病膏肓に入る|マーリン
2020.0319~2020.0623



title&character


*title
病膏肓に入る…病が重くなること。熱中して抜け出せないこと。

彼女はマーリンに救われ、恩によって偏執し、マーリンは彼女に興味を持ち、愛によって異変を許容し続けました。二人の思いに終わりはなく、暗く深い闇に沈むしか道はない。それは病のように二人を蝕みました。

*character
・プロフィール
ブリテンに平和をもたらした賢人。マーリンの天敵にしてモルガンの友であり、魔女として死を迎えた聖人。

・経緯
人の域を超えた能力を持つせいで迫害に遭うが、天啓を得て故郷を離れる。そして各地を旅しつつブリテンに到着。超人と魑魅魍魎が跋扈することに感動し、城に突撃する。

どうやってこの人が誕生したかというと、色々あった変遷をまとめれば

ブリテンを生きる人とマーリンの話が見たい!円卓の悲劇を何とかしたい!
→じゃあカリスマ持ちの策士にしよう!
→そうだ、マーリンの天敵にしちゃえ!
→じゃあガードが固い聖人、魔術が効かない魔力タンクだ!

……というわけです。

しかもただでさえ才能も秘密も抱えてるのに、書いてると設定が生えてくるんですよね……たまに良いのもあるんですけど……。でも長編は整合性あってのものなので、確認・修正には苦労させられました。そのうち加筆修正したいけど……いつになるかなぁ。

プロットを考えるにあたり没案にしましたが、
・不死の師匠が殺害を条件にマーリンに魔術を教える話
・猟色好きのマーリンに惚れられた聖人が逃げ回る話
とか考えていました。結構名残がありますね。


特異点 Camelot


神に誓って、私はあなたを幸せにします

01
盲亀の浮木…非常に珍しいこと

彼女の召喚、特異点の異変を意味しています。
一人称だと盛大なネタバレになるのでカルデア視点で話を進めました。そしてご対面。初対面で得た印象による先入観って大きいので、彼女の異質さ、異様さを強調しています。
一方マーリンは眠気が吹き飛びました。ちょっと目を離した隙にとんでもないことが起きてる、と。

02
命は天に有り…運命を決めるのは人間ではなく神

最終話でちろっと書きましたが、彼女の生き方は天啓の影響を大きく受けています。

03
叩けよさらば開かれん…迷わず行動すればおのずと道が開ける(新約聖書マタイ福音書七章)

立香とマシュのことです。もしここで自分の気持ちに従わず、ファラオに対して下手/上手に出る、聖地の人間に取り入ろうと彼女を敵視する、などの行動を取っていたら、聖杯を通して全て知っている彼は協力しなかったでしょう。特に彼女を敵視してたら詰みます。まず言霊の効果をあまり受けていない聖地のサーヴァントを味方にできず、サーヴァントを味方にしないと円卓が寝返らず、もしカルデア勢力だけで円卓を制し彼女を倒せてもマーリンが興味を失い、マーリンに失望されると第七特異点でキングゥに殺され、逃げ延びてもティアマトを倒せず、もしマーリン抜きで時間神殿まで辿り着いても円卓が応援に来てくれないので詰む。来るとしてもロンドンの縁があるモードレッドだけかも。
むしろこのマーリンは感情がある分「死なずにいてくれるなら」って魔術王側につきそう。グランドキャスター二人(片方は人類悪)とか汎人類史のサーヴァントで勝てるの……?フォウ君寝返ったりしない?人類悪おかわりする?
サーヴァントには言霊の影響が小さい理由は対魔力で対抗できたのと、彼女が「カルデアが到着する前に彼らに突入されるとシナリオが崩れる」と判断したからでした。01でカルデアの前に現れたのは、第一関門であるオジマンディアスとの対面に合格できるか見極めるためです。ここが突破できなければ先に進めませんから。

04
生簀の鯉…死ぬ運命

彼女は最初から消えるつもりでした。
やんわり書いていますが、市民に刺された後は四肢の欠損や内臓の損失が起きています。墓を建てたのはアルトリアの優しさと後悔によるものでした。すぐに荒らされてしまいましたが。

05
小田原評定…いつまでも結論が出ない会議・相談

ハサン三人とマスターとマシュの会話。
静謐の毒が効いたのは魔力が尽きかけていたからです。

06
地獄の一丁目…非常に恐ろしい場所、破滅の第一歩

場所はアトラス院を、後者はダ・ヴィンチちゃんがテクスチャに気づいたことを表しています。

07
犬も朋輩鷹も朋輩…同じ主人に仕えるなら、身分の差はあれど仲間である

マスターを共にするなら仲間だということを示しています。

08
躓きの石…障害、罪に繋がる物(ヘブライ語聖書)

