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 ──ばちん!

 目が覚めた。こんなにハッキリと、微睡みもなく目が覚めるのも、もう何度目だろう。

 (……タイムアップ……)

 ジリリリと未だにけたたましく鳴る目覚まし時計を手にしたまま、なんとなく止める気にもなれず項垂れる。
 タイムアップ。時間切れ。勿論それは、朝起きるのやだなぁ寝ていたいなぁという意思からではなく。……確かにある意味合ってはいるけどそうではなくて。
 彼らの船に居られる時間が、カタクリくんの情報集めタイムの上限が、超えてしまったという意味。

「何も掴めてない……!」

 ちくしょー、ほんともどかしい!
 一人暮らしなのを良いことに、声に出して唸った。本当は二度寝したいし、眠れなくてもこのまま布団の上でぼんやりと頭を整理していたい。だけどそうも言っていられないのが学生。無理矢理にでも起きて、まずは大学に行かなきゃ。
 布団から足を出せば、少し冷たくなった朝の空気にぶるりと鳥肌がたった。余計に動きたくなくなる。しかし、余裕を持って起きているとはいえ、時間は無限なわけじゃない。めんどくさくっても学生である以上は義務を果たさなきゃならないんだ。
 と、これまた声に出して自分を奮い立たせた。

 ……義務、かあ。
 いつも何とも思わないその言葉が、少し引っ掛かった。




「えー、前回も言いましたが、今日は法律について少し触れるのでね。授業の本筋とはずれる、まぁ蛇足なんでね。適当に聞いてください」

 ざわざわ騒がしい教室の中で、教授のマイク越しの声だけが異質に広がる。日常生活ならびっくりするはずのその大きな音も、慣れてしまえばBGMだ。私も周りの生徒も、教授の声を静かに聞き入る様子はない。とてもゆるい教授で、とてもゆるい授業なので、教授もわざわざ話し声を注意する気は無いみたいだった。
 かくいう私も、そんな教授の甘さに胡座をかいて、申し訳程度に教科書を開いているだけ。用意したルーズリーフには一文字も授業の内容なんて書いていない。
 ルーズリーフに箇条書きで埋めた文章は、呆れるくらい、現実とは異なった問題で。

 (カタクリくんは鍛練が好き……ペロスくんやダイフクくんも鍛えるのが好き、と)

 カリカリと書き進むシャーペンに苦笑する。書くほどの情報ではないし、果たしてこれは、メモして何になるんだろう……。思いながらも、ついシャーペンを動かしてしまう。
 役に立つかまだわからないけど、夢は目が覚めたら忘れちゃう時だってあるし、メモするに越したことはない。うん、たぶん。きっと。
 というか、と小さく意気込む。──それならもういっそ夢用のノートを作るのもありかもしれない。
 今までもたくさん夢を見ているし、なんだかんだあの夢を見る回数も二桁に入っている。意外と考えることも感じることも多いし、もしかしたらこれからも続くのかもしれないし。……うん。いいかもしれない。日記をつけるようなものと思えば。……つ、続くかは、置いておいて。
 まぁ、それはまた改めて帰りに考えるとして。
 頭を整理する。

 (……『国が安定してない』って、言ってたな) 

 昨夜見たばかりの夢を思い出す。今回の夢で一番気になったのは、ペロスくんが言ったその言葉だ。
 国、という言葉で連想できる情報は、今のところ全然ない。強いていうなら……未来のカタクリさんがいたあの大きな建物を、私は『城』だと思ったということ。
 安直に繋げれば、彼は将来偉い人になって、あのお城──つまりどこかの国に、勤めるということだ。
 それなら、幼いうちから属していてもおかしくはない。

 (あと、気になったのは)

 ──『ブリュレ』。
 ダイフクくんが他の妹や弟が、と話していた流れで出てきた子。だからきっと、きょうだいであることは間違いない。
 その『ブリュレ』──ちゃん、もしくは、くん──が、怪我をしてるって言ってたことは。もしかして、だけど。

「…………」

 平和に生きる現代っ子としては考えたくない。けれど、今気になっていることを結びつけ、シンプルに辻褄を合わせてしまうと。……一つしか、連想出なかった。

 (──戦争でも、したのかな)

 途端、ぐんとみぞおちのあたりが重くなった気がした。
 机の上に置いていたペットボトルをあけ、一口含む。深く息を吸いながらぼんやり教室を眺めると、相変わらず誰も聞いていないのに話し続ける教授が目に入った。つい、笑みが溢れる。
 もう一度メモに向き合い、さっき出した仮説を書き込む。
 『戦争?』と書かれた文字は、我ながら小さく頼りない。

 (……だってもしそうなら、軽く言葉に出せるものじゃないじゃんか)

 ダイフクくんを追い掛けて行った時のペロスくんの様子だって気になったんだ。ダイフクくんはペロスくんから逃げるためにもっともらしいことを言っただけとも思えるけど、だからといってあながち的外れな言い訳でもないんだろう。そうでなきゃ、ペロスくんが引き下がったはずがない。

 でも、辻褄が合わない部分だってある。私が見たあの旗の真偽。彼らが本当に『海賊』だったとして。
 その場合、戦争とか、戦うのかなっていうのはなんとなく納得出来るけど、『国が安定してない』っていうのはどういうことになるんだろう。
 どこかの国に住んでいたけど追い出されたとか。それで海賊になった?逆賊?……うーん、難しい。

 (……あ〜〜、もう……)

 机に突っ伏して息を吐く。
 ──ほんと、大丈夫かな、私。このまま踏み込み続けて平気なんだろうか。
 きっとペロスくんもカタクリくんも、考えている。子供ながらに、私が知らない何かを。
 もしかしたら私の生きてきた人生より、よっぽど重い事案なのかもしれないのに。本当に、ただカタクリくんを知りたいからという理由だけで、良いんだろうか。踏み込んでも。

 ……不思議で違和感がある夢であるということは一旦置いておく。と、決めたことは今は忘れて。

 (──夢の話。だから)

 頭の中で呟く。
 この、大学でぼんやり授業を聞く学生である時間くらいは、自分を励ますために思いたい。所詮は夢だって。
 あんなにリアルで、私の意思なんて関係ないような空間だったとしても。
 どこにも現実に存在しない、幻なんだから。って。

 (……なんて。思い込み切れたら、苦労しないのになあ)

  苦笑する。トキちゃんに真面目に話していた段階で、もう遅過ぎる問いだったな。
 今更どうこう迷うのも変な話だ。始めたことはちゃんと終わらせたいとは思う。なら、私が今考えるべきなのはカタクリくんへのアクション。次、どうやって彼に話しかけるかだ。

 ──少し、頭を整理できた。
 帰りに日記帳を買ったら、喫茶店にも寄ろう。


「──……はい、まぁ、そんなところでね。本当に授業とは関係ないんですけどね。まぁたまにはね、息抜きしないと私も皆も疲れちゃうんでね」

 (……ほんと、すっごく、わかります)

 最後しか話聞いてなくてごめんなさい。来週はちゃんと聞きます。授業を終わらせようとしている教授に肩をすくめた。

 息抜きをしてまたスタートを切れるなら、何度だってした方がいいって、私も思うから。
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