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今日からあなたをライバルとします


 
―――悔しい悔しい悔しいあり得ない!相手はただの海賊のくせにそんなに本格的になんか学んでないくせに、なんで?なんなのこいつ、あり得ない、こんなのまぐれよ!


「あー…あのさ、君の料理も、すっげーうまかったぜ?」
「うっさい!話しかけないでよッ!!」
「………えと、」

一瞬だけ視界に写るリーゼント。思いっきり睨み付けてやる。相手はそれにまた怯んで困ったように頬を掻いて、ほんとムカつく。なにその態度!

――これでも毎日努力してきた。料理人になろうと決めたその日から、たくさんたくさんたくさんたくさんたくさんたくさん、努力してきたんだ。色んな勉強だって食材探しだって、必死にやってきた。アイデアのためにいっぱい色んな経験もした。修行もした。たくさんの人の料理を見た。学んだ。小さい頃からずっとずっと、そうしてきたのに。なのに、なんで、

「………あんた、名前は?」
「へ?お、おれ!?サッチだけど…」
「サッチね、覚えといてやるわよ!!」

この島にきて、やっと自分の店を開いて、軌道に乗ってきたところだったのに。今日突然島に来た海賊なんかに負けたなんて。私よりおいしいなんて。しかも修行してない?趣味?料理はみんなのため?笑わせないでよ、気持ちだけでこんなにおいしい料理を作ったとでもいうの?私が負けるほどの?そんなの、納得いかない。

「えーっと…ちょう今さらなんだけど、名前は?」
「なまえ。出身は東の海」
「なまえちゃんね」
「気安くちゃん付けとかしないでくれる?」
「………もう、おれはどうしたら…」

彼と一緒に店に来た二人の内一人が、うんざりした顔で私を見た。なにその目。パイナップルみたいな頭して、デザートの盛り合わせにでもなりたいわけ?もう一人は食事中なのに爆睡してるし、それじゃ料理が冷めちゃうじゃない。最低。海賊だからって贔屓するつもりはなかったけど、もう無理。イヤ。あんた達のせいで私のプライドはズタズタよ。努力も今までの経験も、全部打ちのめされた気分。何なんだろうほんとに。

「………おれが言うのも何なんだけどさ、」
「なによ」
「なまえちゃんの料理、すごくうまいんだよね。おいしいてか、うまい。上手。おれよりすげえと思う」
「…………」
「でもさ、思いやりがないんだわ」

………なにそれ。思いやり?だって料理は、おいしければ十分でしょ?おいしいものを相手に食べさせる、それこそが思いやりでしょ?私が間違ってるとでもいうの?
思わずもう一番睨み付けたけど、今度は相手も怯まなかった。


「君は、誰のために料理作ってんの?」


料理は真心って、知らないの?

頭に血が上った気がした。かっとなって、恥ずかしいような怒りのような、そんな気持ちが沸いてくる。
――修行した先で、いつも言われていた。お前の料理は誰よりもうまい、でも使えない、だめだ、大事なことをしらない、料理人失格だ。そう言われて何度も店をさ迷った。それどころじゃない、家を出る前からずっと。近所の人は私の料理を喜んだ。家族も喜んだ。でも、私の料理は疲れると。毎日食べたくはならないと、言っていた。ずっと、ずっと。
それが、気持ちの差だというの?

「………」
「や、図々しい話しだとは思うんだけどさ!こう、ね?やっぱ思われたほうが食う方もさ、おれのこと考えてくれてるんだなーって思うじゃん?嬉しいじゃん、そっちのほうが、お互いに!」
「…………」
「いやもうホントよ!?サッチさんホントになまえちゃんの料理うまいと思ったから!あとは好みだからさホントに!あ、やべちゃん付け……え、なんて呼べばいいわけよ!?」

わたわたと目の前で弁解される屈辱。さっきばっちり本音言ったじゃん。ハッキリしない人。最低。大嫌い。
…………でも、


「…………わかりました」
「え!?」


―――この人の料理は……おいしかった。


「サッチさん。いいえ、サッチ」
「お、おう!?」


「今日からあなたは、私のライバルです」



店を畳もう。いいや、休業?ううん、後で考えよう。
荷物を纏めて頭をまっさらにして―――彼らの船に、乗り込んでやる。



はぁ!?という声が遅れて、辺りに響いた。
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