召喚された彼女に人間らしい感情と呼べるものはありません。カルデアに親切にしたり円卓を気遣ったりするのは体に染みついた習慣みたいなもので、わかりやすく言えば「学習機能を失ったAI」です。過去の動作を適切と思われる場面で繰り返すしかできないので、自分の終わり方に疑問が生じることはありません。

09
煙競べ…思いの深さを比べること

ようやく本音が交錯した回。マーリンも彼女も円卓も、種類は違いますが皆誰かのことを思っていました。
ベディヴィエールが「彼女にも非はあり」と言っていたのは「説得できなかった件」のことです。そしてブリテン崩壊後にマーリンと話す機会があったので「マーリンも思うところがあるようなので」とモードレッドを諫めていました。でもモードレッドのように怒りたい葛藤をこらえて言ったのかもしれません。
それにしてもマーリンが報われない。無言のうちに好きにはならないと思い知らされていたら、会いたくないと思っても仕方ない。でも会わずにいると会いたくなって足が動いてしまう。……これも封印した理由の一つかもしれません。「残酷だな、君は」という言葉が出ててきたのは、そういう意味もあったのかも。

心の譲渡、なんて常軌を逸した作業をあっさりとチープな感じで終わらせたのは私の技量もありますが、その後の失恋とのメリハリをつけたかったのと、解決策の単純さの強調が理由です。人間ってたった一言が言えずに悩んだり後悔したりしますが、マーリンも同じでした。一音ずつ発音することはできるのに、言葉として意味を持たせると途端に言えなくなってしまう。まして変わらないとわかっていれば……。でも秘め続けるにも相当な覚悟が必要ですし、それが1500年続いたとなれば生半可ではありません。


過去編 Britain


私に幸せを教えてくれないか

上司が女体化した件
エクスカリバーは怒っていい。そしてほっこり終わらせてくれない夢の中。マーリンは花びらを目で追う彼女に「私は見てほしいけどね」と言います。でも「説得できなかった件」でベディヴィエールが見抜いたように、眼中にないわけじゃなくて隠していたんです。態度だけ取り繕っても普通はバレてしまいますが、彼女にはモルガンの魔術すら弾く魔力があるので隠し通せてしまいました。
マーリンが一貫して遠まわしな言い方をするのには、いくつか理由があります。まず「激情に縁がなく、あまり強い言葉や命令形を使わないから」というのが一つ。二つ目は「感情を得たマーリンなりにじれったい状況を楽しんでいるから」。もう一つは「いつかブリテンを去ると思っていたから」です。彼女にとって天啓は絶対の存在であり、ブリテンから離れたくなくても、後悔するとわかっていても声に従い去るでしょう。だからマーリンは言葉にしませんでした。

息子の職場が面白い件
気づいてた男、トリスタン。09で「惚れてなければ嫉妬もされませんよね」と言ったのは、このことを思い出していたからです。可愛い子が待っていると言えばいいという提案に「(マーリンにとって)可愛いレディ……」と主人公を見ましたが、相手にされませんでした。千里眼で見てるマーリンが不憫。しかもようやく来てくれたと思えば別の女を薦められる。
これ以降マーリンが主人公を嫉妬させようと女性を渡り歩くことはなくなります。彼女には既に「マーリン=女好き」のイメージが定着していますが。

エスコートすると視線を感じる件
少しはマーリンにいいことがあってもいいのではと思ったんです。でも抱きしめることさえ許されなかった。そう簡単にはこけないからね。
そこでマーリンは井戸に落ちないよう透明のフィルターをかけていたので、自前の足でエスコートしました。腕を使えって感じですが、ツッコミどころがあって結構気に入っています。あと足癖悪いといいなっていう願望です。
そしてやっぱり漂う不穏な影。彼女よりマーリンの方がトラウマに敏感です。まあ破滅が目に見えているブラックボックスに触れたがる人はそういないですし。
「なんて巧妙な罠なんだ……」「今回のは自信作ですよ」ここでもすれ違う二人。

父上がやたら自分に厳しい件
会話数ではモードレッドが一番登場していましたが、一貫してモルガンの呪いの髪飾りの話でした。マーリンからすれば「何してくれてんの」と思ったでしょう。あるいは贈り物を身につけてもらうという発想もなかったので、してやられたと膝をついたかもしれません。そんな状態で彼女がモルガンに会いに行こうとしたので当然ついて行きます。魅了に反応するのはもうお約束です。でもモルガンが自分の陣地にいたために油断していたので、呪いの破壊(髪飾りごと)に成功しました。多分このあと自作のプレゼントを贈ってつけます。
この時点でモードレッドは「やけに気に入ってるな」程度に勘付いています。それ以上はブリテン崩壊後、隠遁生活の中でアルトリアとモルガンから聞いて「元凶マーリンじゃねーか!」となるわけです。
彼女がモードレッドを気にかける理由としては、ブリテンを存続させるため、アルトリアの心労を減らすため、モルガンの手足を奪うため、モードレッドと仲良くなるため、などがあります。でも過去の経験と人より優れている自覚のせいで友達のような関係にはなれません。友達ポジはモルガンがかっさらって行きました。
モルガンが彼女を気に掛けるのは自覚している理由(敵対視しているマーリン・アルトリア絡みの恨み)もありますが、根本的には同族嫌悪です。

