし。
「あ、そうだ」
「?」
叔父さんにもう1つ、交流の機会を与えなくては。
「今度来る時は、エビフライ持って来ようか?」
「………なまえさん、作れるんですか」
「え、私が作んの?」
「多分、俺の方がうまいと思うケドね〜」
なんだそれは。ちょっと悔しい。
最後までよくわからない会話をして、従兄弟と別れた。何か収穫があったわけでもないいつも通りのパターン。昔から何も変わってない。
……けれど、またなんとなく。
今日のタクミくんは、少しだけ朗らかだったなぁ……とか。
やんわり思ったり。
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