説得できなかった件
ピクト人って意思疎通できるの?という素朴な疑問により、なかなか筆が進みませんでした。ある意味難しかった回です。
副題をつけるなら「悪魔はどっち?」です。現代の倫理的にはアウトなことをしかけて悩む彼女と、そのままでもいいと甘言を吐くマーリンはなんと言うか……抜け出せないよなって感じです。
でも書いてる時は「ベディヴィエールの逆転裁判」がテーマでした。ベディヴィエールは彼女から約束のことを聞いていました。そして目の当たりにする明らかな異変。08で「主人公にも非はあり〜」と言っていたのは近くで見ていたからです。そこで今回主人公に説得を試みるのですが、今の自分では変えられないと知り諦める……はずでした。無力を悔いつつ一歩遠くから見守るしかできないポジションになるはずでした!
でも腹の虫じゃびくともしないカッコよさ。もしマーリンが主人公に興味を示さなかったら、そもそも出会ってなかったら、ベディヴィエールと恋仲になる未来もあったかもしれません。核心をつく話とはいえ、削ってなければ最終話より文字数が多くなっていた……。
というか彼女の原案がえげつない。カットするか迷いましたが、あくまでフィクションですし、この方が悲惨さというか取り返しのつかないところまで変わってしまったのが伝わるので書きました。10でマーリンが「身代わりになった」と言っていたことに説得力も出ますし。

病死した件
ギネヴィアの幸せ家族計画。ギネヴィアは原典見る限り結構常識人な感じなんですけど(ランスロットが意図せず手酷くフッた女性を憐んで「それはちょっと……」って言うくらい)、でも恋は盲目って言うからね。
死亡偽装を知るのは彼女とマーリン、ランスロット、アルトリア、モルガンです。隠遁生活でモードレッドが加わる。モルガンには口封じとして彼女が呪いをあっさり引き受けて、マーリン対モルガンの第二次魔術戦争が勃発してたかもしれません。
ギネヴィアについては完全に想像です。これで「魔術で傀儡になってた」とか「メディアよろしく魅了がかかっていた」だったら削除案件なので、こちらもある意味筆が重かったです。


後日談 Initium


今度は彼女の幸せを
カルデアと円卓の後日談。ガウェインはあまり関わっていませんでしたが、だからこそ疎外感があったのかもしれません。ランスロットにも秘密にされてたので。ベディヴィエールは……はい。

最初はこのタイミングで召喚される展開を考えていました。でもこの作品では時間神殿で英霊が集結することを考慮し「レイシフトするのはマスターとマシュだけ」というスタンスだったので、彼女は召喚されても第七特異点に行けず、カルデアで待機することになります。つまり円卓との和解が先で、マーリンとはモニター越しに再会するわけです。
でもそれじゃ味気ないし、多分この世界線だとマーリン(本体)がカルデアに来ちゃって最後の戦いに間に合わなくなる。キャメロット編同様に渋るので来てもしばらくは隠れて様子を見てると思いますが、カルデアから行くとなるとティアマト攻略は無理。破滅確定ルートはハッピーエンドじゃない!と思い却下しました。
第七特異点後であれば問題なく会えますが、すぐ時間神殿に突入するからほのぼのしていられないだろう、ということで元から却下。

ここから始まるハッピーエンド
彼女とマーリンの後日談。

カルデアじゃないならギルガメッシュかマーリンしかいない。じゃあもしギルガメッシュに召喚されてウルクで戦うとなると……ふむ。マーリンの反応が楽しみだし、キングゥの新人類論を指摘してほしいし、言語が通じないラフムやティアマト相手に彼女がどう戦うのか見てみたい。そのまま時間神殿でゲーティアと論争してたら面白い。
でも時系列的に第六特異点と同時召喚になるけど、既に召喚された体にも記憶が追加されるのか?座に時間の概念はないのでは?霊基消失の描写は?ソロモンが封印解いた後じゃないと召喚できないけど、一人だけ召喚のタイミングがズレた理由は?和鯖じゃない理由は?……と疑問尽くしだったのでやめました。こんなん頭が破裂する。

じゃあマーリンが召喚した場合どうなるのか。本来座にいた彼女は、ずばり、最終的に座に還ります。まず抑止が映像を送りつける。そして唯一相対する存在であるマーリンに千五百年分の罪悪感を抱えます。ましてサーヴァントは魔力さえあれば消滅しません。過酷なブリテンに理想郷を見た彼女にとって、アヴァロンは悠久の甘い地獄と化します。
この未来では自分のせいで苦しむ彼女を見ていられず、魔力パスを切って座に還します。そして自分すら召喚できないよう完全に封じます。もしかしたら自分の記憶も消すかもしれません。
個人的にはこういう終わり方も好きです。ハッピーエンドを好んでいながら一番大切な人にはハッピーエンドを与えられず、英雄作成を得意としていながら彼女のことは弱体化させてしまった。物語としてはこういう皮肉が効いてるの好きなんです(オスカーの『幸福な王』とか好きな方は共感できるかもしれません)。
でも病膏肓に入るを書くにあたって「最後は幸せに」という強い衝動があったので、そこは貫こうと他の道を模索することに。その結果が抑止との契約でした。でも彼女ならそのくらいやっても違和感ないんだよなぁ……。

タイミングとは別に、特異点のことを覚えていないというのも一つの案でした。一話で収まりきらない予感しかしなかったので採用しませんでしたが、記憶喪失っていいよね。ここで語るのは控えますけど。

もう一つ、FGOでは平行世界のベディヴィエールがその忠誠によって座に登録されましたが、同じように「感情を返された彼女をカルデアだけが召喚できる」という展開も考えていました。人理修復が終わるまでの、まさに夢のような一時。under the same skyで言う「いつか終わるから、この瞬間が美しい」です。もっと(マーリン的に)幸せな終わり方にしたかったので採用しませんでしたが、これはこれでいい文明だと思います。

アヴァロンに行けたのは空の聖杯が触媒になった(最後耐えきれず壊れた)のと、抑止の計らいです。幸せになれよ、的な意味ではありません。芋づる式にグランド(の資格を持つ)キャスターを動かせる餌になってくれてありがとう!という意味です。でも彼女を酷使するとマスターがブチ切れるからほどほどにせざるを得ないっていうジレンマ。

タイトルのinitiumはハッピーエンドの始まりを意味しています。finisの対義語で、カルデアでは召喚されないこともかかっています。

というわけで、第六特異点後どうなったのか、その後日談がinitium編でした。長い長い時を経て、ようやく二人のハッピーエンドが始まります。


あとがき p.s.


この小説が生まれたきっかけは「世界を巻き込んだ痴話喧嘩が見たい」でした。だから特異点の話から始まって、キャメロット編だけで終わりにするつもりだったんですが……書きたいことが増える増える。
最初は回想みたいに過去編を挟んで「主人公はこういう人なのか」と理解してもらいつつ話を進める予定でしたが、際限ないので分割しました。一応ブリテン編を先に表示する手も考えましたが、ここはカルデアと一緒に謎を解いてもらおうと今の順番に。その影響でいくつか省略した部分もあるのですが、その辺はそのうち補完したいです。そのうち。
書き始めた頃はまさか完結を迎える日が来ようとは思ってもみませんでした。まあこの感慨はどうでもいいので飛ばしまして、完結できたのは公開が一番の理由でしょう。初めて拍手も感想も頂いて、ありがたい話ですよ。自分しか読まないってわかってると書く時間を取らなくなるんですよね。妄想なんて自分の脳内で事足りますし。実際そのせいでサイト設立から公開まで一年空いた挙句、予定してた長編も一話二話で放置っていう。ほんと笑っちゃいます。この長編も拍手がなかったら凍結してました。

さて、この物語はマーリンの幸せを見つける話でした。1500年ぶりの再会から始まり、過去を振り返り、やっと幸せを手に入れる。最後はハッピーエンドにすると決めていたとはいえ、過程が険しかったですね。キャメロット編は言わずもがな、ブリテン編の希望のなさよ。難題が解決する一方で主人公の様子はおかしくなって、マーリンはちっとも報われず、破滅の日が着実に迫ってくる。明るい裏で仄暗い未来が見え隠れしていて、書きながら「やめてくれー!」ってなってました。グッピーが死ぬってやつです。
それにしてもマーリンが不憫。特にブリテン編では少しくらい甘酸っぱい思い出があってもいいんじゃないかと応援していました。でも非情になって焦る主人公を受け入れたり、個人的な理由で座に介入したり、ろくでなしの部分が致命的なんですよね……。それで一人だけ幸せになるなんて虫の良い話はありませんでした。まあinitiumで全て清算したので、後は存分に熱い愛をお届けしていることでしょう。

序盤は恋愛要素皆無なので最後まで読んだ方は少ないのではと思います。こんな長い解説&あとがきを読む人はもっと少ないでしょう。タイトルだけ読んだ!って方がいても驚きませんよ私。だからこそ言わせてください。

ここまで読んでくれた貴方に、感謝を。